奇跡
東の空
灰色の雲をかき分けて、朝の光が白く世界を照らし出す。
まだ空気には雨の匂い。
地面は濡れて、うっすら溜まった水たまりにはもうすぐ青空が映し出されるだろう。
僕は病院の屋上に立つ。
かつてあの網を越えて、飛ぼうとしたあの屋上で、僕は二度と見る事も無いと思っていた朝を迎えている。
世界は変わらない。
僕が決して強くなったわけでもない。
だけど
今僕は
僕が生きるという事が
少なくとも死ぬ事より
意味が有る事の様に思う。
カイトは死ななかった。
(そればかりか、病院に運ばれて3日目には退院してしまった)
「バカはしなない……」
病室に駆けつけたアサヒの言葉。
「うるせっ!! 何しにきたんだよ!てめっ… あ いたたた」
「あっ!!あたまのてっぺんハゲてんぞ!!」
「違ーう!!!焦げたんだよ!!!」
僕はベッドの脇に座って、カイトをずっと見ていた。
カイトにあの雷が落ちたときの事を思い出す。
救急車を待つ間、時折痙攣するカイトを抱えながら…とても生きた心地がしなかった事…
生きた心地…
死にたいと思っていた僕が
なによりもカイトの死を恐れていた。
ああ…神様
カイトをたすけてくれて ありがとうございます…
今僕の胸には、奇跡という光が、見えない朝の星のようにかすかに瞬いています。
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