カテゴリー「BL小説-青空のスワロウテイル-」の記事

空虚と覚悟

案の定寮には誰も居ない。
電気は生きていたが、電波の具合が悪いのか…TVの映像には鬱陶しいようなノイズが走っている。

15chあるうちの13chは放送中止。
あとは、市街地の被害状況とシェルターへ避難した五経市民向けの報道と、クラシック音楽が延々と流れ続けるどこかの風景の映像番組だ。

オレはその、ノイズの激しい国境軍による報道番組を目を細めながら見る。
 

(跡形も無い… 五経の中心部とは思えない… 悲惨な有様だ)

(国境軍が入ったか… いったい敵はどうしたんだ?)

(みんなは… クラスメイトや先生や… 先輩や…  …朱里…は ちゃんとシェルターへ逃げられただろうか?)

(敵が ふたたび越境することは無いのだろうか?)

(オレ達は 生きられるのか?)
 

「東洋……?」
 

オレの膝を枕に横になっていたルイが目を開ける。

いつもの赤いルイのその瞳が、今はやけに色素が薄れ透けた様な感じに見えた。

「あ…どうした? 気分悪いか?」

ゆっくりと首を振り、起き上がろうとするので、その背を支える。

「東洋は…しんぱいなんだろ?」

「…… べつに そんなんじゃないさ…」

「強がり! …あ〜あ… 結局そうなるんだよなあ… まあいいや… 東洋のためだもの」

オレの顔を覗き込んで困ったように微笑む。

ルイ?
何を言ってるんだ?

オレがそう、聞き返そうとしたその時

一瞬目を伏せたルイが、両腕をオレの肩越しに伸ばして身体を寄せたかと思うと

そのまま

ルイの唇がやさしくオレのそれを塞いだ。
 
(…ルイ?…)
 

オレの罪は

多分

オレの不覚悟を… ルイに 悟られたことだったのかもしれない。

せめてその事に気付けていたなら…

ルイはいつだって『その覚悟』を腹に据えて生きていたというのに…
   


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誰も居ない地上で

「静かだね…」
「そうだな」

住民はみんなシェルターへ避難したのだろう。
空襲による風の異常を感じて、きっと虫や鳥達もその息を潜めているような 静寂。

日の暮れかかった空に

響くのは、稲穂のざわめき。

街の方向は今なお、爆煙が横一線に上がっているけど

さっき国境軍の戦闘機の列がそちらへ行ったきり、なぜか姿も音すらも消えてしまった。
 

「東洋も 地下へ潜れば良いのに……」

「お前が嫌だと言ったんだぞ?」

「僕は下へはいけないんだ」

「? あっそ… まあいいさ …………街の方は沢山人が死んだんだろうな」
 

ルイの手を引いて、寮までの道のりを歩く。

(結局今日は、一日中二人きりですごしたな)

「ルイ?」

オレは、ルイの繋いだ手が硬直したのに気付き振り返る。

「どうした?! ルイ?!」

ルイが酷く真っ青な顔をして、反対の手で自分の胸を苦しげに押さえている。
息も辛いのか、細切れに大きくけれどか細く、必死で深呼吸をしているようだった。

「おいっ!!」

「だいじょうぶ だよ…  ちょっと 疲れたみたい…」

「だいじょうぶじゃねーだろ?薬飲むか? あ 水… すこし戻れば自販あったよな」

「…… 要らない 薬は飲まな …い」

オレがポケットから出した薬を、腕で遮り拒絶する。

「ルイ……」

今に限らず、鳴滝からの薬を、ルイは決して飲もうとはしなかった。

「行こう… 帰ろう… 東洋… 早く休みたい」

とぎれとぎれの言葉。

「…………ほら! おぶされ!」

しゃがんでルイに背を向ける。

「… 僕… 結構重いよ…」

「いいから早くしろ! さっきはお前の我が儘きいたんだから 今度はオレに逆らうな」

「ハハ ハ… そうだね… わかったよ… ありがとう 東洋…」

オレの肩越しにルイの腕が伸びて

接した背中に体温が伝わる。

「あたたかい 東洋の背中は…」

オレのそれも、ルイに伝わっていたみたいだった……


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もう一度帰れるものなら

鳴滝正宗side


僕は知ってる。

ルイ様がなぜあんなにもこの街を愛していたのか。

自分の心を引き換えにしてまで、3年前のあの日、この街を護ろうとしたのか。
 

僕は知ってる。

なぜルイ様が僕を忘れてしまったのか。

僕には言えなかった。

あの頃恋人であったルイ様に

いっしょに 死ぬ とは言えても
いっしょに 生きよう とは言えなかった。
 

『僕は死にたい訳じゃ無い…!だけど…もう』
 

痛む身体を必死でささえて涙声で訴えるルイ様に、僕は一生後悔する…言ってはならなかった言葉をはなってしまった。
 

«それじゃあ… いまから… 僕と一緒に 死にましょうか»
 

山河東洋。

お前ならどう言った? ルイ様をどんな言葉で救った? 僕を罪深いと思うか?
 

