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2008年4月

イラスト『晴彦とカイト』

ひさびさのイラストアップ。
私の創作BL小説のキャラクタ〜晴彦とカイトです。

searchクリックででかくなります。

Photo_2



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空へ羽ばたかない動機

そいつを見て感じる嫌悪感は、今も前も変わらない。
そして多分それは、そいつが持つ僕に対する感情もきっと同じなんだろうと思う。

「なんとか言えよ ほんとイラつくなお前」

アサヒの足下へ転がっていったバスケットボール、それをアサヒが器用につま先で蹴り上げて片手の平に乗せる。

「こんなのは」

そう言って、僕よりも遥か後方からアサヒが投げたボールはダンッという大きな音の直後、リングの真下に吸い込まれていった。

「簡単だ」

それを見届けて、黙りこむ僕の傍らにアサヒが近づいてくる。
長身から見下ろして、呆れたようにクッと笑う。

「お前のせいで…オレのプランは台無しだ どうしてくれんだよ?オレこんな田舎に転校してきた意味全然ねーじゃん」
「そんな事…僕に言われても」

その僕の不用意な一言がアサヒの導火線に火をつけることになってしまった。
さっきまで、不敵といえどうっすら笑みすら浮かべていたアサヒの表情が一変する。
冷たい、逆に無感情ではないかと思うような

でもそれに気付いた刹那、僕の身体はアサヒの拳で思い切り床に叩き付けられていた。
倒れた拍子で、ブレザーから携帯が落ちる。その携帯をアサヒが僕の方へ蹴った。

「呼べよ… 鷹木だっけ? 1分待ってやる…お前を守ってくれる愛しの王子様を呼べよ!」

まただ…僕に対するアサヒの理不尽な暴力…
それにやり返す事も逃げ出す事も出来ない僕の不甲斐なさ…

アサヒが僕の携帯を拾って、まだ起き上がれない僕の鼻先に突きつけた。
「かけねーの? 一人じゃなんにも出来ねーくせに! 今更格好つけてんじゃねーよ!」
(なんにもできない?)
(ぼくは…ぼくだって 精一杯…)

「1分たちました」

アサヒが僕の襟を持って無理矢理立ち上がらせ、もう一度殴る。
そのまま、また殴られて、突っ伏した腹を何度も蹴られた。
咳き込んで、喉の奥から血が上がってくるのが分かる。

「僕は可哀想です?僕は辛いんです? だからどうか気の毒な僕を助けてくださいって… テメーが世界で一人不幸だなんて顔しやがって!!」

早く終わらせてくれ。
好きなだけ殴って、さっさと僕の前から消えてくれ。

「そんなぬるいお幸せな馬鹿につきあって…なんでカイトが退学しなきゃなんねーんだよ!!」
「ぼくは …しあわせ なんかじゃ ない」

勝手に口がそうしゃべる。
口元がキレて思うように開けず、鋭い痛みが同時に走った。

「お前、家あるよな?誰がお前の為に飯作ってんの?誰がお前の為に寝床用意してくれてんの?カイトの奴だってそうだよ… あのクソ過保護な鷹木って奴だってそうだよ! お前のまわりに居るお前を守ってくれる人間の苦労に気付かないで、なんで不幸だなんて言えんだよ!」

苦労?………


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ポイントゲッター

2年の新しい教室 カイトの席は一番後ろの窓際の席…
今は誰の物でもないその机に午後の夕日が差し込んでいる。

堂々と居眠りをしたり、外をずっと眺めていたり、意外に授業を真剣に聞いていたり…
今僕が気付いた事は、僕が意外にもカイトの様子を見ていたという事だ。

無意識に、
カイトを見ていた?
だからといってその時何を思ったわけでも感じたわけでもないんだ…

でもまるで今もカイトがそこに座っているかのように、まざまざと浮かんでくる記憶

カイトがそこに座って
僕の視線に気付いて
破顔一笑 

(なにをかんがえてる?)
(ただそこにいないってだけだろ?)

「あいつさ〜 結構面白い奴だったよな〜」

いつの間にか僕の脇に草壁が立ってた。
「前はさ なんかムカつく感じだったけど…意外にバスケとかは真面目にやってたしさ 居なくなっちゃってオレらも寂し〜つーか ま、ポイントゲッターだったわけだし」
「そう……」
「柏原もさ〜あんま気を落とすなよな ほら、オレも居るしさ〜」

「僕が?」
(気を落とすって…?)

「あ〜あ 高2ってのが一番楽しいんだぜ? 馬鹿だよな〜 あ〜あ」

今週は学習週間で部活はすべて休み
僕は一度帰りかけて、もう一度戻る。

そこはカイトがいつも居た体育館… 当然今日は誰も居ない。
誰かが片付け損ねたバスケットボールが一つ転がっていた。

(なにをしに戻ったんだ? カイトはもう此処には来ないぞ 多分 永遠に)

ここで僕はよくカイトを見ていたっけ。

神無月祭の時も、バスケ部の練習の時も、試合は少ししか見ていないけど…

ああそうだ

ここキスもした。

抱き合って、ドキドキして、少し怖かったけど…

カイトは格好良かった。

僕はカイトが大好きだった。

けんかもしたけど
僕はカイトが大好きだったのに……

この広い体育館で、もう会えないカイトに会いに来た僕は、ただ ただ言葉が欲しかった。
自分勝手に僕が救われるような言葉をカイトに言って欲しかった。

ボールを取ってバックボードの正面にたつ。

カイトがそうしたように
カイトをまねて構えてみる。
『ポイントゲッター』、その姿。

芸術的なフリースロー カイトの無駄の無い美しいフォーム その一瞬に見せる真剣な眼差し

僕のシュートはリングをすべってその脇に落ちる。バウンドする音だけが体育館の中に響いた。

動けない
僕はここから動けない

(お前が失った物はなんだ?)

「なにしてんだ? お前」

突然誰かの声がして、それが一瞬、僕が望んでいたそれに聞こえて
僕は思い切り、その声の方向へ振り向いた。

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別れの言葉すら残さずに

まるで猫の爪で引っ掻かれたかのように、珠子につねられた鼻がヒリヒリする。
おかしなことだけど、身体のどこかが痛いと思うなんて久しぶりだった…

(雲一つない、青空……)

『台風女』

以前、僕は珠子の事を台風みたいだと思ったことがあった。

突然やってきて、散々引っ掻き回して、一過の日差しを残して笑いながら去って行く。
(痛いのは生きてる証拠…)

じゃあ胸が痛いのも?

『そうよ』

もう屋上には居ない珠子がそう答えた気がして、僕はふと…彼女から渡されたレモン色の栄養補助食を見る。

「僕は どうしたいのだろう……?」
自分でも考えてもみなかった事を呟いて、そして戸惑った。

それを食べたお陰で、午後はいつもなら気付かなかったような事まで気がまわってしまった。
逆に言えば、普段いかに僕がぼんやりしてるかという事かもしれないのだけど…

廊下から何気なく見下ろした、校門への並木道へ入る門柱の辺りに、カイトらしい後ろ姿が見えた。

あれ… と思い教室へ入りその席を見るとやっぱりそこにカイトは居ない。
そっとアサヒを見ると、アサヒは黙ってテキストらしいものを読んでいる。

サボるのかな?
別に珍しい事じゃないし、それを僕が気にする事じゃ無い。


でも、その後ろ姿を見たのが最後

カイトはずっと学校には現れなくなり

4月もそろそろ終盤にさしかかるという頃

朝のHRで、僕はカイトがこの高校を退学したという事を聞いたんだ。

僕に、別れの言葉すら、残さずに……… 

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屋上の珠子

「めずらしいじゃない? 今日は屋上お一人様?」

昼休み、僕は何をするでもなくただそこに座っていた。

声をかけて来たのは珠子。 «西園寺珠子» 長い黒髪が風にたなびく。

「これあげる」
「え?」

珠子が僕に向かって何かを放り投げたのをおもわず受け取る。四角い栄養補助食品みたいな…

「黄色の〜note その位入るでしょ?」
「レモン味………」
「結構いけるのよ あたしのはキウイ味 頭にも糖分入れなきゃね…」

屋上の手すりに珠子が寄りかかる。
僕は渋々そのレモン味を開けた…嫌な予感がする…サクは珠子に僕の事を色々しゃべってるんじゃないだろうか?

