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2008年5月

あの日の月

その駅は、大きな路線とは別に古い私鉄の発着駅になっていて 民家の間をすり抜ける場所を除いては、線路と平行に道が添い、そのずっと先には僕らの高校の最寄り駅もある。

僕らはその道を歩く。

こちらはとっくに終電を終えて、もう静まり返った昼から無人のその駅のホームの石段を上りベンチに腰を下ろした。

自販機の明かりだけが、弱々しく古いホームを照らしている。

「ラッキー この自販機携帯使える! ユキなんか飲む?」
まだ濡れているカイトの背中
髪は少し乾いたように見えた…

「あっ!ユキ «甘っ!おしるこ〜»てのある!って夏にホット置くか?!フツー!!」

「カイト………」

「じゃあユキは«甘っ!おしるこ〜»な」

カイトは知らないから

本当の僕を知らないから

そうやって優しくできるんだよ

「カイト」
「ん?」

自販機から缶がゴトンと落ちる音がして、カイトが振り返る。
 
  
「僕は 中学の時 男に抱かれた事があるんだ」
「……は ?……」

カイトの表情から笑みが消えて強張る…

「同じ中学の3年生… 僕はそいつに 何度も犯された」
「な、何言ってんだよ… 変な冗談止めろよ ユキ…」

ほらね

君の中で僕の清純なイメージは崩れた…

カイトがいけないんだよ 僕を 僕なんかを好きだなんて 言うからさ…

「だから あのサラリーマンとそういう事をしたって なんて事ないんだ… 僕は汚れてる…」

もう 幻滅しただろ?

「そいつ…だれだ ユキ… この辺の奴か?! どこに住んでんだよ!!」

思いがけずカイトは激高して、膝をついて僕の両手を掴んだ。
僕はその質問が、カイトには悪いけど、とても滑稽に感じて思わず口元が緩んだ。

「なに笑ってんだよ!……やっぱり冗談 なのか?」
「だっておかしいからさ… ハハハ… どこに住んでるって…」

笑っているのに 

涙が止まらない。

「ユキ?」

「もう居ないんだよ あいつは…三倉崎は…」
 

ホームの向こうに、いつの間にか浮かんだ朧月… 

あの日の月も確かあんなじゃなかったかな?

「三倉崎はね… 僕の上に乗りながら 先輩に刺されて死んじゃった」

「へ……………………?」
  


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pianissimo

あの運命の日から、僕の世界はずっと鷹木晴彦という人だけを中心に廻っていた様な物だ。

三倉崎の記憶を抹消して、心の表層では、片思いの…恋愛の対象として先輩を見ていたわけだけど、恋なんかでは説明しきれない、絶対的な存在として僕がこの世界で見つめていた人 それが先輩だった。

その静寂の、二人以外居るはずの無い世界に

君が現れたのは

いったいいつの頃だったのか…

カイト
 

「あー くそっ… 往復ビンタの予定だったんだからな!」

涙を手のひらで乱暴に拭って、髪をかきあげる…

そのカイトの肩をポンと叩いて、アサヒが背を向けた。

「この借りはでかいぞカイト …返す前に海で心中とかは止めてくれよな」
す る か !!」 

アサヒは一度振り返ると、僕を一瞥し、その口元が少し…笑ったように見えた…

 

僕とカイトは
深まる夜にも、まだまだ多いネオン下の人の波をかき分けて駅の方へ歩く。

あとからのろのろついていく僕を、たまにカイトが気にして振り返る。

(なんで 僕はカイトの後を ついていくんだろ?)
(どうせ逃げても すぐつかまるかな…) 
(足が痛い………)

「0時まわったな〜 けど終電 なんとか間に合うか?」

光る携帯の液晶。
終電前の駅前は、予想外に人で溢れていた。

ふとカイトに視線を移すと、何処かへ携帯をかけようとしている。

「止めろよ! なにかけてんだよっ!!」
「あっ! おい ユキ!!」

僕はその携帯を奪い、とっさにその発信を切る。

「いやだ… 嫌だ… 嫌だっ!」
「……ユキ」

「僕はもう帰らない…! あの家には………」
「ユキ?」

「…生きてても苦しいだけだ でも死ぬ事もできない…僕は先輩に 会わせる顔が無い…」

(なら僕は どうしたらいいんだ………)

「わかった… わかったよユキ」

うつむいた僕を、カイトが下から覗き込んだ。

「どっか行くか! どこ行きたい? っていっても夜中だから甘味屋は開いてないだろうけど」

大きな口でカイトが笑う。
屈託なく…

「今からオレとデートしてくんね〜かな? 大分遅れたけど…ほらホワイトデーのデートっていう設定で チョコのお返しもしてなかったし…」 
「え?……」

「ごめん オレ… やっぱりユキが好きだよ」
 


この時のカイトの『好き』という言葉は、

醜い僕の魂を突き刺す、聖なる剣のように

もう一度閉ざした僕の世界に、なにか一筋の光を差し込ませ…

そしてそれは僕の居る場所の闇を自覚させるには十分すぎるものだった…

「…… カイトに好きになってもらえる資格なんて 僕には 無 い…」


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カイトにとって残酷な事

その中年のサラリーマンの姿は路地に消えた。

アサヒは何も言わず…僕の腕を乱暴に引っ張り、人通りの多い道の、大きな電飾看板のある居酒屋の入口付近で、僕は突き放されるように やっと 解放された。

「あのな〜… お前みたいのがこんなトコ ふらふら歩いてっからあんな変態に引っかけられんだよ」

ため息まじりで
心から呆れたといった風に吐き捨てる。

「……………」
「おい!助けてやったのに シカトかよannoy

「……………」
「ああっ!!ホントうぜーな!お前!」

「………僕は 何処にも 行けないんだ……」

うつむきながら…ずっと頭に響いていた言葉をそのまま口にする。

居酒屋の中から、威勢の良い店員の掛け声や客の大笑いする声が漏れてくる。
雑音…胸に刺さる攻撃的なノイズ
(いやだ……)
耳を塞ごうとした時、アサヒがぽつりと呟いた…
 

「あのお前しか愛せない単純なバカが…ずっとお前の横に居てもか?」
「………?」

「あいつは例えお前が死んだ所で後追いなんかしないさ…助けられなかったとか言ってず〜と後悔して、それでもお前をずっと好きなまんまで、でもお前は帰って来るわけじゃ無くて… 柏原お前…それがあいつにとってどんなに残酷なことか分かるか?」

アサヒを見上げる。

「湊兄ちゃんに助けられた命だ… あいつはそれを放棄する事が…どんなに罪深いことか分かってる… だからカイトは 死ねないんだよ」
 

カイト………
 

カイト?

アサヒの指差す先に現れた、人の波の中でもひと際目立つその姿
ぼやける目で視認する。


「なにやってんだよ……っ!! ユキ!!」
叫ぶ。
「カイ ト?」

どうしてここに 居るんだよ…………? 

昼間の病院
(もう終わりにするから 僕なんかには構わず 今まで本当にありがとう さようなら)
…… あの時 手はほどいたはずだろ?

僕たちは もう

なのにどうしてカイトが 泣くんだよ………?


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邂逅する。

振り上げられた手。
『殴られる!』
僕は思わず目をつぶった。
けど
その手は、僕の頬寸前でぴたりと止まり、一瞬の間をおいた後…硬直しながらゆっくりと下ろされた。

「しんぱい…させんな…よ!なにやってんだよ…お前!!
朦朧としていた頭が、突然起こされたかのように…明瞭にその感覚を変える程大きな、とても大きな叱責の声だった。

「カ イ ト……?」

「いいかげんにしてくれよ」

震えるような悲痛な声だった…

その時泣き崩れたのは僕ではなくカイトの方で…しかもカイトはずぶ濡れで…僕はどうしていいか分からず、ただカイトをみておろおろと立ち尽くした。

「お前が居なくなったら… 死んじゃったら… オレどうすりゃいいんだよ…!」

雨は いつの間にか 止んでいた…
 
 
 

あの時、僕は中年のサラリーマンからホテルに誘われて…なんだか投げやりな気持ちでそいつについていった。

そのあと何をするかも、それが恥ずべき行為だという事も分かってた。
けれど僕はどうせ死ぬんだ…
三倉崎に抱かれたような僕が今更どうなったって何も変わるわけじゃない。

でも肩に馴れ馴れしく触られるのはどうも気持ち悪くて…歩きながら、その手を払おうとした…

その時
サラリーマンが僕の脇から突然消えて

びっくりして振り返ると、嫌な音と共に地面に這いつくばるそいつの姿。

そして、呻くそいつのスーツの襟を掴み無理やり立ち上がらせ、再度顔面を殴る長身の青年の姿。
 

「おい…きもオッサン…良い年してこんな乳臭せぇガキに手ぇ出してんじゃねーよ…」
「な、なん なんだ! 君は! け…警察を呼ぶぞっ!!」
 

青年がニヤリと笑う。

「はっ! ど〜ぞ?呼べるもんなら呼んでみれ ば?!」
「なんだと… っ!ぐはっ!!