その時部屋に流れていた音楽がショパンの夜想曲…

その翌日ルイ様は、作戦の最中に卒倒し生死をさまよい…精神を 破綻させた。

すべてを忘れてしまったルイ様が、僕が教えたピアノを流暢に弾きこなすようになった時

一番好きな曲だと言ったのが 夜想曲 。

まるで僕の罪を… あばくように… 攻めるように…
 

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葡萄園の先に

鳴滝正宗side
 

僕は回想する。

あの日 あいつ を心から意識した あの日…
 

「ルイ様 また双眼鏡ですか?」

ルイ様が自室の大きな出窓から、子供の身体には不似合いな大振りの双眼鏡をのぞいている。

それは少し前に、帝都の大学寮に入られている、兄君の泰親様から届けられた高価な贈り物。

ルイ様は暇さえ有ればその双眼鏡をのぞいていた。
 

「遊んでる訳じゃないぞ!僕はここから葡萄園の実の成長を観察してるんだ!」

「毎日見られても、まだまだ青いままですよ。せめてあとひとつき…」

「正宗!! あいつまた来てる!!」

「えっ………」
 

あいつ というのは 

この時まだ名も知らぬ 山河東洋 という ぼろぼろのランドセルを背負った戦災孤児の小学生。

ルイ様は毎日同じ時間に、屋敷近くのゴーヤ畑に現れるこの子供を見つけては
なんだか、とても嬉しそうな態度を示していた。

「ハハハ! また バット振ってる! へ〜んなフォームだな!へったクソ!」

「ルイ様… お茶にしましょうよ 一般庶民に高貴な方が…興味など持ってはいけません」

僕の言葉など聞こえていないかのように(いや多分思い切りの無視…)、ルイ様はその子供を見続けた。

「会いたいなあ… 会いにいってやろうかなあ あいつひとりぼっちだからさ…キャッチボール出来ないんだ! なあ 正宗」

ルイ様が他人に…

自発的な好意を寄せたのは

この時が初めてだったんだ。

「いけませんよ… 貴方はこの屋敷から出てはいけないんです…」
 


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哀しい様な眼差しで

約10年ぶりの災厄…丑寅の門が完全に開いた日。
 

それから幾度も、その白く光る何かが空を走り街に落ちた。

今更のように空襲警報が鳴り響く。

これもやっと現れた、空軍の何機もの戦闘機が、光を追うようにして攻撃を仕掛けているのがわかった。

風に乗り、焦げ臭い鉄の焼ける匂いが不快に鼻をつく。

青空を切り裂いた 冷たい鉛の悪意。正義という名の悪意。

さっき夢を語った、ルイが飛ばした…見えない白球がとんだこの青空を

まるで

犯して 穢して 壊して
 

「行こう…!」
 

放心状態で、腰を抜かして動けないでいるルイを抱きかかえ歩かせる。
触れた額がやけに冷たかった。

「東洋… この国は終わる… 結界が崩れた… 世界が終わる…」

ルイは、ひどく怯えた表情で声はかすれ、細く震えていた。
 

«喰われて終わり この世の終わり»
 

いつかの『件(くだん)』の化け物の言葉を思い出した。

世界ってなんだ?
この国って何だ?

「知った事か… オレはお前が生きてたらそれでいい」

終わるなら終わればいい。
終わって、すべてが終わるなら それでいい。

……オレの横にルイが居てくれたなら……
 

ルイがオレの胸元のシャツを思い切り掴んだ。
 

「東洋… 僕はまもるよ… 東洋の事は死んでも護る…」
 

真剣な でも哀しい様な眼差しで…

(どうしてそんな目で見るんだ?)
(どうしてそんな哀しい事を言うんだ?)

ルイ…さっき聞かれた
オレの願いは

愛しい誰かと ずっと…一緒に生きることだよ…

たとえ世界が その形を変えてしまっても……

 