「やだ あたしに何か言われやしないか不安だって顔ね? ドキドキしてるんでしょ?」
「し、してないよ!… 別に」
珠子がちょと意地悪そうに笑う。

「夏目カイトだっけ?あいつも酷い奴よね〜? 恋人の前で堂々と男とキス」

やっやっぱり!! サク!!!

「別れて正解よ〜 あんな«ろくでなし»!多分まともな人生送らないわね?良かったじゃない?いいきっかけで…所詮あたし達とあいつじゃ世界が違うのよ」
…………
「あたし聞いたのよ あいつが非道い不良だったって話、この高校だって親のコネで入ったって…あはは、そりゃそうよね!あんな前代未聞の成績でここに合格するわけないものね!」

「……カイトは ろくでなしじゃないよ」

口が勝手に動いた。でも我ながら…かすれたような消え入りそうな声だった。

「違うわ! 悪いのは全部、夏目カイトよ!」
「そうじゃ無い… 僕が 勝手に… 期待しすぎただけで」
「恋人に期待するのは当たり前じゃない!最低最低!不幸になればいいのに!!」

なんだか珠子は、まるで自分がカイトにそうされたかのように憎しみ全開でカイトをののしった…
それがなんだかあまりにもカイトに対して可哀想な気がして、つい反射的に答えてしまう。

…… 僕が 誰かを 可哀想 だって?

「嫌だよ… 不幸だなんて」
カイトが不幸になるなんて 嫌だよ……それだけは、そう思う……

「どうして? ユキ君が辛い思いをさせられたのに」
「…わからないけど でも…」

それはいやだ…

「でも? どうせ自分のせいだから? だめよ そこに戻っちゃダメ…」

珠子が手すりから離れて、僕の前に膝をつく。膝をついて珠子の白い手が僕の鼻をおもいきり掴んだ!

い…痛っ!
「ちゃんと食べて、ちゃんと自分で考えなさい!! 怒ったっていいじゃない!憎んだっていいじゃない!…そう思う醜い自分が嫌だからって、人任せにするのが一番悪いわよ!!」

「ちょっ!…ちょっと 鼻 イ タ い!珠子っ!」
イタいのは生きてる証拠よ!!

なんで珠子が僕に怒るんだ?

なんで僕が怒られなきゃなんないんだ?

父さんだって母さんだってサクだって、カイトだって、…先輩だって 誰も僕を責めたりなんかしないのに…

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BLDVDの感想とか…(サク)

最近見たBLのDVDについて…shineBL小説記事ではありません。

去年発売されたと思われるDVD、その名も「劇場版BOYS LOVE」!!
友達に観たいなら観れば〜とお借りして、休日こもって友達の家で観させてもらう(笑)。

ちょっと前に観た別のDVDで、実写も萌えね〜とややはまり気味腐女子happy02
最近の男子は奇麗な子が多いのね〜脇までほぼ美形。 目の保養shine 

しかもサービス的なのか、なんなのかやたらに風呂場のシーン多し、尻丸出し多し…(この辺は特に萌えませんでした なんだろ?なんか尻出し過ぎ)。

で、ストーリー。(こっからはネタバレ入りますよ〜 ご注意)

恋人(おそらく♀)からふられ、やけっぱちで超絶美形男子高校生の『空々』と一度の関係を持ってしまった教師『蒼井』。
この蒼井先生が…作中のなんと半分以上を、転校生空々との関係が学校にバレるのをおそれてビビりまくるという(汗 このまま話終わっちゃうかと思った…)

…せっぱつまって学校では勝手にキレて授業放棄(こんな先生は嫌だ…)、自分の携帯NO.が記録された空々の携帯を探しに、空々の部屋(全寮制)に無断侵入…sweat02
とにかくひたすらなビビリがむしろ受け系なのでは?と思わずにはいられない(でも受けだと思えば可愛いか)

でもそんな(すいません)蒼井先生をなぜかheart01になってしまう、肝が据わりまくりの空々。
(彼は、クラスの男子に甘いどよめきが起こる程の美形です)

で、同部屋のこれまたBLマンガから抜け出たようなヤンデレ系やら、彼に屈折した愛情を抱く金持ちの御曹司(彼もまた美形shine)とのどろどろエピソード有り〜で、後半はスピーディーに展開していきます。

蒼井も、いつもは鼻をくったような態度の空々が、自分に弱さを露呈する姿にただならぬ感情を抱くようになり…………

結局ハッピーエンド的ではあったんですけど、最終的に『永遠のプラトニックラブ』になってしまった気がしてちょっと残念でした。
ていうか、二人のBL的シーンをもっと観たかったんですよね〜catface

そしてなんで蒼井先生と空々が惹かれ合ったのかがよく分からない。(空々がなぜ蒼井を選んだのかが…)

なのでもうちょと後半をじっくりやってほしかったな…せっかく美しいテーマだと思うにそれが残念。
でも音楽も、映像も、とても奇麗でした。
裸にもいやらしさがなくてむしろ芸術的…
少女マンガから抜け出てような俳優陣も、皆さん素敵shineでした…見惚れます…
それだけでも観て損はないかも…です。

『美しき第2章』ですって…!第3章はあるのかしら?
また劇場版があるのなら私は劇場へ足を運びますよhappy02

ていうかいっそ地上波で連ドラとか始まっちまえdash

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ショート、4番

【夏目カイトside】

「こ…ころしたって? 鷹木さん…あんたなに言ってんだよ?」

鷹木が目を伏せ、そしてオレを解放する。
うっすらと、さっき感じた異様な笑みをうかべて…

「冗談だよ」
「なんだよ… ざけんな!」

「お前が軽々しく愛だなんていうからだ …愛なんて言葉は下らない… 見せかけだけの奇麗事だ」
「あ?!…」
「お前に言われなくても柏原はオレが守るし、出来る限りの事はする…そういう…そうだな«責任»だ」
「責任てなんだよ!! お前なに考えてんだかわかんねーよ!!」

責任だなんて…重荷みたいに言うなよ…

「分からなくて良いんだ… じゃあオレもう行くぞ」

「おいっ!」
まだ言い足りないオレを無視して、鷹木は靴ひもを直しオレに背を向ける。

背を 向けたまま 

「夏目 お前 バスケ素質あるよ… 辞めるなよ」

「?」

ふとサクの言った言葉を思い出す。

鷹木晴彦は中学時代、ユキの為に優秀だった部活を辞めたんだって…

「鷹木さん あんたは?中学ン時何部だったの?」
引き止めるオレの言葉に今度は振り向いた。

「野球。ショートの4番」

「4番ね〜 そこまでは聞いてねーぞ」
鷹木が笑う。屈託なく… まるでユキに見せるそれのように…

「バットが持てなくなって辞めた お前は…辞めるなよ」
もう一度さっきの言葉を繰り返して、もう一度背を向けて右手を上げる。

あいつはもうオレを見ない。

また走り出した鷹木に向かってオレも右手を上げる。

ころした?
誰を? 自分を?
冗談
愛、アイは下らない。
優等生 責任
野球を辞めた理由………

「あいつ… なにか隠してる」

『分からなくて良いんだ』
そうかもしれない…オレがいちいち詮索する話じゃ無いのかもしれない…

ユキをあいつが助けてくれるなら 
ユキが助けを求めてるのはあいつなんだから……


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鷹木晴彦について.3

【夏目カイトside】

恋敵に助けを求めるオレのこの惨めな姿。
砂にひざまずいて、鷹木を見上げて、哀願する。

「ユキが笑えるようにしてやってくれよ… オレが邪魔だっていうんなら消えても良いんだ…」

鷹木がオレの髪を掴んで引っ張る。思わず顎が上がり、唇がだらしなく開いてしまった。

「柏原がこうなったきっかけを作っといて…今度はなんとかしてくれか?」
「勝手だって分かってる オレのせいだ… けどユキは助けてやってほしいんだよ」

冷たい無感情な視線、時折ユキがする表情とよく似ている。
掴んだ髪を放されて、つい息が漏れる。

「オレは万能の神じゃない…」
見つめるオレを拒絶するように低くかすかに呟いた… 

「万能さ… 優等生だろ? 今までだってユキを救ってきたんだろ?」

「優等生? だれが?」

この時、いつも余裕をかました鷹木の表情が一気に強張っていくのを感じた。
(だれが?って)
「あんたしか…いないだろ?」

オレより前から、こいつを知ってる柏原サクでさえ、鷹木晴彦という人間を計りかねている。
この時、オレは何となくだがサクがこいつを信頼する反面、恐怖する気持ちが分かった気がした。

オレの言葉に、鷹木は見下ろしていたオレから目を反らして、皮肉めいた口元で声なく笑った。

苦痛のような、嘲笑のような…哀しいような… そんな

「お前」
「っ!」
今度はオレの襟元をもの凄い力で掴んで無理矢理立ち上がらせられた。

それがまた唐突だったので抵抗する暇もなく、なすがまま…
そして鷹木がオレの鼻先まで、自分の顔を近づけた。

「成績優秀で品行方正で、後輩の面倒見も良く…突出した模範生徒…みんなそう言うんだ」

「あ?!annoyざけんなっ自慢か?!は な せ よ!」

ちがう
こいつは自慢なんかしたいんじゃない…
じゃあ なんだ?


