あの日の月
その駅は、大きな路線とは別に古い私鉄の発着駅になっていて 民家の間をすり抜ける場所を除いては、線路と平行に道が添い、そのずっと先には僕らの高校の最寄り駅もある。
僕らはその道を歩く。
こちらはとっくに終電を終えて、もう静まり返った昼から無人のその駅のホームの石段を上りベンチに腰を下ろした。
自販機の明かりだけが、弱々しく古いホームを照らしている。
「ラッキー この自販機携帯使える! ユキなんか飲む?」
まだ濡れているカイトの背中
髪は少し乾いたように見えた…
「あっ!ユキ «甘っ!おしるこ〜»てのある!って夏にホット置くか?!フツー!!」
「カイト………」
「じゃあユキは«甘っ!おしるこ〜»な」
カイトは知らないから
本当の僕を知らないから
そうやって優しくできるんだよ
「カイト」
「ん?」
自販機から缶がゴトンと落ちる音がして、カイトが振り返る。
「僕は 中学の時 男に抱かれた事があるんだ」
「……は ?……」
カイトの表情から笑みが消えて強張る…
「同じ中学の3年生… 僕はそいつに 何度も犯された」
「な、何言ってんだよ… 変な冗談止めろよ ユキ…」
ほらね
君の中で僕の清純なイメージは崩れた…
カイトがいけないんだよ 僕を 僕なんかを好きだなんて 言うからさ…
「だから あのサラリーマンとそういう事をしたって なんて事ないんだ… 僕は汚れてる…」
もう 幻滅しただろ?
「そいつ…だれだ ユキ… この辺の奴か?! どこに住んでんだよ!!」
思いがけずカイトは激高して、膝をついて僕の両手を掴んだ。
僕はその質問が、カイトには悪いけど、とても滑稽に感じて思わず口元が緩んだ。
「なに笑ってんだよ!……やっぱり冗談 なのか?」
「だっておかしいからさ… ハハハ… どこに住んでるって…」
笑っているのに
涙が止まらない。
「ユキ?」
「もう居ないんだよ あいつは…三倉崎は…」
ホームの向こうに、いつの間にか浮かんだ朧月…
あの日の月も確かあんなじゃなかったかな?
「三倉崎はね… 僕の上に乗りながら 先輩に刺されて死んじゃった」
「へ……………………?」
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