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穢れなき手、限られた生命

ルイのカナリアは、
その軍服の男によってたたき落とされた。

カナリアは一瞬鳴いただろうか?

床に落ちた それ は もうピクリとも動かない。

(死んでしまった)

その屍骸を

男が掴んで

病室の窓を開けて そのまま 落とす。
まるでゴミでも放るみたいに…

オレはそれを、半ば恐怖に似た気持ちに支配されながら 見届けた。

「今度生まれるときは せいぜい鷹にでもなるんだな」

男が呟く。

ルイは

己の兄が殺したカナリアの屍骸を護ろうとしたのか

床に直接座り込み

放心状態のような顔で、残された黄色い羽を見つめていた。
 

「ルイ… お前の式神は あの凶暴で美しい 一つ目鳥 じゃないか それに比べて 生身の鳥は死に際さえも脆く…見苦しい」
 

うってかわった、優しい声で
男はルイに語りかけるように話す。

「私はお前を 心から信じているよ さあ」
「!!」

脱力して動けないルイの腕をまた掴んだ。
 

カナリアを殺した そ の 手 で!!! 
 

ルイに触るなっ!!!

「なんだ… 貴様はさっきから …ルイの回収は軍の任務だ… それを実兄である私が買って出たというだけで そして貴様は…華族であり国防軍少佐の私に楯突こうというのか?」

「はっ!生憎オレは平民で お前らが護りきれなかった空襲で親を殺された戦災孤児だ! お前らを蔑むことはあれ、敬う理由も 畏れる理由も オレの何処にもねーよ!!」

「貴様は馬鹿か?」

「は?! ……あんた あんたはさっきのカナリアを殺すみたいにルイを殺すつもりなのか? たかが国防軍の為に? 兄貴だろ? あんた… どうかしてるよ!!」

「たかがね……」

ルイの兄は、口元を歪ませて まるでオレを軽蔑しきったように冷笑する。
 

「私の弟が、その穢れなき手を穢さず… その限られた生命を削らず… 安寧と今を生きていたならば…この街はとっくの昔に火の海だ… 貴様もきっとあの世の彼岸を渡り その耳障りな減らず口も、私は聞かずにすんだであろうにな…」 
 

「………………」
 

己の存在がルイの犠牲の上に成っている事を忘れるな… この街のすべてが…五経土御門の血肉を喰らい生き存えている事を忘れるな… もしそれでもルイを救いたいとでも言うのなら…

「違う…!! オレが言いたいのは…」
 

「貴様はさっさと 死ねばいい」
 
 
こんな、冷たい表情をする人間を

オレは見た事が無い……………

 


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