今度は胴体に入った蹴り…僕も経験した事があるあの重い一発だ…

サラリーマンは慌てて自分の鞄を抱え、僕を見る事も無くそこから逃走し…

この人気の無いホテル街に残ったのは、あまりの光景に声も出せずにいる僕と

«木島アサヒ» 
二人だけだったんだ……。
 
 

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萌え期は突然やってくる(サク)

つぶやきです。BL小説記事ではありません。

『萌え期』です。おしゃれやら買い物やらイケメンやらにとにかく萌える季節の到来。

今日は美容室と雑貨屋と服のショップをはしごして、人目惚れしたマニュキュアをゲッツ!!
帰って早速塗ってみるも久しぶりすぎておもいきりはみ出ました…(汗)

萌え期…じゃあそれ以外はというと…特に寒い冬なんかは酷いものです。

美容室はひと冬行かない(カラーの退色を束ねるかアップでごまかす)
服は買わない(ほら…冬は上からコート着ちゃうじゃないですか)
マニュキュア(うっかり塗ったとしても、自然に消えるまで剥がさない…もしくは薄く消えかかってきたところで削ります)
脱毛(しませんよ……体温下がるでしょ)
ダイエット(これも体温下がるし)
芸能関係(深夜のお笑い番組しか見ません)
恋愛(二次元は好きです)

カッコの中は、冬眠時期の哀しい主張です……。
なんか今思い返せば、女として…否!人としてかなり危険な領域に達しているものもちらほらありますな…

い、今は大丈夫です!

お手入れ的な物も一通りこなしてますし(笑 あ、今でも二次元«も»好きですよ)…
でもこんなに極端な萌え期は久しぶりかも〜
最近はそうでもないけど、ちょっと前まで仕事仕事でかなり荒んでたので心に余裕も無かったんでしょうね…

もともと何にでも感動してしまうような奴なんですが、当時はそういう物にたいしてなーんとも思わなくなっていたり…(でもその荒んだ時に行ったディズニーランドの夜のパレードは泣いたな〜逆に泣き過ぎ。よほど荒んでいたんです…私)

今は毎日けっこうおもろーです。

相変わらず仕事は渋々頑張っていますが、給料もらえなければ服も買えないし(笑)そういう視点からなんとかcatface

サマンサのバックとか欲しいな(出来ればカゴ)〜あと黄色系のサンダル
目標は3キロ減量!と夏コミに向けての(まだ当落は出ないですけど)原稿描き!…haruとスパコミは自分にうらぎりましたが

ずっと萌え期が続けばいいんですけど…まあ人間ですからいろいろありますわねsweat02
ちなみに萌えるイケメンとは斉藤工君の事であります。はい(アイドル的にheart04笑)

とにかく頑張って生きられてます。
そして今週も頑張れそう?です。たぶん。

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往復ビンタだ……!

夏目カイトside

あいつの足じゃそう遠くには行けないだろ?車椅子から、この前やっと歩けるようになったんだから…

何処にも居ないなんて嘘だ。
だったら街の隅から隅まで探せばいいんだよ!

「くそ…」
この雨のなか 今、何処でなにやってんだよ
病み上がりのくせに 暗い夜にひとりぼっちで

「あの バカ…」

駅やその辺りを探しまわっていた所で、ポケットの携帯が鳴る。
慌ててとったその相手は、期待や不安とは全く無関係の奴で…

『どこいんの? カイト』
アサヒ だ。

「悪ぃ 今、ヤベーんだ… 切るぞ」
話すこの時間さえも惜しく感じる。

『聞けよ! オレさクラブ行く途中なんだけどさ』

「だから もう切るか……」      『柏原がおっさんと歩いてる
 

な ん だ っ て…………?
 

『向こう行ったら…ラブホしかね〜なあ』

濡れた全身から、一気に血の気が引いた。

「そこ…お前今何処…アサヒ!! ユキつかまえとけ!!

『あ〜? やだよ だってオレこれから』

「黙れ!!いいから早く…っ 殴ってもいいから!!」

『……………どっちを?』

「決まってんだろ!! その変態おやじだよ!!」
 

なにやってんだよユキ………!!!
いったいどうしちゃたんだよ…………

オレにこんなに心配させて
何も言わず 勝手に居なくなって

全然知らないような、汚い大人に…自分が傷つくために 抱かれる気か?

それで死ぬつもりか?

許さないからな…!!
そんな事したらオレは、ユキも鷹木も許さないからな!!

「往復ビンタだ…! バカユキ!!」

雨は梅雨の名残のような、強くも弱くもない鬱陶しさで街を濡らす。
繁華街へ抜ける大通りをオレは形振り構わず走った……

 


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ノイズ

なんでこんな事になっちゃったのかな…
僕はいったい «どうしたい» のだろう?

もう家へは帰らない 帰れない……

じゃあこれから 
僕のこれから…?
 

夜家族と久しぶりの食事をしてから、僕は家を出た。
その両親やサクとの一時が幸福なものであれば幸福なものであるほど、何かが僕を追いつめた。

ここは何処だ?
風俗店や居酒屋が並んでる… 意外にもこんなにぎやかな、人気の多い場所にふらふらと歩いてくるなんて…

『未練があるんだろ?』

(……………)

『それとも最期を向かえる前の人恋しさか?』

(三倉崎……)

「お前の事を思い出してから、先輩は僕の夢にも現れなくなってしまった… なのにお前は未だに僕につきまとうのか…?」

幻聴なのかもしれない。
病院は出たものの僕はまだ壊れているのかもしれない…
でも不思議とあいつの声を聞いたところで、三倉崎への恐怖は薄れていた。

そして恐怖という感情が、まだ僕に残っているとしたら それは 僕自身のそれにすぎなかった。
 

『ひゃははは! あいつは 鷹木はお前を見捨てたんだよ! バイバイ 二度と会いたくないッてさ』

「だまれ…」

『地獄の底でも どうせあいつは待っちゃいねーよ』

だまれ!!

人目も顧みずに叫んでハッとする。
幾人もの人が、僕を怪訝な目で見ながら通りすがる。

立ち止まり…火照るような頬を押さえて、ゆっくりと深呼吸をしてから、また歩く。

人の形がはっきりと見えない。
耳すらも何か洞窟にでも入ったように遠くに低く響くように共鳴して、人の声なのか店から流れる音楽なのかの区別がつかない。

息苦しい。気持ち悪い…… 思わず胸を押さえてその場に座り込んだ。
生きることなんてどうでも良いと思ってるくせに 苦しい だなんて…

(笑わせる……)

「どうしたの〜 君 気分悪いの」
男のような声が僕の背をさする触れ、話かけてきた…
「大丈夫?だめかな? ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」
ぼんやりとそいつの姿に目を凝らした。
中年の…スーツ姿のサラリーマン…みたいな

ぽつんと雨粒が頬にあたる…
雨だ… 

もうどうでもいいんだ… 別に 美しい幕引きなんかを望んじゃいないんだ…
僕はもう一人になった。
みんな捨てて来た。
きっと死んでからも一人なのかもしれないけど…

そのサラリーマンに肩を抱かれるようにして僕は何処かに歩いて行く。

そいつが指で数字を示して僕に見せる。

なんなんだこの世の中は… 僕はいったい何に しがみついているというのだろう…


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番外編「NO.1の事情.3」

二階のテラスから海が望める、白い外観のパスタ屋。
さすがにこの時期はテラスでは暑いので、ちょっとセレブレティな感じただよう店内でお召し上がり。そして…松田の時と引き続き、見知らぬ男をはさんでの…今度はランチなわけなんだ…

し か も

この«セイミヤ ミドリ»に対する来栖の気の使い方が半端じゃ無い!

「ミドリ!君 肉好きだろ?肉を食え!」
「え〜… でもメイン系はスゲー高い」
「高いか?… どうせいつもろくな物食ってないんだろ?好きな物なんでも頼めよ」
「マジで!? じゃあ…遠慮しないで頼んじゃおっかな〜?」

嬉しそうにもう一度メニューを見返すミドリ。
それをまた満足げに、頬杖をついて見つめる来栖…

ちょっとちょっと〜pout間にオレがいるんですけど〜annoy!!!