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「東洋の願いは?」

「ど真ん中のストレート! それを絶妙のなタイミングで 打つ!」

「カキーン! ホームランだ! ピッチャー山河選手呆然!」
 

ルイがバッターの真似をして、大げさなフォームで 宙を振り抜いた。

二人して 有りもしない白球をその青い空に追う。
 

「今のはセンターフライだろ?」

「ホームランだ! 僕が東洋のへなちょこ玉をフライで済ませるはずがない」

「言っとくけどなー オレは五経のジュニアリーグでエースだった男だぞ」

「はいはい! 過去の栄光って奴! 走るぞ! 満塁ホームラン」
 

まるで、この屋上にグラウンドが見えているかのようにルイが走る。
無理するなよと叫びながら、オレは笑って 心から笑ってルイを見てる。

「東洋!」

三塁ベース(多分)からホームイン。

「僕の夢も プロ野球選手だったんだ!」

「はあ?! なーに言ってんだよ?」

その場にしゃがみ込んで息を整えながら、紅潮した、けれどおだやかな表情でオレを見る。

「どうせ叶わないと思ってたけど… 今 半分は叶っちゃった… 神様は居るな」
 

夢…
 

「なんでお前 オレのガキの頃の夢を知ってんだよ…?」

「フフフ 内緒。 それか 東洋を好きだからじゃない?」

「………sweat02 まあ いいけど(先輩から聞いたか?)」

 

いつだったかな…あまりにその夢が自分の現実とかけ離れて居る事に気付いて…

努力はしたけど、その結果得たものは、夢を現実に近づけるほどのものではなくて…

実力の限界や、環境や、あきらめのせいにして

オレが選択したのは

夢じゃなく、堅実で安全な将来への道。
 

でも今は、その描いていた将来すら 下らないと感じている。
 

「東洋は 何を願う? 神様に 何をしてほしい?」

オレは………………

その時、オレが何かを発しようとしたその瞬間、雲一つなかった青空に白く光る筋が走った。

?!

ルイも気付いて
オレ達はそれを見上げた。

そしてキーンという高い金属音と、雲に潜る様な鈍い噴射音が同時に聞こえ…

とう …よ う…!!

震えた様な声でルイが叫ぶ。

街の方角、それは 一瞬 音とともに消えたかと思うと

遠くからでもわかる、禍々しい赤黒い爆炎となって 地上に 落ちたんだ………

 

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未来の記憶

「僕の記憶は、みんな鳴滝… 正宗から聞いたものなんだ…」
「鳴滝…が」
 
オレは 何かを予感している。
 

「…3年前、僕の頭は白紙になって それからひとつひとつ… 正宗が僕に教えた事が 裏付けのない僕の記憶」
 

「裏付け?……」

「そうさ 兄上も…死んだって聞いた芙蓉って女の事も 僕にとっては兄姉と聞かされただけの 他人… いつまでたっても僕の過去に確証は生まれない」

「………………」

「正宗はあきらめなかった… 必死だった… 僕らの過去を取り戻すのに… ねえ東洋 僕と鳴滝正宗は恋人どうしだったんだって…… 正宗は僕を抱いたら 僕が思い出すかもしれないって 考えたのかもしれないな…」

「抱い た………」
 

鳴滝のルイに対する感情が、尋常ならざるものだという事は…分かっていた事だ。

でもホントの事は聞きたくなかった。

いや… 

オレは聞かなくちゃ いけないんだ。

ルイの中でオレは、なぜかわからないが 
唯一の
確かな記憶。

そしてオレはルイがなにより…なによりも大切で…
だからオレはルイのすべてを理解して、ちゃんと支えていかなければ…

過去じゃなくて、過去から続く これから
 

ふたりの これから…
 

「ごめんね 東洋… もうしないから 誰とも絶対… 僕… 東洋が居ればいいや」
 

「うん… お互いに 浮気も無しだ。 約束」
 

繋いでいない片方の手の小指をルイに差し出す。

それをルイが不思議そうに見ている。

「な に? それ」

「いいから同じようにしろよ コレが約束のしーるーし! 指切りっていうんだ」

「やくそく か…」

「なんだよルイ なに笑ってんだよ」

「なーんでもないよっ はい!ゆ び き り!」
 

(好きだよ ルイ)
(………うん 僕も ダイスキ)
 

ずっと 一緒にいよう……… 


 


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ふたり

ただ横に座って、手を握る。

遅刻して、まあ3限目の授業からは出られると思っていたけど
ルイがとてもそんな状況でなく……

屋上に上がり、階下への出入口の日陰に二人並んで座った。

ちらりとルイを見ると、オレが横に居るのには耐えているとはいえ未だ耳まで真っ赤……
それでこっちも、つられて赤くなる……

甘い

なんだか

たかが恋愛ざたで自分がこんなにぎこちなく、ガキみたいになるとは正直思ってもみない事だった。

ただ ただ 甘い 
ずっとこのままで居られたら良いとも思う。

「ルイ………」

「………なん だ よ」

言葉使いはぶっきらぼうだけど、繋いだルイの指はしっかりとオレのそれを握りしめていた。

「あのさ もう 好きでもない奴と そういう事するなよ」

「そういう ことって……?」

「キスしたりむやみに裸になったり… そういうのは オレだけにしろって事」

「…………… いけないことなのか?」

「そうだよ いけない事。オレも…嫌だし」

以前したルイとのキスは、とてもそれが初めてとは思えない様なキスで
オレはそれを思い出して少しだけ不安になる。

でも それは 前向きじゃないな…

オレだって朱里とつき合ってたわけだし…

そもそもルイは、そういう行為に対して何か屈折した誤解がある。

「わかった東洋… 東洋が嫌なら絶対にしない! 鳴滝とももうしない!」

「なるた…」

その名前を聞いて、オレの胸に鉛が落ちた。

 


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暑さのせいなのか恋のせいなのか

『僕はずっと 東洋が好きだった』

って

だろ?