「たとえばおれがちゅうがくのときにひとをころしていたとしてもおれはゆうとうせいか?」


「え?……………」

また警笛がひとつ。
ただ寄せて引く 波と水しぶきの音。
いったいなにをこいつは言ってるんだろう?

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鷹木晴彦について.2

【夏目カイトside】

朝の浜辺でジョギングだって?
絵に描いたような爽やか青年だな… ユキからそんな話をずっと前に聞いていて、ここに来ればあいつが居るんじゃないかと思ったんだけど 居るな マジで走ってるよ… あいつ。

「…まぶしっ」
水平線の向こうに白い光がにじみ、それが水面に反射して起き抜けの目をチカチカさせる。
さすがに早すぎて、サーフィンをしてる奴も居ない。
波音しか聞こえない朝の海は、ある種の神聖さを感じさせる。

「おい 鷹木さん!!」

こっちに近づいて来た鷹木晴彦の名を呼ぶ…
あいつもそれでオレに気付いて、その速度を緩め、オレの前で止まった。

「なんな んだ… お ま え…」

相当距離を走っていたのか、荒い息を肩と胸で整えながら、細切れにしゃべる。

「あんたと話がしたくてさ 学校じゃ落ち着かねーだろ?」
「……」

鷹木が腰にぶら下げてたペットボトルの水を飲み、濡れた唇を指で拭う。
その持ち上げられたペットボトルに、光が反射して海を映していた。

オレは浜に腰を下ろす。
鷹木はその脇に立ったままだった。

「こんなキレイな所で育ったんだな あんたらは」

「海は海さ… で? なんの話だ?」

「意外に情緒がねーな まあいいや… ユキ ユキの話だよ」

そう言って鷹木を見上げる。
自分で聞いておきながら、ユキの話だなんて言わなくても想像できたんだろう。
少しもその端正な表情を変えず、海の先を見ている。

「ねえ あんたさ ユキの事、その…愛してんの?」

「アイ…愛?! ハハ、なんなんだ突然 お前らしくない事言い出すじゃないか 愛か…ハハハ」

思いもかけず笑われ、オレは自分に恥ずかしくて思わず赤面した。
まあ確かに らしくない……

「大事な話だろ! 笑ってんなよ!」

「夏目、もう柏原にかまうな… オレあいつと一緒に生きてくって約束したんだ」
「はあ?!」

遠く漁船の警笛みたいなのが響く。
思わずそっちを気にかけて、直ぐ鷹木に視線を戻した。

「鷹木さん あいつおかしくなってんだよ! 家だって飯もろくに食わない、話もしない…夜だって何時間寝てんのかわかんないって… 学校じゃ人形が歩いてるみてーだし… あげくはあんたと同じ大学行くからとか言って勉強ばっかしてやがる… オレはさ ユキがあんたを好きなら好きでそれでもいいんだよ… でもさユキが辛そうにしてるのだけは勘弁なんだ… ユキはあんたしか信じられないって…そんなの、幸せな奴が言う言葉じゃねーだろ?」


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鷹木晴彦について.1

【夏目カイトside】

「あたしさ… ユキが鷹木先輩に振られたって聞いた時、ホントはちょっとほっとしたんだ… 『そう』ってそれしか言えなくて…」

昨日、ユキの双子の姉の柏原サクにめいっぱいなじられ、ひっぱたかれ、それを避けてはまた怒鳴られ…一通りのお叱りを受けたあと、オレとサクは駅前で少し…いや結構話した。

「なんで?ふつう励ましたりするんじゃないの?」

「あたしだって応援してたよ?でも…ふと考えみて… あの人がユキを受け入れたら、なんだかそれは恋愛とはちがう物のような気がして…」

「なんだよ この前屋上で、あいつの愛がどうのとか言ってたじゃん?」
愛なんて、オレにはよくわかんねーけど…(大人の単語だな)

「だからどうしてなのか… 彼はユキの為ならなんでもしてくれる 自分を犠牲にしても守ってくれる…心から感謝してる…… でも」

「でも? なに?」

サクはしばらく黙ってる。
そして駅前の先にある広場を見てつぶやいた。

「あたしはずっと 鷹木先輩のユキに対する思いが怖かった…」

愛は盲目とは言うけれど、最近のユキは普通じゃない… それだけは間違いなくそれがオレを唯一不安にさせた。
鷹木がユキを恋愛対象としてみて、ユキがオレじゃ無くやっぱりあいつが好きだというのなら、オレは無理矢理ユキを鷹木から引き離すことなんて出来ない… と思う。

『恋愛とはちがうもの』

オレとつき合う前のユキは、先輩大好きみたいなオーラがあったし…それはオレにもよく分かっていたんだけど… 今のユキはなんだかやっぱり妙だ…

その«鷹木晴彦»は
常に成績優秀(つーかほぼトップ)、スポーツ万能(オレ程じゃないけど)、容姿端麗(これもオレ程じゃな…でもチョコの数では負けた)そんでもって女にはまるで興味無し(かといって男が好きというわけでもなさそうだ)…

でもはっきりいって、あいつがどんな奴なのかと聞かれたらやっぱりよく分からない。
あいつだって人間で、しかもまだ高校生で、弾けた言動の一つや二つあっても良さそうなのに…

完璧?
いや… なんかちがうな… 禁欲? わかんねーけど…

オレにとっても鷹木晴彦という奴はある意味不気味な存在だった。
かといって怖いというわけじゃなく
でもオレは、ユキの恋人として(もう愛想つかされてんのかもな)、ユキの事をどうしても鷹木に聞く必要があったんだ。


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ターニングポイント

【夏目カイトside】

「なあ、ユキ… いったいどうしちゃったんだよ お前昨日も昼飯食ってネーじゃん」
昼休みと同時に教室を出て行くユキの後を追う。

「ユキ!聞こえねーのかよ!」
腕を掴んだ。
その腕の細さに一瞬ギクリとする。
(ユキ また痩せた?)

「図書館で勉強するんだ… 食べたかったら適当に食べるし カイトこそ購買も学食も閉まっちゃうよ?」

無表情。

4月になり、2年に上がって、新しい教室にきてからユキはずっとこうだ。
笑うでも、悲しむでも、怒るでもなく… 
会話も実に事務的、オレに対してもそんな調子で……

「なあ…勉強なんかいいじゃん ユキ頭良いんだしさ… 今日一緒に行こうぜ?な?」
ユキが腕を掴むオレの腕に目をやる。
一瞬、不快そうにユキの眉がゆがんで、オレは慌ててその腕を解放した。

「カイト、気を使ってくれてありがとう でも行くね」
「お前の姉ちゃん心配してたぞ! お前家帰ってから、あんまり物食わないって…話しもしないって…お前、どうしちゃったんだよ!」

廊下には何人かの生徒がいてそれも分かってたけど、大声で言わずにはいられない。
ユキに久しぶりに再会して、オレは絶対恨み言の集中砲火を浴びるか、それともシカトされるかどっちかだと思っていた。

それがなんだ?
ユキの態度は、まるでまわりを遮断しているかのように、無気力で無感情だ…

「ねえカイト… カイトは、サクに会ったんだ?」
「え? ああ… 昨日帰りにばったりさ… オレ怒られちゃった」
怒られたというより… 町中でおもいっきりひっぱたかれた。

オレが病院へも鷹木の家にも行かなかった事。

ユキの入院を知ったあと、ユキの携帯になんの連絡も入れなかった事。

会いたかった… オレだって… でもどうしてもアサヒの事を思うとそれが出来なくて…

「サクは心配しすぎなんだ… カイト、僕ね 先輩と同じ大学目指す事にしたから…だからあんまり遊んでもいられないんだよ」
「は? …? なんだよ突然」
「突然て全然遅いくらいだよ…もう僕たち2年なんだから 先の事は目標を持って考えないと」
まるで鷹木の言う言葉を聞いているようだ。