「も、百瀬君は?」

ただならぬオレの怒りのオーラに気付いたのか、来栖がとって付けたように振って来た。

「来栖先生…… ちょ〜っといいですか?」
「あっ なんだ?! おいっ!」
来栖の腕を強引に掴んで、席を立たせる。

「ミドリ! 少し席はずすから先に注文しててくれcoldsweats01
「うす」

メニューに夢中でミドリはこっちも見ない。
 


初夏の、意外に強い日差しが照りつけるテラスに、無理矢理来栖をひっぱる。

「おいおいおい… なんなんだ…店の中で せっかく穂高君が来たがってた店に来たってのに」 

「なんなんだ〜じゃねーよ!! あいつ誰?!なんでオレと先生のデートなのに3人なの?!」

「…だから 彼は清宮緑っていう大学生で…」

「それは聞いた……で?!

そこで来栖は大きくため息をついて、両手を上げる。

「ミドリはオレのNO.1だった奴だよ… 穂高君とつき合う前までのね…」
「やっぱり!」

「分かるなら聞かなければ良いだろう? アラタとはまたああなったけど…残念ながらミドリはそんな未練を残す様な奴じゃないんだ…それに」
「残念ながらってなんだよっ」
「はあ… ヤキモチヤキなんだよなあ 穂高君は」

だって!

んっ!!!
そう言いかけた所で、突然来栖にキスをされる!

幸いテラスには誰も居なかったけど、ガラス張りの店から見えちゃうかもしれないじゃないか!
 

「今はコレで我慢して… 食い終わったら腰も立たなくなる位苛めてやるから…」
うっ…
耳元で囁いて、頬と唇を指で撫でられる。その心地よさに、オレがまた何も言えず赤くなったのを確認すると、『じゃ』と言って足早に店内へ戻って行く。

「う〜っ またごまかされた!」
オレはいつもそうやって来栖ペースに巻き込まれる悔しさに歯ぎしりしたが、店の中から見つめる女客3人組の視線に気付いて、慌てて店内へ戻ったんだ。


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夜の見えない雲から

夏目カイトside

もしも人の心の中に、果てしない闇があったとして それを家族だから、恋人だから…きっとそこから救い出せるかというと、答えはイエスじゃない。

あんなにユキを愛しているユキの両親や、命を分けて生まれて来た双子の姉のサクでさえ…ユキはそこを生きる場所として望めなかった。

じゃあ、そのユキの救世主が鷹木かというとオレはそれも違うと思うんだ。

あいつはその闇に、多分一緒に住んでいた唯一の存在
お互いの顔が見える程度の薄闇の中で
あいつらはずっと、手を繋いで、励まし合って生きてきたんじゃないだろうか?

鷹木はこの世を儚んでた。 それどころかどこか軽蔑している節さえあったように思える。

なのにユキに対しては違ってた。

あいつは責任と言ったけれど

あいつこそユキが居たからこそ、そこに生きる意味のようなものを見いだしていたのではないだろうか?

(じゃあ なんで 死んだ ?)
(それとも無念だったか? …鷹木さん)

『…もうオレは ここからユキを 出してやりたかった』

(??)

なんだかあいつの声が聞こえた気がして、ふと振り返る。
駅前の繁華街は、昼には無かったにぎわいを見せていた。

勿論、そこに鷹木の姿なんてあるわけはなかったんだ…


 
ユキが退院したその日、父親が病院へ迎えに来て一家それは楽しそうに家へと帰って行った。
ユキも笑っていた。
でもその笑顔には、なんだか違和感を感じて仕方なかった。
なのに……
  

叔母のマンションに顔を出し、妹ともども食事をしたりして、そろそろ帰るかという所で携帯が鳴る。

ユキが居ないっ!何処にも居ないの!あたしが見てなきゃいけなかったのに…!ねえ…!ど、どっかユキが行きそうな所知らない?!どうしよう…どうしよう!!ユキ 死んじゃったらどうしよう…!!
「っ?!!」

明らかに取り乱しているサクからの電話
そういうオレも、ユキが居ないという言葉に 一瞬 呼吸が止まる…

昼間ユキと会った時、繋がれた指と指を オレはなんでほどいてしまった?

『ユキ… きっと死にに行ったんだ… あたしのせいだ…!! どうしよう……』 

学校は?! 鷹木の家は?! ああっ!もう泣くんじゃねーよ!! 絶対に…絶対にそんな事させねー!!
 

この世で一番大切な …報われなくても関係ない。

一生片想いでも構わない。

オレの大事なユキを、死なせたりなんかするもんか……!

(悪いけど 鷹木さん… オレはこんな世の中でも まだ見限っちゃいないんだ)

オレは携帯を持って、マンションを飛び出した。

「いったい何処にいんだよ ユキ!!」

夜は更けて行く。
にわかに月を隠した、夜の見えない雲から大粒の雨が ばらばらと落ち始めていた。

 


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番外編「NO.1の事情.2」

そいつは
反対車線のガードレールを挟んだ向こう。海ではない山側の、線路に並んだ細い歩道を、銀色のチャリンコで軽快に走っていた。

「おーい! ミドリ!」

車の中で助手席のオレを押しのけて、もう一度来栖が叫ぶ。
ミドリはそのまま行きかけて、
声に気付いたのか 急ブレーキをかけ 
振り返り 手を上げて答える。多分♂ 顔は…遠くてよく分からない。

(来栖先生は 目は悪いよな?)
資料を見る時やパソコンに向かってる時はメガネかけてるしさ…

「穂高君 あいつ拾ってくから Hはちょっとだけ我慢な」
「えっ?はっ? 拾うって だってこれからオレ達飯食いに…」
「まあまあ ランチは大勢で食べたほうが美味しいだろ?」

なんだとっ?!!coldsweats02

「な…っなんでそーなんだよ!大体あいつ 先生の な に?!」
来栖はハハハと軽く笑った後(ごまかしたな!)…ここからオレを完璧無視して、車を走らせ、右車線から右折してやや強引にUターンをした。
向かう先には、チャリンコの«ミドリ»だ!!
 
  

「いいよ だってデートだろ?邪魔しちゃ悪いよ」

「ま さ か! 今日は課外授業みたいなもんだし なあ 百瀬君?」

「……………annoyそうでしたっけ」

「百瀬君も来春進学だから、現役大学生の話を聞くのはとても参考になると思うし?なあ?」

「……………annoy……そうですね」 

来栖は車から降りて、ミドリの折りたたみ式チャリンコを積極的にたたみ、トランクを開ける。
積極的?!
そして後ろの左座席のドアを開け、『どうぞ』と言ってやや困り顔のミドリをそこへ促す。

オレにそんな事したことないくせにっ!
(紳士か!おのれは!angry

しかもなんか、妙に楽しそうじゃ無いか?!

助手席で、ブーたれるオレを…バックミラー越しに見たミドリが手を合わせて、すまなそうに謝る仕草をする。

端正な顔だった。

けれど繊細そうな顔立ちの松田アラタとはまた違う感じで、中性的な印象はあまりない。

この街のはずれにある、工科大学の3年生 
フルネームは 清宮緑(セイミヤ ミドリ)だそうだ。
 

「その制服 百瀬君?だっけ 頭いいんだ? すごいね」

屈託のない笑顔でミドリがオレに話を振ってくる。

「別に… スポーツ推薦ですから」
「へえ! なにやってんの?!やっぱりバスケ?」
「テニスですけど」
「テニス?! そうなんだ… じゃあうちの大学来たら? テニス部かわいい子いっぱいるよ?」
「はあ…」
「僕は マリンストーンサークルで…」

気を使ってるのか、人見知りしないタチなのか…ミドリは矢継ぎ早に話しかけてくる…
すると突然、ずっと黙って運転していた来栖が、そのオレへの会話を断ち切るように口を開いた。

「ミドリ 最近は大丈夫か?」
「大丈夫だよ 先生は心配しすぎなんだよ 今は自転車だって乗れるし」
「そうか …でもあんまり無理はするなよ」
「わかーってるよ! 僕は子供じゃないんだから」

オレには見えない話。

でも

なんだか 来栖のこのミドリに対する接しかたや、ミドリを見る眼差しは オレの知ってる来栖とはまるで別人のようじゃないか?
アラタの時とも違う気がする。ホスト順平には…そこは分からないけど

多分来栖はミドリを とても大事にしている。たとえば自分の宝物みたいに大切にしている…
そんな感じがして、なんだかオレは ちょっと不安になってしまったんだ。


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番外編「NO.1の事情.1」

百瀬穂高 高3。 同じ高校のバスケ部顧問の来栖と目下両思いheart02中 多分。

はっきり言って大人の駆け引きなんかオレにはまだ分からない…
ましてや…つき合ってみてだんだんわかってきた、オレの恋人«来栖礼壱»のあやしい人間関係ならなおの事。

来栖曰く「好き」「嫌い」じゃ割り切れない恋愛関係もあるんだってさ。
(それをオレに堂々と言いのける、あいつの神経の構造が知りたいよ!)