涙目か、いや…もう殆ど泣いている様なルイがまた顔を隠す。
オレの方は、殆ど思考が停止状態で言葉も出ない……

「…………」
「…………」

オレ達の沈黙の代わりに、周囲では蝉の大合唱。
気温もぐんぐん上がって(多分)
額に汗が滲んでくるけど、それが暑さのせいなのかどうかは分からない。
ドキドキして心臓の鼓動が外まで聞こえてしまいそうだった。

なんだこれ

なんだこれは… 柄にもない…

今までのルイとの色々が
なぜか走馬灯のように(死ぬ訳でも無し……)頭をめぐる。

たいてい
オレにとってはろくな事のなかった色々。
 

でもオレだって

ずっとルイが好きだったよ。
 

「ル イ……?」

「……………」

「ちょっと 触っても いいかな」

「……………」

指先でルイの前髪に触れた瞬間、ルイの肩がビクッと震えた。
一瞬だけためらったけど、そのまま…ルイが両手で覆う頬にその上からそっと手のひらを重ねる。

キスをしたわけでもない。

抱きしめたわけでもない。

ただ その伝わってくる体温が
ざわざわしていたオレの心を、何となく落ち着かせていた。
 

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だって ぼくは

夏の日の炎天下。

稲穂とゴーヤ畑に挟まれた、道の上でルイと二人。

……ルイはとにかく さっきから挙動不審……
それに合わせて、なぜかオレもぎこちない。
 

「な なに赤くなってんだよsweat01!!こっちが恥ずかしくなんだろ!!… だ…大体 今までお前… オレがルイを好きだっての知ってたから 色々ちょっかいかけてきたんじゃねーのかよっ?…からかって 今朝だって 平気な顔でキスとかしてきたじゃないか!」

「!!あああああああああっっ 止めろ!!キスとか言うな!! わあっ!!触るなよっ!!

真っ赤な顔で なにげに腕を上げたオレから後ずさる……
 

「おい…… なんなんだよ わっけ分かんねーんだけどっ!」

「東洋が僕を好きだと分かってたら、キスなんかしないし ましてや一緒にベッドでなんか寝るもんか!!」

annoy
ど う い う い み だ ? おい………

一歩 わざと大股でルイに近づく。

即座に びくっとしたルイがオレから一歩退く。
 

「つまり何か? ルイ… お前は何とも思われていない相手ならキスでもなんでも平気だが 自分に好意のある男…特に オレ とそういう事をするのは 触れるのも堪え難く 気持ち悪いという事か?」

「ちがうっ! ちがうちがうちがうっ!!僕は……っ」

ルイが顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
 

「ルイ………?」
  

「…………なん ………もん」
 

「もん? なんだって? もう怒んねーよ… 触らないし」
 

オレはルイを正面に、地面に直接腰を下ろす。
勿論 一定の距離をおいて……
 

「………とうようが ぼくをすきなんだと おもったら…… なんだか なんだかきゅうに すごくはずかしく なって………」
 
「恥……………?まさか オレが?gawk
 
「ちがうっ! 僕は…………!」
 

ルイが覆っていたその両手を離し

オレの目を まだ赤いその顔で みつめ…………
 
意を決したように息を 

吸い込……
 

だって僕はっ!! ずーっと前から 東洋の事が ダイスキ なんだからっ!!!
 

……………………………え ?


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りんごのように

「ちょっと袖は長いかな」

晩夏の太陽の下
オレのシャツに袖を通したルイが、ホラというように肘を曲げて見せる。

寮から学校までは、この田園とその先のゴーヤ畑に挟まれた道を歩かなければならない。

ルイに急かされ起きたものの、なんだかんだでもう遅刻だ…
 

「今日ぐらい休めばいいのに… 5、6日で授業に乗り遅れる事はないだろ? お前が」

「意外に不良だな〜 東洋は… それじゃサボりじゃん」

口をちょっと尖らせて、咎めるように言う。

「ルイを心配してるんだろ? ったく 可愛くね〜んだから」
 

なんて
ホントは学校じゃなくて
オレがルイと二人で居たいからだったりして

……これも結局 サボり だなあ……
 

「おっ!!」
突然ルイが トン と身体を寄せて、オレの顔を至近距離から流し見た。

「僕はただ寝てただけだ 心配なんて 東洋の勝手じゃないか」

「お〜ま〜え〜っannoy

「いっ!!ちょっとっ東洋っ!!痛っイタい!! やめ……っ!」

オレはこの期におよんで激生意気なルイの鼻を思い切りつまんでやった!