「そうじゃなくて! なんでいきなり鷹木と同じ大学なんだよ!ユキ、とりあえずって適当なとこ志望出してたじゃん!」

「関係ないよ!」

ここで初めてユキの語気が鋭くなる。
しかもキッと睨まれ、初めて見るような冷たいユキの視線に、オレは一瞬息を飲んでしまった。
「カイトにもサクにも全く関係ないし、何か言われる筋合いなんて無い!」
「ちょっと待てよ…! オレはともかく姉ちゃんが関係ないって事はねーんじゃネーの?!」
さすがにカチンときて、おもわず言い返さずにはいられない。

「僕は…」

「…僕はもう鷹木先輩しか信じられない…」

「え?」


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サヨナラ、僕は此処に居るよ

「もう… い や な ん だ…」
「かしは…… うわっ」

僕がかがんでいた先輩に思い切り抱きついたので、その重みで先輩が濡れた風呂場に仰向けにすべる。

「晴彦〜 ユキ君大丈夫? 着替え持って来たから」
「っ!!」

近づいてくるおばさんの声で、先輩が慌てて後ろ手で風呂の引き戸を閉めて、シャワーのレバーを下げた。
風呂中に水の跳ねる音が響く。

「そ、そこ置いといて! オレもこいつと一緒に入るから!!」
「あら、そお? じゃあここね」
引き戸のガラス越しに先輩が叫び、それに映るおばさんの影は何の不審も感じる事無く脱衣所から出て行った。

「はあ……… 柏原 おまえって……」

床に倒れ込んだ先輩が、下から僕に呆れたように言う…
もう涙なんだか、シャワーのお湯なんだか分からない僕の顔の濡れたのを、やっぱり濡れてしまった先輩の手が拭うように撫でる。

「うっ… ううっ」
「なあ 柏原?」
「うっ………」

「…ずっと一緒にいよう…」

「… そんなうそなんか ききたくないよ… 」

先輩が僕を抱えたまま上体を起こす。

「うそじゃないよ」

それは、近頃ぼんやりとしていた僕の頭でさえ、まるで目の前で火花が散ったように感じる出来事だった。

僕の両頬を両手で押さえるようにして、 先輩の唇が 僕のそれを 覆った…
やさしく愛撫するように… でも息が続かなくなるくらい長い間

僕は驚いて、一瞬ためらったけれども、それは先輩も気付かない程の一瞬で、すぐに先輩するがままに身を任せた。

(ああ、前にもこんな事があったはず)

あれは、神無月祭の最終日のバスケ大会で
試合中に先輩がカイトからボールをとられて
先輩を追った僕に、先輩がキスをしたんだ……

でもちがう…
これはあの時の«キス»とはちがう気がする。
あれは、当てにならないとてもあやふやなものだった… 僕の心はときめいたけれど結局一番大切なものは僕のもとへは残らなかった。

でも今僕に触れている先輩の唇は、僕に取ってかけがえのない…永遠に消えないぬくもりのように感じる。

『この世でひとつだけ信じて良いもの』

うそじゃない……

僕は先輩がしやすいように、顔を傾け、もう隠しようもない身体をあずけて先輩の首に腕をまわした。
鼓動が聞こえる… 何かが伝わっていく…
この気持ちは好きとか 嫌いとか そんな単純なものじゃなくて…

そうだ。
前にも思った事だけど… 先輩の望みならなんでも僕はきく…
生きろと言われれば僕は這ってでもそうしなければならない。しねと言われれば僕はためらいなくそうすると思う。
とにかく僕には…僕が唯一自分存在を確かめられるのはもう先輩しか居なかった。


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雨が洗い流したもの

暗くなりかけた参道の先に傘をさした人影、それがバシャバシャと水たまりの足音をたてて走ってくる。

「なにやってんだ… お前! ずぶぬれじゃないか!」

少し遅くなったから、心配して迎えにきてくれたのかな?…先輩は…
先輩が傘に入れてくれたので、うちつける雨からやっと解放された。

「ちょっと 途中でかみなり見てて… ああ、ほんとだ…ハハハ酷い格好」

何笑ってんだ… 僕は… 

「雷ってお前… いいから帰るぞ ああもうっ!こんなに冷えきってるじゃないか!!風邪ひいたらどうするんだよ!!」

しかられてしまった……
僕は肩を抱かれて、引きずられるように先輩の家へ向かった。


「あらあら大変! ユキ君どうしたの!!晴彦、お風呂わいてるから!早く」
「ああ、あとオレやるから… 母さん布団だけ敷いといて」
「そ、そお? わかった… ユキ君よおくあったまるのよ」
「すいません… おばさん…」

脱衣所に連れられたはいいものの、なんだか身体が動かなくて立ち尽くす。
なんだか頭がぼんやりして、何をどうしたら良いか分からない…

「おい!柏原 早くその濡れた服を脱げ! ? あーもうっ!annoy

先輩はもたもたした僕にしびれをきらしたのか、少し乱暴に僕のシャツのボタンを外していく…
引っ張るようにシャツを脱がされ、それを洗濯機へ投げ入れる。

「で?…下はどおするんだ… 自分で脱がないなら脱がしてやってもいいぞ!」
「………………」

怒ってる… 黙って家を出て、連絡もせず、遅くにずぶぬれで帰って来たんだもの、そりゃそうだろう…散々心配かけたんだ…

「……まったく お前は………!」
先輩が僕にひざまずくようにして、僕のデニムのジッパーを下げて、一瞬ためらった後、横を向いておもいきり(しかも下着と一緒に)引き下ろす。
「………………」
やっぱりまた頭がどうかしているのか、裸にされる事が恥ずかしくもなんともなかった。

背中を軽くたたかれて、風呂場に押し込まれる。
とりあえずシャワーを浴びればいいのかと思い、風呂場のドアも閉めずにそのレバーを下げた…

ここでも僕は、お湯の温度を確かめずにそれをしたので、かなしい事に真水を頭から浴びてしまった。
水だとわかっているのに、不思議と冷たさを感じない。感じないけど身体自体はそれを当然察知して、意識とは裏腹に僕の身体は風呂場の床にぺたりとすわり込んでしまった。

「ああっ!か、柏原!どおしたっ…て なんだこれ水っ!!」

飛び込んで来た先輩があわててシャワーを止める。
そのせいで、先輩の服も濡らしてしまった……

「…ごめんなさい」
「い…いや、オレも見て無くて  …大丈夫か? もう湯船入っちゃえ… 立てるか?」

先輩が僕を抱きかかえようとする。その手が僕の身体に触れた時、急に今日一日の事が頭によぎってきた。

少しでも僕を悲しんでいて欲しかった人が笑い

いつもと同じように笑っていて欲しかった人が僕を憐れんで…

「僕… 今日カイトに会いに行ったんだ…」

「…… もういいよ 話はあとで聞くから 今は…」

「会えなかった… 会ったけど会えなかった… カイトは僕の事は忘れたようだった」

急にいくつもの言葉が、僕の口から堰を切ったように溢れ出し、それと同時に、ずっとこらえていた涙が嗚咽とともに流れ始めた。
いつもの分けも分からない涙じゃ無い…

かなしくて
かなしくて
子供みたいに、肩を震わせて…

「もうやめる… もうこんなのはいやだ… 嫌 だ… カイトをすきなのはもうやめる…!!」


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春雷光る。

「ユキ! どうしたの?」
「…ちょっと携帯を取りに 上がってもいいかな」
「なによ 自分の家でしょ…」

カイトのマンションへ行った帰り、僕はそういった都合で家へ向かった。
サクは言葉少ない…
痛々しいものでも見るような目で僕を見る。
いつもどんな事があっても明るく振る舞ってくれていたサク…

(ああ、そうだ… あの時と同じだ…)

僕の部屋。携帯の電源を入れる。
今日は曇っているので、中もなんとなく暗い。
ベッドをみたら入院する前の事を思い出しそうになって目を反らした。

携帯を開けて履歴を見ると、クラスメイトからいくつかのメール、なぜかまた若菜からのメール…

……………。

(何を探してんだ… なんて未練がましいんだろう 僕は)