 

「いい加減機嫌なおせよ穂高。 可愛い眉間にしわがよってるぞ」
「うるせっ!別に怒ってねーし… 腹減ってるだけっ…て頬をつまむな!annoy

来栖の車の助手席に乗って、今からリッチな海辺のパスタ屋で日曜ランチ。
海沿いを真っ直ぐにのびる車道を、開けた窓から潮風を感じながら走る。

…って 本当ならスゲー楽しいひとときのはずが、来栖の言う通りオレは…すこぶる機嫌が悪かった。

一応、教員(ッて言っても来栖はバスケのヘッドコーチをしているだけだけど)と生徒の関係なので、一緒に過ごせるのは週末だけ。
だから土曜に会って、デートして、食事をして、………その後はまあ…Hをしたり…するわけだけど

『大事な試合が控えてるんだよ 会うのは夜から』

…で、会ったら会ったで、ずーっと部屋でパソコン見ながら苦虫つぶしたみたいな顔してオレなんかほったらかし!!
(春にトップシューターの夏目が高校を辞めたお陰で、チーム編成には相当苦労してるみたいなんだけどさ…)

オレがそのまま待ちくたびれてソファーで寝ちゃったのに、あ い つ め… 朝起きたらちゃっかり自分のベッドで一人すやすや寝てやがるpout!!

「今週はアラタが博多に出張行っちゃったから 朝食も食べられなかったしな〜 だからちゃんと穂高君が行きたがってた店に行くんだろ?」

まるで反省の色が無い!

不機嫌なオレの左側で運転しながら、まったく余裕の笑顔……

「それとも…」
「なんだよ!」

ウインカーを出して突然、左の歩道側に車を寄せる。

「先にホテル行って穂高君を食べてもいい?」

「は?!おいっ ちょっと!!」

来栖が自分のシートベルトを外してオレにもたれかかる!

おいおいおいおいおい!!sweat01来栖先生!!み、見られるから!!ひっ人に見られるから!!」

「昨日できなかっただろ? キスもしてないし」

慌ててのけぞるオレの顎を、大きな手で拘束する。

「だめ……だっ! 飯 食ってから!」
「食ってから? なにすんの?穂高…」
「なにって… ヤな 奴…!」 

お互いの唇が触れるか触れないかの位置まで顔を近づけて、来栖がそんな事話すものだから、オレはもう耳まで熱くなってしまう。

キスはされる… 
そう思って目を閉じた時だった……

「あっ!!!」

来栖はそう叫ぶと、オレの身体を退け…全開になってる右側の窓の方へ乗り出したんだ!

「ちょっとなんだよannoy! お も い!」
ミドリ!!

ミドリ?!…今度は誰だっ?!
オレは来栖の叫ぶ方、窓の外に慌てて視線を向けた。

 

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『冗談だよ…』

夏目カイトside

「お?!急いでんな〜カイト なんだよ デートか?」
午後1時 撮影を終えて現場を足早に出る途中に、照明スタッフに声を掛けられる。
「いや〜 友達が今日退院するんで それで顔見せに」

ユキが今日退院するんだ!

「ハハ! 友達に会いに行くってツラじゃね〜ぞ? 仕事ん時もその位の顔してみな すぐ表紙の仕事来るから」
「あーまあ 表紙より«そいつ»なんで…」
「のろけんな〜 うぜーうぜー さっさと行っちまえ」
オレは笑い、挨拶をしてその場を後にする。

先週は、どうしても休みがとれなくて… だから会うのは2週間ぶりだ。
今朝、ユキの姉ちゃんのサクからTELをもらい、退院の話を聞いた。

少しは元気になってくれたんだろうか?

(そりゃそうさ あの病室から出られるんだから)

遠いな
ユキの住む街までは とても遠い…


 


カイト!!

ひょっとしてもう病院には居ないんじゃないかと思っていたので… いやそれよりオレが驚いたのはユキが 笑って オレを見て オレの名を呼んだ事だった。

病室の戸を開けて、オレはあまりの事に何の返答も出来なかった。
ユキの母親とサクが笑っている。

「ユキったら カイト君を待ってから帰るって…」
「あ… あ そう…」
最近、食べ物も通るようになって、血色も大分良くなった。一人で歩けるようにもなった。
でも、相変わらずオレの事は、最近知り合った«友達だったかもしれない奴»で…

「母さん カイトと中庭に行ってもいいかな?」
「いいけど 早めにね… 病院閉まっちゃうから」
思い出してくれたのか? ユキ?
不思議な程、満面の笑みを浮かべたユキに手を引かれて病室を出た。


ずっと
ずっと触れられなかった、ユキの手のひら
ひょっとして夢なんじゃないだろうか?
(夢だったマジで泣くな オレは……)


もう午後で、人気の少ない入院病棟の廊下をユキと二人で歩く。

「なあ ユキ?」
「なに」
「そっち 違うだろ?」
ユキは明らかに、いつもの中庭とは違う方向へオレの手を引いて行く。

「ゴメンねカイト 思い出すの遅くなっちゃった… ねえ!何処行こうか?カイトは何処に行きたい?」
不審がるオレの顔を見ても、ユキは屈託ない笑顔のまま…
「どこって…」
「あ! カイト夏休み明けたら新しい高校行くんだろ?行ってみたい!外から見るだけでも」
「ユキ」
「あとね スグリ屋にも行きたい! 甘いのずっと食べてないし」


ユキ!! 今日は家へ 帰るんだろ?


ユキがそこで…ゆっくりうつむいた…

そしてオレ達を繋いでいた手が 指が そっとほどけた。

「…… そうだね 帰らなくちゃね 冗談だよ」
(ユキ………?)
もう一度ユキが 静かに 微笑む。微笑んで…その唇からオレに影を残す、言葉をこぼした…

「今……不安になっただろ …冗談だよ 本当に」

もう一度、冗談だと繰り返す。
オレはこの時、ユキの最後のサインを、見過ごしてしまっていた。

ユキにとって、家とはこの病室となんら変わりない場所 
ユキはきっと 帰りたくなかった… 
でもユキの望む場所は、まるで オレとの最後の思い出を作ろうとしているかのようで
なにかユキの決意めいた何かを想像させて 

どうして あの時 それに気付かなかったのか……

バカ だ … オレは 

そしてその日の夜、
ユキは自宅から
その姿を消してしまったんだ…

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白い花びらが、空の何処かへ

夏目カイトside

「すげーな… ここ 花のトンネルみたいになってんぞ」
「…………」
そこは、あたり一面様々な花や緑で覆われて、まるで映画とかに出てくる外国の庭のようだった。
「見ろよユキ! 池ん中 魚がいる!えっ?ナマズ?!まさかっ」
「…………」

まるでレポーターのようにオレは一人でしゃべる。
ユキはオレが指差す方に視線を向けはするものの、それに対して何の反応も示さない。

でも知ってるんだ…
ユキがまるで女の子みたいに、キレイなものや可愛いものが好きって事。

それは、空であったり…ケーキであったり…星であったり… 熊のぬいぐるみであったり

もしあの無機質な病室を、せめてそいうものでいっぱいにしてあげたら

ユキはもう一度、笑顔を取り戻してくれるんじゃないだろうか?

( ……………。)
単純かなsweat02 だからバカって言われんのかな…
けど……

「あんな地味なとこに閉じ込められてたら そりゃ気もめいるよなー?」

車椅子を押しながら、オレがそう呟いた時… ユキが口を開いた。

「…母さんには 悪い事をした…」

「言いたい事は言えよ 身体に悪い」
「何度も 死にたいって… 言った…」

消え入りそうな声だった… 
(…やっぱり…追いつめられてたんだな…)

白い薔薇の垣根と垣根の間に奥まったスペースがあって、そこに車椅子を中庭がよく見える位置にまわして置き、真横に腰を下ろす。

「なあユキ それってさ… ごめんな 分かったふりみたいに思われるかもしんないけど…」

ああ
鷹木さん…
オレにこんな役をさせんなよ…

「オレにはさ、«死にたいくらい辛いから 助けて下さい»って言ってるように聞こえる」

「……僕は たすけなんか……」

「だから いいんだよ わがまま言えって! ばばあウルセーって言ってやれ!」
「…………僕は」
「大事な子供に… 大事な人間に死なれる位なら、オレは例えどんなでも…言葉を聞ける方が 幸せだ」

湊斗さんも
鷹木のアホも
もう、オレには何も語らない…


「………うっ」


それまでずっと無表情だったユキが、一瞬顔を強張らせたかと思うと…肩を震わせて、けど… 声を殺して泣きだした。
オレはそのユキに触れる事も
慰めることもしなかった……その姿があまりにも痛々しくて、そうしてしまったらきっと…ユキが壊れてしまいそうで…

ユキはあの病室で、感情をあらわにして泣けた事があったのだろうか?
鷹木を悼む事が出来たのだろうか?