全く
全く
全く!!!
オレがどんだけ この5日間っ!!!
 

お前は寝てただけだから良いかも知れないけどなっ!!お前を好きで好きでお前がこのまま起きないかもしれないって思ってたオレの気持ちを考えてみろっ!!オレはずーーーーーーっとルイの事が心配で心配で…生きた心地がしなかったんだからなっ!!!
 

「痛っ…………… って……… ええ?!」
「な なんだよっ?!」

ルイがさっきまでとは違う、別の何かに驚いたような声を上げるので
こっちも慌ててルイの鼻を解放する。

「な………… 東洋 今 なんて?」

鼻を真っ赤にした(やりすぎた…ルイの美しい鼻が… 後悔が津波のように押し寄せる)ルイが
なぜが酷く緊張した面持ちで

直立不動でオレを凝視する。

「なんてって… ?? 生きた心地が……しなかったって」

「違う!! そ、…そ その前!!」

なぜかルイの声が高く裏返る。
なんか… こんなルイは初めてみるな… 

「ルイは寝てただけだから…………」

「その ちょっと………… あと…………」

今度はもそもそと口ごもる。

「………………………」
あとって………sweat02
 

「オレが ルイを 好きだ って ?……」
 

「…………………………………………………………………………」
 

え?!なんで?!だって………

ルイの顔がこれも今までに見た事がない位、
まるで林檎のように
紅潮していた……………

「な、ななな なんだよっ ルイ………!! お お前分かってたんじゃないのかよ!!!」
 

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件のはなし

何年か前
この五経の街に奇妙な噂が流れた。

町外れの牛舎で「(くだん)」が生まれたというのだ。

「件」とういうのは、身体は牛 頭は人のそれという化け物で
この世に災厄が訪れるのを人語で予言し、数日の後に死んでしまうという。

そいつは言った。

これより数年の後、九字がやぶられ、丑寅の門より、幾多の御霊に導かれ数百と数年の詛いと共に百鬼夜行が列をなす

その後はどうなるのかと問うと

喰われて終わり この世は終わり

救いの道は無いのかと問うと

唯一人 狐の子』

そう言って

件(くだん)は死んだ。


なぜか
その話の夢を 見ていた……
 

 
「…うよう」

唇に濡れた様な感覚がして目を開ける。
その開けた先に、オレの身体に覆い被さるようにして見下ろすルイが居た。

「あっ… っ ルイ!!!」

慌ててベッドから起き上がる。

ルイは上半身は裸の、下着一枚はいただけの姿だった。

「ハハハ 眠り姫だな… 東洋は …キスして起きた!」
「な、 起きてたのか?」

「もう仕度しないと遅れるよ 先にシャワー浴びちゃった」

(なんでオレ… ベッドに寝てるんだ? 寝るときはずっと床に居たはずなのに)