カイトからの着信なんてなにも入っていない。

『身体は大丈夫か』
『忙しくて会いに行けなくてゴメン 今度絶対穴埋めするから』
『まだ怒ってんの?』

僕は結局また期待して、勝手に妄想して、…それがちがうと分かって現実に戻る。下らない繰り返し…

「ねえ ユキ… あいつさ〜きっと鷹木先輩の家だから行きにくいんじゃないかな?へんなプライドあるじゃない?だから…」

サクが、開いたままの部屋のドアにもたれて話しかけてくる。
今度はこっちも見ない。僕は携帯を静かに閉じた。

「カイト… 笑ってたよ」
「…え?…」

「サク ごめんね… 本当に心配かけてごめんね もう帰るよ」

ここは自分の家なのに。

「そうだユキ! おやつにしよう! あたしホットケーキ焼いてあげる!」

「ごめん… たべたくない」

「じゃあ紅茶!あたし退屈しててちょっと話そうよ!」

作り笑いだ……
まるで壊れ物でもあつかうように、接してくる。
双子だもの… 分かるよサク… ごめんね

「もう 行くから」
「ユキ……」
僕も精一杯の笑顔をサクに返して、玄関を出た。

直ぐにサクが出てきて、叫ぶ。

「ユキ!!大丈夫?!」
サクは今にも泣き出しそうだった…  
「うん… じゃあまた」


ひさしぶりに歩いたから足が疲れた。

先輩の家までは今度は上り坂になる…でもバス停まで遠回りするのも面倒だな。
僕の判断はまんまと裏目に出て、少し歩いた所で、あろうことか空から大粒の雨が降り出した。
雨をしのぐような場所も無い。
あったとしてももう大分濡れて、とても店に入れたような姿じゃ無い。

ついてないなあ…

嫌だなあ…前髪から落ちた雨が目に入って、シャツが身体に張り付いて… 

雨の筋の向こう、靄掛かる遠くの山沿いの空がピカッと光る。

「かみなり 春雷だ…」

(ああ、きれいだな)
僕は気持ち悪いのも忘れて、少しだけその稲妻の光をじっと見ていた。


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心の何かが変わっていく

僕は先輩の望む事ならなんでもするし、もし会うなと言われていれば絶対に会いに行ったりなんかしなかったと思う。

その日の午後、先輩は街の本屋に出かけた。
僕はそれを見送った後、どうしても行かなければならないという衝動にかられて先輩の家を出たんだ。

僕はカイトと
どうしても話しておきたかった…

なにか来られない事情があったにちがいない。
病院だって、僕の家族と鉢合わせするのが嫌だったのかもしれない。

怒っているかもしれないけど、僕は酷い事を言った事を謝って
それから、そのときの気持ちにまかせてしまえばいいんだ……
きっとカイトの思いがわかる
きっと僕の思いもわかる…


カイトのマンションの場所は知ってる。叔母さんと妹と一緒に住んでるって言ったっけ。
僕の使う駅から2つ先。そこからは歩いて10分くらいの高層マンションだ。

大理石のようなキレイなエントランスの前まで来て、それでなぜか立ちすくんでしまった。

(居ないかもしれない…)

でもバスケの後は、僕と寄り道をしなければ真っ直ぐ家に帰ってたはずだ。(遊ぶような店はこの街には何もないからとかぼやいてたし)
大体、だるい身体を引きずってここまで来たのに、そのまま引き返すわけにはいかない…

いよいよ僕が重い一歩を踏み出そうとしたその時、聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。

それがあまりに突然だったので、思わずぼくは脇の植木の茂みに隠れてしまった。

カイトだ。

カイトは(多分)部活から帰って来たところだろうか、携帯で誰かと話しながらこっちへ向かってくる。
楽しそうに、とても楽しそうに笑って
聞き耳をたてようとしたわけじゃない…でも僕の耳にはその言葉だけが、嫌なくらい明瞭に聞こえて…

アサヒ〜! それはさ〜………

その場でへたり込む。

カイトの楽しげな声はだんだん近づいて、そしてエントランスへすいこまれて、消えた。

「うっ…」

頬に緊張がはしり、思わず嗚咽が漏れそうになるのを口を押さえて必死にこらえた。

あの日、カイトはアサヒと抱き合ってキスして、こんなのは遊びだって言われて、僕はカイトを嫌いだと言って…

…カイトはもう僕の事なんてどうだっていいんだ…

だってカイトにはアサヒがいる。

こんな手間のかかる僕なんか、カイトだってきっとうんざりしていたのかもしれない。

帰ろう。………どこへ?

あ、携帯…携帯は家へ置きっぱなしだった…
それを取ってそれから、先輩の家へ、せんぱいのところへかえらないと……

こなければよかった?
いや、きてよかった… これでよかったんだ…

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誰よりも、誰よりも

「何でお前… こんなに痛そうなんだよ… なんでこんなに傷だらけなんだよ」

頭と背中を強く抱えられて、密着した身体から布越しにお互いの体温が伝わっていく。

その熱は、先輩の存在と同じ位…今の僕には確かな物だった。

なんだか今の僕には何もない。
自分自身も当てにならない。
思い返すのはぼんやりと映る、雨、ラケット、カッター、切った後にそれを必死に止血しようとしている僕の姿… 

それはすべて乗り越えたはずだった。
でも本当は僕は何も変わっていないんじゃないのか?
誰かに手を引かれて、おそるおそる歩んでいただけなんじゃないのか?

「…ごめんなさい…」
なんだか先輩には、ずっと謝ってる気がする。
ほんとうに先輩には
先輩が居なければ僕は…

「柏原… オレはもうお前にはオレは要らないもんだと思ってた… ずっとお前オレに何も言わないから… ゴメン ゴメンな… 謝るのはオレだ… もっと早く取り返すべきだったんだ」

取り返す? 僕を? だれから?

「先輩? 泣かないで… ほら僕はもう泣いてないから…」

僕の首筋が先輩の涙で濡れている。

「大事だ… 誰よりも柏原が大事だ…! もう手を離したりしない!」
「セ ン パ イ?」

抱きしめる腕がまた強くなる。
僕はとまどったまま先輩のなすがままにされていた。

(ユキ…)

「だれ」

(ユキ オレ、ユキの事大好き)

「………」
「柏原?」

…………カイト!!

「先輩!… カイト病院に来た? ここに来た?  僕…カイトに酷い事を言ったんだ!」
肩を掴まれて身体が解放される。

「あいつには…サクちゃんが、病室も、今お前がここに居るって事も伝えたそうだ…」
僕は先輩から目を伏せた。

「そう…」

また先輩に抱えられてそのまま先輩の布団に横になる。何の抵抗もせず僕はそうした。
だからって僕と先輩にその夜、何があったわけじゃない…
ただ僕は、一つの布団で先輩に抱きしめられて眠ってしまったってだけの話だ…

カイト…

カイトは
もう僕を好きではないのだろうか?
僕は
カイトをどう思っているんだろうか?

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気持ちは無くても人は笑える

(僕はなにかを忘れている気がする)

「たくさん食べてね〜 あ、そうそう おばさんデザートもつくったのよ! 先にそっち食べましょうか?」

「母さん… 柏原はまだ本調子じゃないんだから…そんな無理に食わせないでよ」
「晴彦の言う通りだ 第一こいつの作ったケーキなんか旨くねーぞ? ユキ君はオレの作った饅頭が好きなんだもんなあ?」
「なによ 毎日毎日和菓子ばっかじゃ飽きるわよね?ユキ君」
「父さんも母さんも… 少ししつこいよ」

僕はだまって先輩たちの会話にはにかむ…

おじさんもおばさんも、ほんとうに良くしてくれる…
それは中学の時から変わらない。

「本当にユキ君は可愛いわよね〜 こうしてると奇麗な女の子といるみたいで… 晴彦なんかどんどん顔が長くなっちゃって ねえ?あなた」
「ああ… 長い… いったい誰に似たんだろうな」
「………… 実の息子になんて事いうんだ …柏原…オレの顔そんなに長いか?」
僕は慌てて首を振る。
そしてみんなが一斉に笑い出す。僕もちょっと笑った。

「ねえ ユキ君がうちの子だったら良かったのにね… ねえ本気でうちのお店継ぐ気ない?」
「そりゃいいな いっそ養子になれよ! 甘味食い放題だぞ」

おじさんとおばさんの会話に、先輩はもうあきれたように黙って食事をしている。

«ユキ君がうちの子だったら良かった»

僕が他人の家の子で、おばさん達は良かったんだよ…

「ハハハ 僕で良かったら…」
平気でそんな冗談を言う。
「本当?!よし!じゃ約束よ」
「柏原… もういいから食え!食え!」
楽しい団らん……

(なにか大事な事を忘れている気がする…)
(なんだろう… 僕はなんで こうなってしまたんだっけ?)