風が吹く…
盛りを過ぎた、白い花びらが空の何処かへ飛んで行く。
「ユキ 見ろよ! すげーキレイ!」


オレは次の休みも、その次も ユキの病室へ向かい、ユキとこの中庭を散歩した。
ユキが相変わらずろくにしゃべらなかったし、オレの事も思い出したりはしなかったけど
オレはそんなことはどうでも良かった。

あの狭い牢獄のような病室から連れ出して、ただ…きれいな、ユキが好きなものだけをユキに見せてやりたかったんだ。
オレの大好きな大好きな ユキに


けど それすらも、今のユキにとっては、下らない浅はかな慰めでしかなかったという事に
その時のオレは 全く気付いていなかった………

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どんな君でも

夏目カイトside

…やっぱこういう時は、花とか買ってきたほうが良かったかな?
手ぶらってな… こうフルーツがいっぱい籠に入ってる奴とかさ…

ユキの入院する病室の入口まで来て、今更そんな事を考える。
(たく、女々しいなお前は… さっさと入れよ!)
そりゃここまで来て帰るわけにはいかないし、けどいったいどんな顔をしてあいつに会えばいいのか…

深呼吸。

なんとかなる!…はず。

ガシャン!!

「!!」
思い切って病室のスライド式の扉に手をかけたその時、部屋の中から何かが落ちる大きな音がして、オレはためらいも忘れて思い切り扉を引いた。

「あ……」
その部屋には、こっちに背を向けた格好でベッドから降りようとしているユキ
慌てて、それを止めようとしているような、ユキの母親と…
床に無惨に散らばったトレーと食事らしき色々……

「ユ キ…」
「あ、カイト君?! よね… この子止めて!ずっとベッドで寝てたのに外に出るってきかなくて!」
うるさいな!!離せよ!!

叫んで、母親の手を乱暴に払ってつきとばす。

あれがユ キ ?
そして見た目にも危なげに立ち上がったと思った瞬間、膝から折れてその場に倒れた。

「おい! ユキ!」
オレはそれを見てやっと動く事ができた。
慌てて倒れたユキに駆け寄る。
駆け寄って、やっとユキを正面から見て、オレは息を飲んでしまった。

この前会ったときも痩せたと感じていたけど、今ここに居るユキのやつれようはなんだ?

頬もこけて、顔色も青いを通り越してまるで血管が透けるように白い…
浮き上がった鎖骨が痛々しい…掴んでいる腕も、およそ筋肉なんてものが感じられない程細かった…

「だれだよ おまえ…?」

オレに向かってユキがはなった言葉。

「え…?誰って… 分かんないのか?」
「ごめんなさいね?カイト君… ユキちゃん あなたのお友達じゃないの」
「…と も だ ち ?」


ユキの記憶は、ずっと混乱しているのだそうだ。
オレに対する視線も、初めて会ったかのような、ある種敵意めいた油断ならぬというような感じで…それがオレの知ってるユキとは全く違うものだったので…オレは一瞬戸惑った…

けど

これもユキの姿なのならば、このユキもオレの大事だ…


ずっとベット生活で、足の筋力が落ちたユキを車椅子に乗せ、(はじめはこれも散々嫌がられたのだが、なんとかなだめ…)病院の中庭に連れて行く。

車椅子を押しながら中庭への扉を開けると、そこは地上3階とは思えない…花の園だった。


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工君in敦煌 DVDの感想(サク)

斉藤工君のDVD「プライベートジャーニーシリーズ」の感想ですshineBL小説記事ではありません。

見ました!!今日は「敦煌編」です!!
TV等で演じてる工君も素敵ですが、このDVDではより自然な工君に出会えるのでおすすめですlovely

なんだか工君の、なんとなく脱力感のあるまったりとしたオーラ(?)にスゴく癒されました!!でもってやっぱり可愛いなあ…(なんか大人の階段を上るたびにsweat02素敵な人に対して可愛いと思ってしまう事が増えて来て複雑なこのごろですが…)

今、工君が出演しているNHKの時代劇「オトコマエ!」も良いんですけど…やっぱり演出が古く感じてしまって普通に見れないんですよね…時代劇的には斬新なんでしょうけど…私はどうも受け付けない…なんでコントみたいにするのかなあ?工君の殺陣シーンももっと見たいのに…準主役だから仕方ないのかなあ…gawk

で、そのフラストレーションを断ち切る為に週初の日曜は敦煌編で1週間の猛チャージ!!!
工君のみに集中するつもりが、普通に敦煌(西安)の街並にも興味をわかせてしまいました。

……らくだの首はあんなに長かったんだ とか(笑)砂漠の果てから上る太陽の美しさとか…
あと謎のカップ麺やら、意外に絶賛されていた白いドリンク等々、あっという間の60分。

私も砂漠を板で滑り降りてみたいです。運動神経が無いので下に落ちる頃には砂のだるまになってる可能性大ですけど(それで笑いがとれるのであれば私はやります)…

でもって工君は絵も上手。
突然あのアングルを選ぶあたりも不思議で可愛いっす!(ああ…また)
旅行で絵を描き出すあたり、ノーブルな感すらありますよね…私も絵は好きですけど写真はとれども絵で風景をおさめた事は無いです。
若いのに、そんな品のある工君がまた萌えなのです。
いつか敦煌に行く事があったら、ぜひあのコースをたどってみようかな(まじでかなり行きたい)。
あのホテルは厳しそうだけど(女子なので)。

ともかく、これでまた今週頑張れそうsun せめて残業無く定時で帰れる事を目標に(ああ、リアルになってきたな)

ではでは。

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山ガラスの知らせ

夏目カイトside

「なんだよ そのツラ」
アサヒと待ち合わせた、駅近くのカフェ。

正面の席で、頬杖をついたアサヒが額の傷を目を細めて不審がる。

「シャレになんねーよ… マンションのゴミ置き場に毎朝カラスが溜まってて…この前遂ににオレを襲ってきてさ」
「は…? か ら す〜?」

お陰で、事務所には散々怒鳴られ、仕事の方はまあ、なんとかメークでごまかせるみたいなんだけど。

「1匹たちの悪い奴がいて、今朝もオレを狙ってきやがったんだ!」
群れの中の、明らかに他のカラスとはクチバシや身体の形が違う奴。
そいつが毎朝、オレをピンポイントで狙ってくるんだ!

「あ〜 ひょっとして山ガラスなんじゃねーの? 都会のとは少し身体が違うっていうぜ?」
「やま?…知んねーけど」

「しかしカイト… お前もさ おめでたいやつだよな?」

「あ?なんだよannoy?…大体さーお前今日はなんかオレに話があったんじゃねーのかよ」
アサヒがオレの顔をつまらなそうに一瞥する。
ピシピシとコーヒーの氷がきしむ音… それをアサヒがストローでかき混ぜる。

「… 柏原さ あいつしばらく休学するんだってさ」

「?… はっ?!」

アサヒの口からユキの名前が出て来ただけでも意外だった。
その後の言葉を理解するまで、オレはしばらく固まってしまう…

「なんで? ユキ また調子悪いの?!」
少し前にオレのマンションに来た時は、結構元気そうだったのに
その後は、当たり前だけど…なんの連絡も無くて

「悪いんじゃねーの?長期入院する位なんだから」 
「長期… 入院て!! いつから?! なんで?!」
頭が真っ白になって思わず立ち上がり、アサヒに詰め寄る。

だってオレは何にも知らなかったんだ。

この時まで、

あの海の街で、ユキのまわりで起こっていた事

何も 知らなかった。


「5月だったかな… 鷹木晴彦が、 事故って死んだんだ」
………………………?!!

「乗用車に引っ掛けられて 即死だってさ… 高校の追悼式なんか号泣する奴続出で悲惨なもんだったぜ?」
「な… 冗談だろ? アサヒお前」

あいつが しんだ?

「カイトが馬鹿みたいに烏と格闘してる間に、鷹木は死んで柏原は現状再起不能だ」

淡々と、無表情に語るアサヒの言葉に、オレはもう疑う余地を見いだせず…絶句して、また椅子に力なく腰を下ろす。


あいつに最後に会ったのは、あの海の街の朝の浜辺


(鷹木さん あんた 中学ン時何部だったの?)

