【77】再会する
その細い腕からはとても想像もつかないような強い力で引っ張られる。
「いらっしゃいませ」
白シャツに、黒髪を一つに束ねた化粧気の薄い品の良い女店員から笑顔で迎え入れられた。
「わーなんだかオシャレなカフェですね〜 先生こんなお店知ったんだ!」
「おい………」
店の中は結構混んでいた。
強引に引きずり込まれ、その女店員に促された窓際の席に渋々腰をかける。
オシャレなカフェ…
言われれば、小物や女が好きそうな雑貨が並ぶそんな感じ…
だが今のオレにとってはそんな事はどうでもよかった。
席から振り返って店中を見渡す。
(伊勢谷がこの店に居るかもしれないんだ……!)
(とりあえず松代の事は、正直に…偶然会ったと言うしかない)
(やっと近づいたのに、やましくも無い事で 離れる訳にはいかないんだから)
(けれど… 伊勢谷はどう思うか……)
「左京先生?注文は?」
「あ、ああ… コーヒー」
数人の女子高生が、店の奥のカウンター席ではしゃいでいる。
(?!)
そのカウンターの奥の少し照明が暗くなった所に…………
「お客様? うちのコーヒー…最初から生クリーム入れちゃうミルクコーヒーなんですけど大丈夫です? ブラックでもお持ちできますけど」
「えっ?!は? なにか」
「ブラック…の方よろしいかしらね フフ お待ち下さい」
女店員がオレの顔を覗き込んで微笑んだ。
「あっ!先輩?! 左京先生 あの人 伊勢谷先輩じゃないですか?!」
「っ!!」
叫んだのは松代。
今さっき、注文に気を取られて目を離したカウンターの先。
「せんぱーいっ せんぱーい! ここ、ここー」
「おっおい! 松代!」
松代が立ち上がって、手を振る。
その声に視線の先に座る女子生徒達が一斉に振り返った。
そして
「伊 勢 谷………」
ガチャーンとガラスか食器のような何かが落ちて割れる音。
その音に一瞬の静寂。そしてすぐにざわめきが戻ってくる。
けれど、少なくともオレの中では時間はまだ静止したままだった…
カウンターの奥に、この店の制服なのか 白シャツに茶色のネクタイをきっちりしめて 腰に紺のエプロンを巻いた長身の青年の姿。
固まるオレと同様、オレ達を視認したその青年もこちらを緊張した表情で見つめたまま身動き一つしなかった。
「伊勢谷」
もう一度呟く。
間違いなくそれは、あれからずっと探していた伊勢谷の姿。
会いたかったんだ。
少し痩せたんじゃないか?
顔色が少し悪いんじゃないか?
ほんとうに あいたかった……
「なんで… 先生が…ここに 居るんだよ…」
「ちょっとカオル君!カップ!割れてるじゃない… 怪我してない?!」
「あ、すいません!鈴菜さん すぐ片付けます!」
ほんの数メートルの距離。
胸の底はひどく熱くて、今にも抱きしめたいくらいだった。
気持ちはそうでも、現実は そのほんの少しの距離と、見ず知らずの他人や知人に阻まれてオレ達は声を交わすことすら出来なかった。
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