「眠れないのか?」

薄明かりの部屋で、隣の布団で寝る先輩に声をかけられた。
ここに来て何日か経つのに、今日はどうも寝付きが悪い。

今何時だろう?
(ああ…)

枕元の時計は夜中の1:20… さっきは1:00だった…さっきからうとうとしては直ぐ目が覚める。

「ごめなさい 起こして… 僕やっぱり薬飲んで寝るよ」
医者から念のためにもらった睡眠薬。2、3日は大丈夫だったんだけどな…

「泣いてたのか?」

立ち上がろうとした時に腕を引っ張られる。
そう言われて顔が濡れているのに気付いて、慌てて手でそれを拭う。

その僕の顔を、先輩が哀しそうな表情でじっと見つめていた。

「こっちにおいで…」

??

引かれるままに

僕は、先輩がめくった掛け布団の脇に座らされる。

そしてそのまま先輩の胸に引き寄せられたんだ…

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ある晴れた日

サクラ、サクラ、薄紅色の儚い花びら…

先輩の家の和菓子屋が面している道は、高台に続く古いお寺への参道だ。
今年はいつもより暖かいのだろう、その道なりに続く桜はもう我を見よとばかりに咲き誇る。

もう来週には散れてしまうだろうか?
風が吹けば、この空や地に舞って消えてしまう…
桜はそのいのちの際まで美しい
骸も晒さず、涙も流さず、その花の盛りを記憶に残して…いつかどこかへ消えて行く…

いいなあ… 

「絵の道具でも持ってくれば良かったんだ ぼんやり見てるだけじゃ飽きないか?」

店脇の先輩の家の庭、縁台に僕はどれくらい座っていたのか?

「ごめんなさい もう中で勉強しようかな」
「見たけりゃ見てればいいさ オレの昔のなら有るかもしれない… 持って来てやろうか?」
「ううん… 見てるだけでいいんだ」

そういえば絵なんてずっと描いてない。
部活にはたまに顔を出してはいたけど、特に急かされもしないので何もしなかった。

「今年の桜は早いから… 今が一番の見頃かもしれないな」

先輩が僕の脇に座る。

僕が黙って桜を見る… 先輩も何も語らず桜を見る。

海風が吹いて、花の房がザワザワと揺れた。

「オレは…」

先輩がぼそりと口を開く。

「先輩は…?」

僕がその先輩の、几帳面そうな、整った横顔を見る。

「花よりも若葉… 若葉の頃が好きかな 未来が見える」

若葉の頃
僕は、青々と光合成しながら輝く木々の葉を想像して、とても先輩らしいと思った。

「5月にはそうなるね…」
「ああ、夏なんてあっという間だぞ」

夏の前には梅雨が来る。
嫌な思い出だらけの雨の季節。

いつの間にか僕が縁台においた手に、先輩の手が重なっている。

「そうだね… 夏なんてあっという間だね」
繰り返して、僕は静かに笑った…


退院後、僕は…なぜか家へは帰らされず…少しの荷物と一緒に先輩の家に連れてこられた。
先輩曰く、春休みいっぱいは僕はこの家で暮らすのだそうだ…


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よくがんばったよ…

家で卒倒して、父さんに抱え上げられて車に乗った所までは何となく覚えてる。

そのあと僕は意識を失って、目が覚めた時には1日明けた病院で
僕の腕に刺された点滴の管に、日に何度と看護士さんが注射液を注入し、そうされると僕は直ぐに眠りにおちる。
起きてるとなぜが酷く涙が出て止まらなかった。
(お陰で目の下が涙で荒れてしまい、真っ赤になってしまった)

哀しくもないのに
別に何を考えてるでもないのに

だから眠る事は僕にとってとても貴重な時間だった。
たとえそれが薬のせいだとしても、いっそずっと眠っていたかった。


1週間程入院して、ようやく口に物を入れられるようになり…やっと自分の状況だとか家族の様子が分かって来た。
あろう事かそれまで僕は、僕が入院し始めた時から毎日見舞いにきてくれた鷹木先輩にも、ろくな言葉すら返す事もできなかったんだ。

「明日には退院できるそうじゃないか 良かったな 柏原」

変わらない笑顔で僕に接してくれる先輩。
今日は僕の高校の終了式で、その足で真っ先に会いに来てくれた…でもなんだか、嬉しい反面とても申し訳なく思ってしまう…

「ごめんなさい 先輩… 僕いつも迷惑かけて」
「迷惑なもんか ちゃんとまた元気になってくれたじゃないか… よくがんばったよお前は」

がんばった?…そうだろうか?

「分からないんだ先輩 なんで… こんな事になってしまうのか… 今回はあれをせずにすんだけど…正直次同じ事になったらどうなるかなんて分からない… 僕はいつかそれで…しんでしまうんだろうか?」

本気でそう思う。
僕は正気を失ったときの自分が一番怖いのだから…

「なあ 柏原… お前オレが好きだろう?オレもお前が好きだ…」
「え?!」

一瞬ドキリとする。
バカだな、ユキ…そう言う意味じゃないぞ!

「お前は優しい奴だから、お前を好きなオレを置いてしんだりしないさ… 言っとくがオレより先にしんだりしたらオレお前を一生許さないからな」

笑いながら、ちょっと睨むように…でもやさしく僕を見る。

「年とって病気とかでも?」
「80歳からはまあ、勝負だな… それ以降はオレも負けられない気がする」

僕はおもわず吹き出した。
だって80歳の先輩なんてぜんぜん想像つかないもの…

「柏原……」

「ハハ ごめんなさい… なんかおかしくて」

先輩の表情が真剣になったので、僕の方も起こした姿勢を正す。

「やっと笑った… よかった…」

「え……?」

「あーなんかオレも… こう笑いのセンスとか有れば良いんだけどな… 今度落語の一つでも覚えてこようか?」
ら、落語?!
「先輩!」

悪いとおもいつつ僕は声を出して笑った…

泣きながら笑った…

なんだか、僕を思ってくれる先輩が嬉しくて、…そう『うれし泣き』ってやつだ…

よかった
腕を切ったりしなくて…本当によかった…


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やっぱり会えない

【夏目カイトside】

本当はこのまま学校を抜け出して今すぐにでもユキの入院する病院へ行きたかった。
講堂に座らせられて、理事長だの校長だのの退屈な、あいつらの自己満足みたいな下らない演説を聞かされるくらいなら13:00まで会えなくても、ユキが息をしている同じ場所で待っている方がずっといい。
でもそれは、ユキの変装をしたユキの姉、サクに厳しく止められ…
なんだかユキにそう咎められたような気持ちになって、渋々午前中の終了式に参加した。

12:30

今学期最後のHRを終えてオレは教室を飛び出した。
慌てて走ったので、何人かの男子生徒にぶつかりゴメンゴメンと片手で謝りながら廊下を走る。

ユキに会える
ユキに会える
ユキに会える

会ったらなんて言おう…?

まあいいや そんな事会ってから考えればいいんだ!


「カイト!!!」

悲痛な、半分泣いているんじゃないかと思うような叫び声に驚いて、足を止め思わず振り返る。
オレを追いかけて来たのか?

ぜーぜーと肩で息をするアサヒがそこに立ってた。

「どこ…行くんだよ? 今日バスケ休みだろ? なんで…オレを置いてくんだよ」

まただ。

アサヒを構うとろくな事が無い。ましてや今は少しの時間も惜しいっていうのに

「なあ… いい加減にしてくれよ…アサヒ もうガキじゃねーんだ いちいちお前のお守りなんかしたくねーんだよ…」
もう解放してくんないかな
早く電車に乗らないと、くそ、もう5分もたっちまったじゃんか!