『野球、ショート4番… お前はバスケ 辞めるなよ?』


最後の言葉、まるでその海岸線に光っていた朝日のような笑顔と、あげられた右手…振り向かなかった背中


(う そ だ ろ…………?)

「死んだってなんだよ… どおすんだよ… だってユキは」

だって…あいつはお前を失って、ひとりで生きて行ける程、つよくなんてないんだよ…!

「ま、それで駄目ならそれまでだろ?死にたきゃ後追いでもなんでもすればいい」
「アサヒ…! てめ」
オレはアサヒの胸ぐらを掴み、まわりの目も構わずに拳を振り上げる。

カイト、戦線離脱したお前に オレを殴る資格があるのか?

「………」
「人間…まわりに誰が居ようと居まいと…生きてくのは自分一人だろ? 大体、それと寂しさとは別のもんだ」

上げた拳をテーブルに置いて、全く慌てる様子も無かったアサヒを解放する。

戦線離脱
鷹木晴彦の死
オレはあのまま、高校も辞めず、ユキのそばに居るべきだったのか?


 

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リロード

携帯のメモリーを消して、ジョイントの部分を逆に折り、壊す。
それをナイフと一緒に公園のゴミ箱に捨てた。

僕は先輩の言いつけ通り、そのまま家に向かおうとした。
明日から、何事も無かったように生きる為だ。

「あしが うごかない」

さっき、先輩の前で死を覚悟した時はなんの恐怖も無かったのに… 
今は、生きるという事が逆に恐ろしかった…
あいつの死を隠すことがそうなのじゃない。
僕は先輩を巻き込んだ責任か? それもあるけど もっと別な事…

「僕はもう 身体の底から汚れてしまった……」

先輩は僕を見るたび、今日を思い出すだろう。
まるで、まだ僕の中に残ってるかもしれないミクラザキの痕跡を見透かすように、僕とあいつを重ねて見るかも知れない。

先輩が守ってくれていた僕は、こんな汚い僕じゃ無い…

そうだ 先輩はきっと、憎んで、後悔して、苦しむ事になる…

『一生、つきまっとてやる』

ミクラザキの幻聴がまた耳の奥に響く。

「勝手にしろよ… どうせ狂った死にぞこないみたいなもんだ… だけど」

さっき学校で別れる時、絶対に早まった事はしてはならないと先輩に約束させられた。
先輩の約束は絶対だ。
だから、ぼくはまだ しねないんだ しねない………

「いっ…痛!」
また激しい頭痛だ。

後頭部に激しい熱と痛みを感じて、うめきながらその場へうずくまる。
息が出来ない…吐きそうだ…!

早々に天罰なのか?天罰?あいつはのうのうと生かされていたのに!!

でも そうだとしても 

ぼくは あのひとを… こんなところへのこして いくわけには いかないんだ… 

いつの間にか日が暮れていた。
公園の薄闇の中で虫やカエルの鳴き声が一帯から聞こえている。
月が白い… なんだかとても神々しい…
僕は重い身体を、ひきずるようにしてゆっくりと身を起こした。

「あれ?なんで僕 こんな所にいるんだろう? なんだろ? 身体が…痛い」
「あ、そういえば先輩が山で待ってるんじゃなかったっけ?」
「なんで山なんだ? でも早く行かなきゃ… 夜になっちゃうよ」
「ああ、やだな なんでこんなに汚れてるんだよ」

僕は制服についた泥を汚そうに払いながら立ち上がる。


(この日、僕の記憶は 欠落した)

「ああ、月がきれいだなあ」
 …微笑む…

(三倉崎楓の記憶は、僕の中からその一切が消滅していた)

先輩が大事にしてくれた、純粋で無垢な かりそめの 柏原ユキで居る為に
僕が明日から 素知らぬ顔で 生きて行く為に……


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はじまり

(実に笑わせる… キレイな言葉を並び立てて 正義ぶって またご同情をいただきたいのか?) 
…………
(結局何もできなかったじゃないか 結局逃げただけじゃないか?)
…………
(幸せだ? 実に滑稽だ… これは 終わりなんかじゃないぞ)

「おわりじゃない?」

夕日の光がさらに赤みを増していく。
何処かで夕立でもあったのか、空の向こうに重く浮かぶ鈍色の入道雲の塊と湿気を帯びた冷ややかな風が髪を乱した。

誰も居ない公園のブランコ

僕は先輩に言われた通り、ミクラザキの青い携帯を開いて僕のアドレスや履歴を消去した。
僕に送られたメールを見るだけで吐き気がしてきて、あいつの記憶が僕の身体に蘇ってくる…

「くそっ…」
酷くなる震えを止めたくて必死に自分の腕を抱えた。

僕をあざける笑い声 暴力 

僕の中で、僕が痛みに苦しがるのを楽しむように…激しく動いていた…あの感覚まで

「いたい いたい 痛い………!」
今度は激しい頭痛だ。
僕が痛みに目をつむり、開けた次の瞬間だった。

ブランコに腰を下ろした僕の足首を誰かの«手»が掴んでいる!!

「ヒっ!!!」

そこに這いつくばっていたのは、居るはずの無いミクラザキの身体だった。

慌てて逃げようとする僕の身体を、足首をしっかりと握って阻止する。
赤い空に、オオオオっと低いうなり声のような風が響き渡る。
僕はブランコの鎖をにぎり、必死に逃れようと暴れた。

「なんで! なんで! なんで! なんで………?!! し、 しっかり しないと… これは」

幻覚だ!!

『ちがう』

その時、突っ伏していたミクラザキの頭が
ゆっくりと動いて
笑いながら僕を 見る…………

「だって…死んだだろ? なんで つきまとうんだよ?」

『ちがうんだよ』

「違わない!!! お前は死んだんだ!!!」

ミクラザキが片方の口端だけをあげて、ニヤリと笑う。

『だって お前の身体ん中 オレまだ残ってんだろ? 柏原くん?』

っ!!!!

『お前が死ぬまで つきまとってやる』

赤い
赤い
赤い
僕の頭の中はこの空のように、あの先輩のシャツを染めた返り血のように真っ赤になっていた。

携帯を、居るはずの無い でも間違いなくそこに存在している ミクラザキの身体に投げつける!!

「地獄に堕ちろ!!!」
僕は叫んで、消えた幻影を確認して 腰を抜かした。

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運命の日.3

「せんぱ い… な ん で…?」

ミクラザキは制服のブレザーにいつもバタフライナイフを隠してた。
僕がそれで脅された事は無かったけれど、まさかあいつも…自分が持ってた凶器で命を落とす事になるなんて夢にも思っていなかっただろう…
僕を抱くのに脱ぎ捨てられたブレザー
ナイフは偶然に、それともなにか必然的に内ポケットから落ちてしまっていた…

「て… め… タカ ギ…」
「三倉崎… よくも 貴様…!!」

ミクラザキの背中に深々と突き立てられたそのナイフ
それを怒りに震える表情で握った先輩… 先輩の白いシャツが見る間に赤に滲む…
僕は混乱して、身動き一つ出来ない…今視認している情景をイメージは出来ても理解が出来ない…

許せない… 貴様だけは 絶対に ゆるせない!!

とぎれとぎれに、涙まじりの震える声で でもはっきりと聞こえた先輩の言葉。

先輩がミクラザキを刺した

ぼくのせいで

ぼくのために… 人を…

「お い… かしは…」
僕の膝の上にがくりと倒れ込んだミクラザキに突然名を呼ばれてギクリとなる。

その視線は、一瞬…哀願の光をおびていた… 僕に? お前は今更僕に なんで救いを求められる?!