ルイがだるそうに腕を伸ばしながら立ち上がる。

「東洋が僕を抱きながら寝ちゃったから、シャワーに行くのも一苦労だったんだ」

だっ …抱きっ?!!」

びっくりして自分が着ているものを確かめる。特に下の方を……

着衣に乱れは無いようだった………

「…………………………………東洋?」
「オレ なにか したか?」

「おもしれー 東洋! そういうんじゃないよ 考え過ぎ!」

「あ ああ な…なんだ よかった」

ルイはケラケラ笑っている。
 

そうか
昨日
泣くルイを抱きしめながら自分も寝ちゃったんだな……sweat02
 

「ルイ……… 大丈夫か?」

「ん? うん… 東洋 一緒に居てくれたんだ?」

「ああ… ま あ…」

「まあ って… ……まあいいや ……ありがとう…… 東洋」

振り返った笑顔がほころぶ。
なんだかそれがあまりに無邪気な顔だったので思わずこっちも赤面してしまった。
 

ルイが起きた。
その朝
好きでは無かった、五経の何処までも青い雲一つ無い青空が
どうしてか、とても美しく感じた。 
 

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静かな空 

うわああああああああっ
 

洗濯室から戻る途中、部屋からルイの叫び声がして慌てて駆け入る。

「ルイ?!」

さっきまで静かに眠っていたルイは、ベッドの上で身体を丸め頭を両手で抱え、苦しそうに荒い息に肩を上下させている。

「ルイ… !どうした?!ルイ?!」

抱きかかえて、震えるルイの腕の間から顔をのぞくと、見開いた両目からぼろぼろと
とめどない涙が 流れ落ちていた。

「だいじょうぶ……… か?」
「……………………」
 

だんだんに
少しずつ…
息と、肩の震えがだんだん落ち着いてきたみたいだった。

それが、ルイに触れるオレの手からも直に伝わって来て
こっちも ホッ とする…

「呪 が…… 破られて 敵 が…… たくさん 人が 死んで」

ひさびさの
もう4日ぶりのルイの声

「ルイ………大丈夫だよ………」

夢を 悪い夢でも見たのだと思う。
未だ辛そうに泣くルイを、抱き起こして手のひらで涙を拭い… 抱きしめたまま背中をさする。

「僕のせいで…… 護らなきゃいけないのに 護れ な い……」

「もう良いんだよ…… お前もう そんな事しないで良いんだ… それに今日も空は…」

そう言いかけて、ちらりと窓を見る。

暮れかけた空
北東の空にうっすらと星が落ちる様な光が見えた。
 

もういいんだ………
 

「ルイ 空は…今日も静かなもんだよ …………おはよう」

オレはもう一度ルイをベッドに横たわらせてから
部屋のカーテンをすべて閉めた。

 

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変わったよな

全開の窓から、生温い風が吹き込んでくる。

時々途切れかけるアブラゼミの鳴き声は、なんだか少し昨日より弱々しく聞こえた。
 

今日は昼間から停電で、数時間も経つというのにまだ復旧しない。
おかげでエアコンも付けられず、外気程ではないにしろ部屋の中は酷い暑さだ。

「おい……」

「…………」

「いい加減に 起きてくれよ」

「…………」
 

あれから3日。
ルイは時折まどろみ、その際に一言二言言葉を交わすものの… また直ぐに眠ってしまう。

オレはというと、そんなルイを放ってもおけず
学校も休み、ずっとベッドの脇に座っていた。
 

学校なんて どうでもいい…
将来なんて どうでもいい…

あんなに帝都に憧れて、この街から出る事を望んでいた自分が

なんだかとても…くだない人間のように思えてならなかった。
 

「おうい!東洋! また今日もサボリか!」

ノックもなく遠慮ない感じで部屋のドアが開く。

「先輩… こいつまだ起きなくて… やっぱり医者連れて行ったほうが」

「ほれ!お前の方が病気になんぞ!コンビ〜ィ〜フ!スーパーの特売でさ」

靴を脱ぎすて、ずけずけと部屋に乗り込む六堂先輩から、大量の缶詰が入った買い物袋を渡された。

「食堂のばあちゃん、東洋がずっと来ねーって心配してたぞ」
 

そういえば

ルイが眠ってしまってから、なにも口にしていない。

だってルイだって

ずっと食べていないんだから……
 

「そろそろ起きんじゃねーか? …苦労してそうだし こいつ… 疲れてたんだろ?」

「苦労してそうに 見えましたか?」

「プリン食って、ちょろっと花火して、泣いて喜ぶんだもんな」

「…………」

「こいつ… 今まで何に喜んできたんだろうな」
 

花火をしていた時のルイの顔を思い出す。

子供みたいにはしゃぎ回ってた。

色んな色の火花が ばちばちと その細い身体を照らして…
 

「東洋は変わったよな」

「? な、なにがですか?」

床に直接腰を下ろした六堂先輩が、ニヤリとしながらオレを横目でちらりと見上げる。

「あんなに 孤高に生きてます的な 格好付けがさ」

「か…っ 格好付けてなんてないですよ!」

「いいコンビだと思うよ? オレは」

そう言って先輩が、また笑った。

 


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墓参.2

【鳴滝正宗side】

「親子程歳の離れた…妾腹である弟を 姉上はたいそう可愛がった…」

墓に語りかけるように
膝をつき、墓石を見上げる。

泰親は、この夏の暑さにもぴっちりと軍服を着… しかも汗一つかいていない。
 

「ルイ様も…芙蓉様の事は 母上様のようにお慕いになられていました… それなのに」

微かな風が流れ、線香の燻りがゆらゆらと揺れる。

「そうだ 姉上は死んだ。いや…殺された様なものだ 国境軍に…」

芙蓉様もルイ様と同じ…

いや… 

彼女の異能の力は、ルイ様の比では無かったという…
 
 

「泰親様… なぜ…芙蓉様の死をあんなにも悲しまれた貴方が なぜ弟君を同じ目に遭わそうとなさるのですか?…………ルイ様は もう 限界です…!」

「そうだな…… 馬鹿で下賤な女の子供で…オレを憎んでいたとしても あれはオレの弟だ…」
 

泰親様が
何かを思うようにその目を細めた。

「姉… 芙蓉の不幸は、生涯現世の光を見る事が無かった事であろうか?」

「………」

「オレの不幸は… 芙蓉や ルイが見えているであろう この世の向こうを垣間見、操る力を持ち合わせなかった事だ… 土御門でありながら… オレの武器はこの軍刀のみしかない」