「カイト… お前 よくもオレにそんな事が」

これだ…

「大体な、アサヒ… お前いったいどういうつもりなんだよ! いきなりユキを殴ったり、わざわざ転校してきたり、キスしろキスしろってせがんだり! そりゃさ言われたからってお前にキスしたのはオレだって悪いけど、お前のせいでオレとユキがどんなに迷惑かけられたか分かってんのかよ!」

そう言って、もうアサヒは無視してオレは行くつもりだった。
どうせまた、ヒステリックに悪態をつき始めるのは分かってる。
そんなのにつき合っていたら、オレはいつまでたってもユキの元へは行けないんだから…

でもまさか

「… アサヒ?…」

あいつが泣き出すとは思ってもみないことで

「なんだよ なに泣いてんだよ… 泣く事ないだろ」

アサヒは仁王立ちのまま、目から大粒の涙をぼろぼろこぼしてる。
それでもオレは、アサヒのそばに行ってなだめるなんて気持ちは無かったのだけど…

「………… くせに…」
「なんだ?」


「カイトは… オレの兄ちゃんを殺したくせに… なんでそんな事が オレに…言えるんだよ」


「え……………」

「毎日毎日ユキユキユキユキ!!あんな、何にでも恵まれてるような奴!…ミナト兄ちゃんは?!兄ちゃんをお前に殺されたオレの事は?! なんで…なんでオレばっかりこんな暗い所に置き去りにされなきゃなんないんだよ!!!」

ミナト…
木島湊斗… オレを庇って死んだアサヒのたった一人の兄貴…

アサヒがオレの前で崩れ落ちるようにして、うずくまり、そして泣いている。

オレはそんなアサヒに触れる事も出来ず、呆然とそのアサヒを見下ろしている。

そういえばそうだ…
オレはこんな、少女マンガみたいな恋をしていい奴なんだっけ?
オレは幸せになんてなって良い奴なんだっけ?

浮かれて、見失って、なんかオレは大事な事を忘れているのではないだろうか?

ぎこちなくアサヒの肩に手を置く…
「ごめん」
ふと口からついた言葉… 

ユキ やっぱりオレは… ユキに会えないよ…
オレはサクにもらった病院のメモを、制服のポケットの中でぐしゃぐしゃに丸めた。


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例え最後の告白になっても

【夏目カイトside】

「ユキが…そう言ったの? オレと別れたいって」

「え?…」

もしもユキが、オレなんかもう見たくもない、消えろっていうのならオレは黙ってその望みを叶えるだろう。

それでユキがもう傷つかなくてすむのなら、笑っていられるのならオレはこの街から出て行ったっていいんだ(情けない話、またあの女のスネをかじる事にはなるだろうけど…)…

きっと辛いだろうな

身を裂かれる程…苦しいだろうな

でも、何も聞かないまま終わりにするのだけは嫌だ…
ユキの気持ちを知らないまま、オレが勝手に決めてしまう事だけは絶対に嫌だ……!

あの日、ユキが熱を出して一夜を明かした時、ユキの手につながれていたのはオレの腕だったはずだ…
その手をオレから離してしまうなんてしたくない!

「じゃあ 会ってみる?」

サクが胸のポケットから取り出した生徒手帳を一枚やぶり、ペンで何かを書いたものをオレに渡す。

「これ」
「病院の名前と、部屋のナンバー。 面会は13:00からだよ」
「オレが会いに行ってもいいの?」
「もう大分落ち着いたから… ううん 本当は会って欲しくて呼んだんだから! 良かった…ユキを拒絶されなくてさ」 

疲れたようなほっとしたように目を閉じる… その憂うような表情が記憶の中のユキとダブった。

『拒絶』

それをされる可能性があるとしたらオレの方だろう。
でも今はそんな事を心配してる場合じゃない!
ユキに会えるんだ!
ユキと話せるんだ!
目の前の薄暗いモヤが消えてその先にこの空の青が広がるように オレの心に生気が戻ってくるのがわかる。

出て行けといわれても、また大嫌いだといわれても

オレはオレがユキを好きだという事を伝えよう…

この世で一番ユキが大切だという事を伝えよう…

たとえそれが、オレがユキに対する最後の告白になってしまったとしても…


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愛する事、守る事

【夏目カイトside】

青を背に… 哀しげに笑って«ユキ»が目を伏せる。
風が吹いてユキの黒髪を揺らすとその唇から初めて言葉がこぼれた…

黒髪?

「分かんないんだ? …鷹木センパイはさ どんな格好したって見分けるんだけどなあ」

その声は、オレの知ってるユキよりワントーン高く……

そしてもう一度、今度は快活な笑みでオレを見据えた。

「しょうがないよね〜? あたしユキの声色得意なのよ! 髪もほら切っちゃったし」
「サク… 様…」
「はは やめてよ〜 今、お互いちゃらけたい気分でも無いじゃない?… ごめんね 騙したくて来たわけじゃないんだ」

そこに立っているのはユキの双子の姉で、«柏原サク» …そう気付けば、ユキはもう少し背も高く、髪はもっと栗色で、顎のあたりもユキの方が若干ほっそりとしていたかもしれない…
勿論態度に違和感はあったが、同じ顔、見た目同じ体格に制服、ユキの声色…
それでもあいつは、二人を見分けるのか?
二人? 違う あいつはユキを見てるんだ………!

「なによ 怖い顔しちゃってさ〜 …ユキがね、どうしても終了式出たいって言って… でもとてもそんな状態じゃなくて どうせあたしの高校は明日だから、代わりに来てやったってわけよ」

ユキの名を聞き、激しい嫉妬から我に帰る。
「ユキは…! 入院してるって聞いて…大丈夫なの? まさかまた…」

「ううん 違うんだ… 食べ物がね全然受け付けなくなっちゃって 貧血と脱水症で倒れて入院してずっーと点滴…」

なんだか最悪な事まで想像していたりもしていたのでそれを聞いて一先ず安心した。
でも…

「オレ… ユキの前で他の男とキスしちゃって… ユキの事傷つけた」

ふう、とため息をついてサクが空を見上げる。

獲物を見定めているのか、鳶が空を大きく旋回しながら飛んでいる。  

「弱いと思うのよ?あたしだって… その位で自分のコントロール見失っちゃうんだもん… 相手への怒りより自分を責めて責めて… 普通ならすぐ浮上するんだろうけど、でもユキはまだ傷が…治ってないのよ」

いつかそんな事を鷹木が言っていたような気がする。
オレは自責の念にかられて言葉が出てこない…

「あたしは家族だからユキを守ってやる事しかできないんだ… 刃物を隠したり、手を握ったり、ユキにあんな事させた相手を殴ったりね…  それで救われなかったユキを…あの人は救ってくれた」

どうして…

「愛するって事なのかな… 本当に愛するって守るだけじゃダメなんだと思う」

どうしてオレはもっと早くに
ユキに出会えなかったんだろう…

「鷹木センパイは、ユキが手首を切ってから優秀だった部活も辞めて、毎日ユキに会いに来た…学校に行けないユキに勉強を教えて、答えないユキと話をして、受験の忙しいときもそれが終わってからも…あたしは他人のあの人がどうしてユキにそこまでするのか不思議で仕方なかった」

でも
出会ったところで

「ねえ カイト君… 自信が無いならユキの事は忘れた方が良いと思う… 今回はユキの心の問題で君のせいじゃないし… あたしもユキには君との恋愛は荷が重いと思うんだ」

でも
オレは………!


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オトコマエ!でふと雲霧仁佐衛門を思い出す。(サク)

TV時代劇の感想とつぶやきです。BL小説記事ではありません。

NHKの30分時代劇『オトコマエ!』。今宵は2回目でした。

爽やかですね〜 主役若いし目元涼しいし。
斉藤工クンが出てるので、1回目に続いて今宵も見てしまった。
工クンは可愛いです。オトコマエshineというよりカワイイheart04(笑)
侍カツラも似合ってるし、(時代劇ってカツラの似合う似合わないがとても重要だと思う)演じる信三郎が繊細な(多分)フェミニストってあたりがまたカワイイ!