もうその腕は僕を殴れない。
その足で僕を蹴る事も出来ない。
その身体で僕を陵辱する事だって…

ミクラザキは僕の無感情な視線を受け取ると、そのまま僕の脇に転がるように倒れ…
何度か痙攣した後、動かなくなった。僕はそれを冷酷に見守った。

「… しんじゃった… 」


先輩が2、3歩ふらふらと後ろ向きに退いて、腰からへたり込む…そして両手を見つめてそのまま頭を抱えた……

反対に僕は、痛む身体をなんとか奮い立たせて、ズボンをはき直し
ミクラザキから引き抜かれた血まみれのナイフを手に取った。

もうおかしくなっていたのか、それとも僕にも多少なりとも男気みたいな物が存在していたのか
僕はあいつの死に関して冷静だった。
そんな事より、僕とって今…絶対的に死守しなければならない事…

「か し は ら… おまえ なにを」

「僕の願いだったんだ いつかはきっと僕がそうしてた…」

「え……?」

「ごめんなさい 僕がもっと早くそうするべきだったんですけど… でも大丈夫!!」

「いったいなにを…言ってるんだ? 柏原」

「三倉崎は僕が殺したんだ…」

せめてもの 償い…
僕は先輩を守らなければならない。
僕のせいで先輩を殺人者にするわけにはいかない。
願いは叶った… だから今度は 僕が僕自身で…その見返りにきちんと幕引きをしなければならない。

僕がやったと警察に電話をして
それで警察が来る前には…………
よかった… 僕の死は これでやっと 意味のあるものになる… 

違うだろ!!
「…!」
僕は腕を引っ張られて、立ち上がった先輩に抱きしめられた…
「お前は 被害者じゃないか……!!あいつは オレがっ!!」
「僕は言うよ… 僕がやったって 絶対に言うよ! 先輩が口を出しても警察は僕の方を信じる…だって僕は三倉崎を心から恨んでいたんだから」

そうさ…心の不安定な僕が 同じ男に 犯されてたって言えば ……
そして その悪魔から僕を救ってくれた スーパースター!
今その腕の中に僕は居て、僕はとても 幸せだ……

 こんな血まみれの異常な光景の中でさえ

「……… 山に 捨てよう」
僕を抱きしめながら、静かに先輩が呟いた…


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運命の日.2

「よう 柏原君? オレ昨日来いって言ったよな?」
「っ!!」
放課後、一階のPC室の窓から外へ出て、教職員の通用門へ走る途中、僕はまんまとミクラザキに捕まり…人気の無い第二校舎の裏手に引きずられる。

今は使われていない焼却炉と、運動部の備品を保管する倉庫と、夏になって急に生い茂って来た雑草と
倉庫の側面に向かって突き飛ばされ倒れた僕 それを冷たい瞳で見下ろすミクラザキ

「もう嫌だ! もう散々僕をなぶっただろ? いい加減に飽きてくれよ…」

今朝、先輩とかわした約束すら守れない。
僕を心から心配してくれる先輩を思うと、なんだか自分の不甲斐無さに情けなくて胸が苦しくなる。

いつもは黙って殴られ、運が悪ければ身体を開かされ…恐怖に震えて、僕の間で…笑いながら腰を揺らすこいつの顔をただ朦朧として見ている…

「ああ? …飽きね〜なあ〜 なんでかな〜 女でもこんなに続いた事ね〜のに」
「僕はあんたの女でもないし! 奴隷でもない!! もう… 限界なんだよ… やっと…やっと当たり前の生活が出来るようになったのに また夜になると思い出す… また腕を切るんじゃ無いかってずっと眠れないのに!!」

「そんなの オレの 知った事じゃねーよ」

確かに そうだ…

かすかに、微々たる同情を期待した僕が 馬鹿だったんだ…


日が暮れる。
赤い火のような夕日だった…

この日の暴力はいつもの非じゃ無かった。身体だけじゃなく、顔も何回か殴られた…
僕の口答えが、相当ミクラザキのご機嫌を損ねたんだろう。

ああ… 今日もヤられるな… ……。下品な言葉 これもあいつの影響だ…


非道い暴行のお陰でもう下半身にも感覚が無い… 意識も微妙だ… このまま気絶でもしてしまえば起きた時には一人になれる。

先輩はもう、帰っただろうな… 
明日 なんて言い訳を したら いいだろう?…

僕の意識がもう少しで飛びそうになったその時、僕に覆い被さっていたミクラザキの身体が飛び起きるように離れた。

三倉崎っ!貴様!!
!!!!!!
必死で頭だけを上げて声の方向を見る。


なんで………… 
なんで たかぎせんぱいが ここに いるんだよ


「邪魔すんな…」
僕からあいつを引き離そうとした先輩を、ミクラザキがいとも容易く殴り飛ばす。

「せ ん ぱ い」
叫んだつもりが声にならない。

先輩が僕を見る… 制服のズボンを膝下まで下ろされ 惨めに仰向けになった僕の姿を…

人がする…あんな哀しげな表情を

僕は

生まれてこの方 見た事が無い…

「鷹木君さ〜 オレこいつ貰うわ… おい…そんな顔すんなよ オレが終わったら最後の記念にお前にもヤらせてやるから だまってそっちで擦ってろ!その位一人で出来るだろ? ヒャハハハハ!!」
「……… みくら ざ…き」

まるで、その行為を見せつけるように
ミクラザキは笑いながらもう一度僕の足を無理矢理開く
「いっい や だっ!!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!! 先輩の前で こんなのは… なんて奴 なんて最低な奴…!!


(…おまえなんて しねばいいのに…)


「へ…?」

ミクラザキの顔色が瞬時に変わる… 僕の足を抱えながら 戸惑ったようにゆっくり後ろを振り返る。

そこにはなにやら、ミクラザキの背中に何かを押し付けているような先輩の姿があった。


空の夕日は、また不吉な程に 赤みを増していく。
そして血のようなその色を ここに居る僕らの心にも 滲ませて…
 

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運命の日.1

それは運命の日
«運命»だなんて言葉はありきたりだろうか?
僕が僕の命のすべてを持ってしても償いきれない、ある事件が起こった日だ。


「最近、帰りが遅いんだって? 学校で何してんだ?」
「別に… 図書室とか」
「昨日行ったけど、お前居なかっただろ?」

朝、学校に行きすがら…自転車を転がす鷹木先輩に詰問される。

何をって
言えるわけがない…

「誰かにまた何かされたのか? 柏原?」
「……………」

朝だというのにもう蝉の声が聞こえた。
焼き付けるような夏の日差しの中で、僕は先輩に腕を掴まれ…口ごもる。
先輩の開いた襟の首筋には幾筋かの汗がつたっていた。

「お前、ここんとこずっと顔色が悪いぞ? 言ってみろよ… 大丈夫だよ…前のいじめだって無くなったろ?オレがちゃんとどうにかするから」
「なんでもない… なんでもないよ先輩。今日は早く帰る」
無理して笑ってみる。

僕は、三倉崎との事を先輩に話したらどうなるかを想像して酷く怯えた……
あんな事を先輩が知ったらきっと…僕まで軽蔑されてしまうかもしれない…
あれは暴力だ!
僕はそう割り切ってるんだ…! …でも 先輩に 知られるのだけは…

「…分かった じゃあ今日は一緒に帰ろう 放課後、校門な」
「…はい…」
「約束だぞ」

先輩は優しい。
そして僕は、こんなにも潔癖で純粋な人を見た事が無い。
僕は先輩の隣を歩きながら、僕自身がこうして先輩のそばで歩く事さえ、許されない事のような気がしてならなかった…

とにかく少し前の僕とは似て非なるもの。

僕は、堕ちてしまった。
どうして… 僕はそれを望んだわけじゃないのに…

(そうだ…先輩だって それを 望んだわけじゃなかったはずだ)

僕のせいで先輩が背負ってしまった十字架
僕がもっとはやく
それを実行していれば… 

そしてその後に僕が消えてしまえば、それですべてが終わったはずだ。

暴力?ちがうだろ?
そんな生半可なものじゃない… 僕はそうやって言葉で逃げていただけ…サクを守るとか奇麗事で、自分の果てしなく脆弱な心を守っていただけ…

そして僕のこの甘えが弱さが愚かしさが、この日を、呼んでしまった… 
誰よりも大切な人を その闇へ引きずり込んでしまったんだ。

(梅雨が明けたばかりの 7月のあの日…)


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三倉崎楓.2

(嘘なんだよ……。僕が汚れも知らない 無垢な人間だなんてのは)

目をつけられて、暴力を振るわれるのは慣れてる。
でもさっき腹を蹴られた衝撃は、今までされたどの暴力よりも激しい痛みだった気がする。
まだ痺れが取れない。腹に力が入らず叫び声も出ない。

化学室に連れ込まれ、立ち上がろうとしたところにもう一度、今度は足を蹴られた。
こいつは見えないところばかり狙ってるんだ…

「ちょっと なんで… なんでこんな事するんだよっ! 僕があんたに何をしたって」
「なんで? ハハハ!なんでって …面白れーからだろ?…」

「…っ?! なにするんだよ!!い、嫌だっ!!!」

ミクラザキが僕のベルトに手をかける。
その片方の手で、僕の抵抗する両方の腕は僕の頭の上で易々と封じられもう自由が無い。
何かが違った…
違う、次は殴られたり、蹴られたりするわけじゃない…
じゃあこいつは僕に何を…

「あ?嫌だ? なあ、もっと嫌がれよ…」
「え?!…や め ろ よ!!いや だっ!!」

ズボンが下着ごと下ろされ、暴れる両足を思い切り抱え上げられた。
「な、何をっ?!」
恐怖の眼差しでミクラザキを見上げる僕と、嘲笑をたたえて見下げるあいつ…
っ!!!

