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紅椿の本懐

「正宗か……」

「泰親様……」

鳴滝の登場で、やっとオレは ヤスチカ と呼ばれたルイの兄の靴から解放された。

立ち上がろうとするが身体に力が入らない。

感覚の薄い身体とは裏腹に、口腔に溜まった血のようなものの匂いが酷く気持ち悪い。

くそ

情けない…

結局オレは 

ルイは
ルイはどうしてる?

オレは必死で首を曲げてルイの姿を探した。
 

「正宗… お前が居て このような下衆をルイのそばに近づけるとは何事だ?」

「申し訳ございません… ですが泰親様!」

カツカツという、泰親が床を歩く音が病室中に響く。

そして 響いて 止まった。
ルイ……!

「そいつを外に放り出しておけ 私は弟と共に基地に戻る」

「泰親様! ルイ様はまだ…戦闘に赴ける御身体ではありません… せめて3日 いえ1日でもこの病院で治療を……!」

次はシャッという何かを勢い良く抜く様な音がした。
 

出来るか出来ぬかでは無く 如何なる状況であっても敵を殺すか己が逝ぬるか… 士官学校で習わなかったか?
 

床に力なくうなだれるルイの向こうに
軍刀を銀色の鞘から抜き
鳴滝の鼻先にその切っ先を向ける軍人の姿。

「…… 貴方は ルイ様の唯一人の 肉親ではありませんか ……」

ひるまぬ鳴滝の声に
微塵の恐怖は無かった… ように思う…

「鳴滝正宗…… 是は犠牲では無く本懐だ… それが 五経土家の本分なのだよ」

泰親は静かにそう言い、不敵に笑った。

そしてその長く鋭い刀身を宙に振り上げると

一切無駄の無い動きで、鞘にそれを納めた。

その鞘に 小さく光る 五経土家の紋章
 

«険に紅椿» 
 

鳴滝はもう何も言わない。

オレの喉も身体も、全く言う事を効かない。

オレは結局 ルイを助ける事も 奴をそれ以上罵ることすら

何一つも 出来なかったんだ…………


 

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