あと、癖のある役はやっぱり天下一品だと思ってしまう片岡氏の存在感にはもう脱帽です。
昔の時代劇で公家の役?演じられてましたよね?もの凄いインパクトで今も記憶に残ってます。

で、片岡氏演じる南町奉行の愛猫が『千代』って名前らしいんですよ。
それで大好きだった、雲霧仁佐衛門(左だったか佐だったか…sweat02)を思い出しまして。比べちゃまずいと思いつつ、あの時代劇が持ってた登場人物の男前や情感や音楽の美しさに改めて感心してしまいました。

私は子供ながらに雲霧や吉五郎のかっこよさに惚れ惚れし、七化けお千代のあやしい美しさに毎回ドキドキしたものです。しかも作品全体のもの哀しさがどうも涙腺をさそうのです。

さて、新感覚時代劇?オトコマエ!
オトコマエ度はこれから回が進むにつれ上がっていくのでしょう。(工クンのラブリー度にも期待大)
でも、急に挿入される激しい音楽と(なんかもうドキーっとするんですcoldsweats01)画面の分割はこれからもあんな感じで?…
時代劇の醍醐味だと思う殺陣のシーンがなんだかよく分からんのですよ…
工クンがいったい何処にいるのかが分からない…
音楽も画面構成も、私の感覚の古さと動体視力の鈍さに起因しているかも知れない事は否めませんがね〜(苦笑)
まあ30分完結ですから(来週は前後編らしいです)あんまりしっとりやってちゃそれこそ男前〜には終わらないか。
始まったばかり、来週以降も爽やかな風を吹き散らして、盛り上がっていってくれれば良いですね。

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青を背に

【夏目カイトside】

アサヒはやっとのことでユキの手を胸ぐらから放させる事に成功し、怒りに肩を震わせてキッとユキを睨みつけた。

「てめえ…」

もう教室で猫をかぶるのを忘れてしまったように、今にもいつもの悪態を吐きユキに飛びかかるのではという様子だった。
勿論そうなればアサヒを殴ってでも止めるつもりだったけど、ユキはユキでそんなアサヒを相手もしない体で『フン』と鼻で笑い、一瞬アサヒを睨み返したあとまたニヤリと不敵な笑いをして今度はオレの方へ向かってきた。

「おいっ!待てよっ 柏原!」

その背にアサヒが怒鳴り、教室の熱が一気に引いた。

「どーぞ?かかって来いよ お前がここで出来るっていうならね」
「っ!!!」

「おい!夏目」
突然ユキに名前を、それを慣れない名字で呼ばれてきょとんとしてしまう。

「お前ちょっと顔かせよ」
「あ、ああ… でももうじきHR始まるけど」
これはかなりオレらしくない… 朝のHRなんてどっかでサボってる事が多いから…

「なんだよ!終了式に間に合えばいいだろ?」
「は、はい!」

そりゃユキが望むならオレは、式だってどうだっていいんだけど

子供が先生にするような返事をして、先導するユキの後を家来のようについていく。

「カイト!!」
怒りと動揺が入り交じったような声で、アサヒがオレを呼び止めたがオレは振り向きもしなかった。

今のオレにユキに逆らうなんて気持ちは微塵もなかったし
なによりユキが学校に来てくれた喜びの方が、この異様なユキに対する戸惑いよりも大きかったのかもしれない。 


階段を上がるだけ上がり、屋上へ向かう。

海からの蒸気なのか、朝は晴れていてもモヤがかかる事が多い空も、この日はそれ全体を覆い尽くす青で雲一つ無かった。
その青を背にユキが立ち、改めてオレに振り向いた。

なんだかオレの言葉を待つかのように、ただだまってオレをじっと見ている。

「ユキ … もう身体は大丈夫なのか?」
本当はすぐにそばにいって抱きしめたいのにそれが出来ない。
今のオレとユキの間には、いい知れない距離みたいな物があった…

「ユキ … 怒ってるんだろ? オレ 謝りたいんだ… ゆるしてくれなくても」
ユキは表情も変えず、言葉も発さない。

「頼むよ… なんとか言ってくれよ ユキ…」

ああ、ほとんど哀願だ…
昔のオレを知ってる奴らがこんな情景を見たらそりゃ驚くだろうなあ…
昔のオレが今のオレを見たらオレは自分に殺されるかもしれない。
涙目で、好きな相手のただ言葉が欲しくて、たった一歩も踏み出せずに…こんなに切なくなってるなんて

「ユキ…」

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「ただいま…」 黒いユキが帰還する

【夏目カイトside】

なにも手がつけられない。普段から退屈な授業は勿論、バスケにも、会話にも、物を食っても味すら分からない。

一日中ユキの事を考えて、鷹木に何を言われたってやっぱり会いたくて…触れたくて
やっぱりオレはユキが好きで好きで仕方が無いって自覚させられる。
いっそ目の前で、嫌いだ不潔だとなじってくれた方がまだマシだ。

こんなに誰かを好きになった事なんて無い。
今までさんざん他人に迷惑をかけて傷付けて、ただイキガって生きてたようなオレが
誰かを恋しくて、どうしようもなくなるなんて思ってもみなかった。

(ユキ…) 

そんなオレの思いが通じたのか、それともユキを傷付けたオレに天罰が下ろうとしていたのか
ユキが
教室に現れた!

…それは3学期最後の日だった…

「柏原君! 大丈夫なの?」
まず扉近くにいた、若菜ら女子数人の声でオレはハッとしてそっちを見る!

ユキっ!!! 

「大丈夫だよ ありがとう 心配してくれてたんだね?うれしいよ」
「柏原君っshine」 
ユキ??
なんだか、いつもとは違う…堂々としたアイドル的笑顔を振りまいて、ユキが教室に入ってくる。
いつもはこう…気配を消しながら現れる感じなんだけど(逆にそれがオレには目についてしょうがないんだけど)

オレが立ち上がって、席に着いたユキにおずおずと話しかけようとした所で、まるでそれを遮るように草壁がユキに抱きついた!いや…抱きつこうとした…

「柏原ー!!heart01会いたかっ…っ」
草壁っ てめっannoy

ゴッ…

思わずオレが手を出しそうになった瞬間、鈍い音と共に草壁の身体が宙に浮いたっ!!
ゆっくりとユキの足下に沈む草壁…
おおっと思わずうめくクラスメイト達…
「うっぜーんだよ… 軽々しくオレに触るな」
「か…柏 原… 今日はすごく…刺激的」
そう言い残し、落ちる草壁。
あ れ?あれれ?
ユ…ユキ?coldsweats01

「あの ユ…」
「おい… 今日は随分と威勢が良いじゃん? まだ熱でもあんじゃねーの?ひ弱な柏原君?」
今度はアサヒに遮られる。
ユキはオレには目もくれず、つかつかとアサヒの席の前に立った。

信じられない光景!

ユキがアサヒの胸ぐらを思い切り掴んで引き上げ、アサヒの机がガタンと大きな音をたてた。

「なっ…!! くそっ は な せっ!」
無理矢理立ち上がらされたアサヒが叫んだ。
ユキの手を振り払おうとするも、それが出来ずにいる。そのユキの細い腕を……

「誰がひ弱だって? あ? 木島お前さー こないだはよくもオレに鼻血ださせてくれたよな?この場でお前を同じ目に合わせてやってもいいんだぜ?」
さすがにアサヒが目を丸くする。
それはオレも、クラスの全員も同じだったと思うんだが…

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番外編「NO.2の場合.完結」

新・旧NO.2の松田アラタに、元NO.3のホストの順平…
よくよく考えてみたら、好きな奴に高校生のガキとつきあう事にしたから別れようなんてメールで伝えられたりしたら、そりゃー頭にくるんじゃないの?
オレにやたらに好意的な松田は希有な例として…その順平って奴は松田の話によると

『絶対に探し出して殴ってやる!!』…と息巻いてるらしい…

「大丈夫だよ〜百瀬君〜 僕、百瀬君はマッチョなラガーマンで空手100段だって言っといたから!good
ま、松田…お前…余計な事を…
「順平はキレると手がつけられないからなあ ハハハハ」
「笑い事じゃねーだろっannoy

一気に憂鬱な気持ちに落ち入る…
けどさ、やっぱり1発2発は覚悟しとかなきゃなんねーかな?
オレが来栖にあんな事しなけりゃ5人は泣かなくてすんだわけだし…殴られるのが怖くてあきらめられるくらいならさ、告白なんかしないしさ。
まあ、なるようになるだろ?
………(ホスト順平は未知な部分が恐ろしくもあるけど)

松田はひとしきり家事を終えると、午後に営業にまわるという事で帰るとのこと。

「日曜だというのにご苦労様だな」

「じゃあまたね 礼壱… 大人の時間に」

「了解 大人の時間に」

二人はちょっとさっきまでとは違った意味深な表情で言葉を交わす。
別に身体に触れあったわけでもないのに、その様子と言葉に濃密そうな関係を感じて妙な気持ち。

オレに爽やかな笑顔で挨拶をして松田は玄関を出て行く。
ぼーっとその玄関が閉まるのを見ていたオレの背後から、来栖の両腕が伸びて抱きしめられる。

「さて どうする?」
「ど、どうするって?なんだよ 浮気者…」
「どっか行く?それとも昨日の続きをしようか?」

来栖の左手がオレの股間の辺りに触れ、腰を後ろから強く押しつけられた。

「あっ…っ ちょっ!あ…れだけしてまだ足りないのかよ」

「だから百瀬君はどっちがいいのかなーと思って」

「つ…つかむなっ…よ あ」
頭は否定しても、身体の方が昨日のあれこれを思い出して反応してしまう…

「さっき アラタ