(だから僕が何も知らないなんて 嘘なんだ……)

「痛っ…!!…っ い た いっ!!助け…っ」
今までに経験した事の無いような激しい痛みだった。
身体の中心を突き抜かれ、それが何度も乱暴に 連続する…

「あれ?なんだ 君 鷹木と 何も してないんだ?オレが初めての男になっちゃったな?ハハハ!かわいそ」

僕は、僕の足の間で僕を蔑み続けるミクラザキをやっとの思いで見返して

そして

僕があいつに女にされているのだという事を自覚した。

屈辱とそれでも消えない恐怖と、そんな自分への怒りと…

(そうだ あいつが しねばいいと おもったのは ぼくが さきだったのに)


あいつは僕を執拗に付け狙った。
逃げれば捕まえられる。

携帯で学校のどこかへ呼び出されて、暴力をふるわれ、またあの行為をされる。
行く必要なんて無い…初め呼び出しを無視したら、

『柏原君、姉さんいんだろ? オレは女でも構わないんだぜ?』
メールにそう書かれてたんだ…

脅しかもしれなかったけど
僕はそれだけは守らなければならなかった。
あいつは危険だ。 きっとサクでも敵わない… サクは女の子だ… 男の僕はそれさえも暴力と思い込めばいい。でもサクは…

そのうちあいつも飽きるかもしれない。
その前に僕の身体が壊れるかもしれないけど… でも

サクを守ってるんだというプライドだけが、今の(あの時の)僕の最期の砦だったのかもしれない。

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三倉崎楓.1 

また白い天井…視線を動かすと白衣を着た男の人…後ろに女の人も居る…  
「やあ、今日は気分はどうだい?」
「………」
「今日もいくつか質問させてもらうからね?」
「………」
まどろむ僕は時折こうやって、あまり心地よくない世界に呼び戻される。

「えーと じゃあ君の名前を教えてもらっていいかな? ゆっくりでいいからね」
なんて当たり前で、下らない事を聞くんだろう?

「…… かしはら ゆき」
「うん。じゃあ年は? ユキ君は今年で幾つになるんだっけ?」

とし…?年齢… 
あれ、僕は何歳なんだっけ?

「…10…か 14か 15?……わからない」

なんで自分の年が分からないんだ?

「惜しい〜! 答えは17歳だ。次の誕生日がきたらね うん…次はね、今君が一番したい事を教えてくれるかな?なんでもいいよ たとえば美味しいものを食べたいとか… スポーツとか… なんでも」
したい事? そんなの無いよ… 
食べたいものなんて無いし、スポーツなんて見るだけでもめんどうくさい…
でもあえて…いうのなら

「ぼく 死にたい」

「………うん。それはバッテンだなあ… «生きたい»なら花丸だったんだけど…」

(あんたがそれを質問したんだろ? なんであんたにそれを採点されなきゃなんないんだ?)

だんだん声がノイズまじりの只の音になっていく。
視界もおなじ、放送を終えたTVの砂嵐みたいだ… 

よかった…これで僕は また夢の中で 先輩に 会いに いけるのだから…


『やあ』

またあの医者? 
ちがう コレは夢だ…


「おい そこの君だよ!」
放課後、もう帰ろうとしていたところで、ふいに声をかけられる。
見知らぬ笑顔。背の高い大人びた感じの先輩(3年生だ)…制服もきちんとしていたし一見すれば真面目そうな感じなのだけど、僕はなんだかその目だけが笑っていないように見えて…怖かった。

「鷹木と仲良いだろ?よく一緒に居るのみかけるからさ」
「いえ… 仲が良いっていうか…」
なれなれしく肩に腕をまわされる。

「ホントは君も知ってるんだぜ この学校じゃ有名だから…さ!」
「あっ!なに?!」

«そいつ»は、無理矢理僕の左手首を掴み自分の顔のあたりまで引き上げた。
「あっ スッゲー! まじリスカしちゃってんだ?!最近はやってないの?」
「ちょっとっ…!!止めてください!!」

無神経な行為への怒りと、腕の傷への羞恥心で真っ赤になってしまった。
それが«そいつ»の好奇心にさらに火をつけたのか、僕の腕を拘束したまま片方の手で僕の顎を乱暴に掴む。
「ははは!! あのクソ真面目な奴のご執着がどんな奴かと思ったけど…有りだな?!かーわーいー!!で?!そのカワイイ顔があいつとヤる時はどうなっちゃうわけ?!」
「は?!あんた何言ってるんだよ!!」

夕日が窓から差し込む。
その廊下には誰も来る気配がない。

「っ!」
僕は思い切りそいつの頬をぶった!!
とにかくこの場を離れよう! 一瞬離れたそいつの腕から僕は身体を翻して、全力で走って…!

でも哀しい事に…
僕の左手首にはまだしっかりと、そいつの手が握られていて…

それを見て愕然とした瞬間、腹辺りに鈍い衝撃が走り僕はその場へ倒れ込む。

「びっくりした〜 はははっ!やっぱおもしれーな!」
「ゲホっゲホっ!!」
膝蹴り… 嫌な笑いかた… 

「ははは!! そーだ!! こっち来いよ!」
「ゲホっ!…えっ?! ちょっ ?!」
無理矢理、僕は床に這ったまま腕を引っ張られ 隣の化学室に引きずり込まれた。

こいつが
«ミクラザキカエデ»
僕はこの日…あいつの

(あの日から僕は、あいつのおもちゃになったんだ)

 
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7月の話.2

浜辺の花火会場は大勢の人でごった返していた。
僕は先輩の背中を見失わないように、慣れない下駄で早足。

先輩はまた背が高くなった…なんだか後ろ姿も少したくましいように感じる。
1年しか違わないのにな…
僕は自分の体型を思って少し情けなくなりつつも、なんだか赤面していた。
(なんで僕が赤くなるんだ?)

ドンっ
「おい!おねーちゃん!何処に目ーつけて歩いてんだよっ!annoy
「はっ あ…! す、すいません!すいません!sweat01

浴衣を肩までまくり上げ、その腕には色鮮やかな鯉の模様…………
その時、僕はその…大きなガタイの、あまり柄の良いとはいいがたい男の人に…真正面からぶつかってしまった。

「あ〜れ〜? 君マジかわい〜ね〜 おねーちゃん中学生?今日ひとりなの?」
急に舐めるような目つきで、にやにやと上から下までじろじろと見られる。
さらに肩を掴まれて、思わず息が止まりそうになる。

やっぱり浴衣なんて着るんじゃなかった…!
花火だって家の2階から見れば、ほんの小さくだけど見えなくはなかったのに!
あっ!
なんかこの人仲間呼んでるよっ! 逃げないとっ!で、でも肩をっ

「ちょっと! は な し …っ!!
そう僕が叫びかけたとき、誰か後ろから身体をグイと引き寄せられた。
仲間?!つかまった!!

「すいません こいつオレの連れなので… なにか失礼がありましたか?」

「せ、先輩っ!!crying

僕が来ないのに気付いてくれた先輩が、そのチンピラ(だってまさにそんな感じだったんだ!)の真正面で、僕を隠すように立つ。

頼もしい先輩の背中…
そんな状況じゃないのに、なんだか嬉しいような気持ちでドキドキする。

「あ〜?!なんだよ!男連れかよっ」
…僕も男なんだけどな…

そして次の瞬間
ドンという乾いた爆発音

暮れ切らない薄明かりの空に、大輪の菊のような 白い 光の 火花

その始まりの1発目に続いて、今度は連続して色とりどりの火柱が空に弾ける。

「おおっ はじまったな!!」
チンピラが嬉しそうに叫び、やってきた他の仲間達とどこかへ行ってしまった。

そして…最初の花火のあと、次に僕が魅とれたのはそれじゃなく
無表情ともとれるような、冷静な表情で音と光の方向を見つめる先輩の横顔だった。
その瞳のなかに映る、白い火花を僕はうっとりと見つめていた…

「…オレはあんまり こういうのに興味も無かったんだけど」
「きれいなのに でも僕、こんなに近くで見たの初めてだな」
「お前に言われると、なんでも奇麗に見えてくるから不思議だな」
「え?」

「こうやってさ 冷やし飴のガラスに空を映してさ オレ今でもたまにやるんだ」

「??…なんの話ですか?」

また大きな音と共に花火が上がる。