「ルイ様を… 助けてさしあげてください!」

傍らに置いた軍刀を手に取り、すっくと立ち上がる。

「それは 無理だな」
 


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墓参.1

鳴滝正宗side

五経土家の屋敷から、朱雀の方向へ一里も歩けばたどり着ける小高い丘。

そこには かつてルイ様の母代わりだった別腹の姉君 

土御門芙蓉様の墓がある。
 

そもそも、死後神格化されて土家の社に今はおわす芙蓉様の墓があるなんて…実に不可思議な話なのだが…
 

林を抜け、こじんまりと広がる墓所に墓はただ一つ。

ヒグラシの鳴き声

どこまでも青い、青空

小さな墓石の周りを夏の花 真っ白な芙蓉が痛々しいくらいに咲き誇る。
 

そして
その墓の前に、軍刀を左手に携えた長身の軍人が立っていた…


「一人か?」

「泰親様………」

「あの馬鹿は…姉の命日だというのに墓参にも来んのだな… 全く 呆れて物も言えん」

「ルイ様は 姉君の事を全く憶えていらっしゃいません… ですからどうにも 他人だとおっしゃられるのです」

言葉を言い終える前に
またヒグラシがカナカナと激しく鳴いた…

「お前も哀れだな…正宗 あいつは抱かれた相手すら忘れてしまうんだからな その上…今は別の男の側に居る」

「…ルイ様は今とても精神が不安定なのです。落ち着かれたらきっと戻って来られます」

「お前のもとに か? 健気な事だな」

皮肉気に笑うと、土御門泰親は墓の前にゆっくりと膝を付き、軍刀を地面に置いた。


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落ちて消える緋と火

隣に誰かが居る事に 安堵感や心地よさを感じるなんて 今まであっただろうか?

親が空襲で死んでから
オレは子供ながらに、人と接して生きて行く事の空虚さを身をもって感じていた。

孤児院ではオレと同じ境遇の子供がたくさん居て
まあそれなりに、楽しくやっていた気がするけど

あいつらも
そしてオレも
たまたま生き残って、ひょっとしたら死んでいたかもしれない 

赤の他人だった…
 

母親でさえもオレを残して逝ってしまった。

人間は一人だ。
他人に関わる事にそれ程大事な意味は無いし、むしろ面倒なだけ。

だからオレも一人で生きて、一人でこの街を出て行くんだと

朱里に告白された時でえその気持ちはおんなじで

オレが朱里を振らなくたって、そのうち愛想をつかしたのは朱里の方だったに違いない…
 

それが

人ひとり好きになったくらいで 
(しかもそいつにから、甚大な物質的被害を被られているわけだが…)

自分がこんなに寂しがりの人間だとは思わなかった……
 
 

ルイの指から 未だ火の有る線香花火がするりと地面に落ちる。

落ちたそれは、数秒パチパチと小さな菊の花のような緋い火花を放って、やがて地面の湿気で闇に消えた。
 

「…… ルイ?どうした?」

オレの隣でしゃがむルイに問いかける。

「………」

「気分悪いのか?」

花火の消えた薄闇のせいで表情はよく見えない。
それが一層オレの不安をかき立てた。
 

「ルイ?!」
 

か細く息を吐く音
 

「東洋 …… ごめん 僕 眠くなって来た……」
「えっ?」
 

その言葉を残して、ルイはしゃがんだままオレの肩にもたれかかると

もう一度小さく息をして 
深く 眠ってしまった…………
 

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夏のおもいで

ふたたびオレの部屋。
椅子に座るオレの正面に、正座したルイと六堂先輩…

なぜか二人とも水泳用のゴーグルを付けている。
 

「で?annoy外でやったら寮長にバレるからと…… オレの部屋で? 花火を?」
 

信じられない……
さっきバイトから帰って来た時、部屋の新しい窓から火花のような光がチカチカ反射していたんだ…
何事かと慌てて部屋に入ると… 

花火を激しく振り回す六堂先輩とルイ……
 

「大丈夫だって!! 布団とカーテンは廊下に撤去して ほら水も撒いたし!…だからさ 正座しちゃうと膝が濡れて気持ちわる……」
「がまんしてくださいっannoy!!!」
「ひいっcrying

「東洋… 六堂大佐を怒らないでくれ! 僕が花火をしてみたいと言ったんだ」

「六堂……た い さ〜?」

「六堂大佐は実に物知りで、実に頼りがいのある男だ! だから僕は尊敬の気持ちを込めて六堂大佐と呼ぶ事にしたんだ!な?」

「そうだぞ 東洋君… 貴様もこのオレ様をもっと敬え!ひれ伏せ!かわいがれ!」
 

…なんか二人ともえっらそーにannoy
 

「ルイ………」
「なんだ?」

正座はしているものの、ルイは全く悪びれていない。
ゴーグルを額の辺りまでずらしてニコニコとオレに笑いかける。

「火は危ないってのは…分かるよな?」

「そりゃ分かるさ!僕は火薬と大砲の演習では実に良い成績を……」

「…部屋で火遊びをしたらうっかり火事になっちゃうかもしれないだろ?」

「そこで六堂大佐の名案でな 部屋中に思い切り放水してみたんだ!おもいきりっ!!そしたらこんなになっちゃった!ぷぷぷdash

「ル ルイ……… そもそも部屋に しかもこんなに床に溜まる程 水を撒いちゃあ駄目なんだよ…」

怒りを必死にこらえて
なるべくゆっくり、冷静になれよと自分にも言い聞かせて話した。

「そうか… 駄目なのか」
「そうだ 部屋では 花火も 水撒きも 絶対 ぜーったいに駄目だ!!二度とするんじゃないぞ!!」

そこまで言ってようやく反省し始めたのか
ルイがちょっとだけ俯く。

「まあ!まあまあまあ! 東洋君! せっかく帰ってきたんだ 寮長のじいさんももう眠りについた事だし表でもういっちょやろうぜ!」

「やりませんよ!その前にこの部屋をどうにかしてか…」

「東洋!!やろうやろう!! 僕、東洋と花火がしたい!!」

「お おいっ!ルイ!」

説教中のオレの許可無く、六堂先輩は正座を解いて、窓ガラスを全開に開ける。
オレはルイに腕を掴まれ、無理矢理外に引きずり出された。
 

「土御門!東洋! ほら靴を履け!」

大声で…

みんなが起きるだろ?

「とうよう! ゴーグルしないと目に入るぞ!」
「花火を顔に向けちゃ駄目だろ!!それも禁止!!守らないなら……」

守らないなら……

花火か
花火なんて何年ぶりだろう?

暗闇に、さっそく先輩が点火した花火がバチバチと光る。
火薬の匂いと
夏の夜の湿気と
火花…熱

「あっち!!!ルイ!!こっち向けんじゃねーよ!!」
「あははは!!東洋も早く!!」

ルイの顔や身体が火花で明るく照らされている。

笑って
心から
笑って……
 

「うおぃ! 東洋君は一発目線香花火かよcoldsweats02渋っ!」

「勝手でしょ!好きなんですよっ!」

「僕もせんこうはなびやるっ!」

なんだかな〜
ため息をつきながら結局、こいつらのペースに巻き込まれてしまった。

「きれいだな… 東洋… 楽しいな 東洋…」

悔しいけど
ああ…その通りだ。

 


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花の笑顔

「ぷりん は スイーツの王様だな 東洋!」

「…………」

「そのうえ、げきあまなまくりーむ まで投入するとは あの学食のおやじは只者ではないぞ 東洋!」

「…………」

「……… なんで黙ってるんだ?東洋…… やっぱり僕がコレ買っちゃったから怒ってるのか?」

「ちがうよ… 怒ってるんじゃないよ」

「ふーん… なあ東洋 これ ありがとうな」

学食でプリンを買い…
どうしても直ぐ食べたいというルイの激しい ダダ に屈して
結局、午後の授業をサボるはめになる……

で、……… 公園の木陰にあるベンチに二人。

(しかしこの炎天下で…よくプリンなんか食えるな…sweat02
 
 

さっき屋上で、ルイは引き止める鳴滝に罵声を浴びせ、怒りメーターマックス…乱暴な足取りで一人屋上から出て行ってしまった。

(罵声の内容は オレが知らない事ばかりで全く理解はできなかったのだが…)

追いかけようとするオレに鳴滝が言葉を投げる。
 

「オレが…記憶を失ったルイ様に最初に教えたのは人の殺め方なんかじゃない」
 

オレに対しての言葉だったのか
ひょっとしたら、もうそこには居ないルイへの訴えだったのか

オレは何も答えなかった。

鳴滝が制服の上着のポケットから白い紙袋を取り出し、オレの前に突き出す。
 

「国境軍にルイ様を拘束させるような事はしたくない… その前に必ずオレが迎えに行く… それまでルイ様に… ルイに傷一つ付けるな!」

(傷一つね… あいつとっくに傷だらけじゃねーか…)

そして白い
その薬袋を受け取った。

国境軍?

ルイは 軍にとって必要なくなったんじゃなかったのか?
 
 

ジージージー
蝉の鳴き声が頭上に響く。
 

「ルイ… お前さ 鳴滝の所に帰らなくて良かったのか?」

だいぶ慣れてきたとはいえ、ぎこちないスプーン使いでプリンを食べるルイに問いかける。
プリンの甘さに怒りも静まったのか、もう大分落ち着いている…
 

「………… 帰ったら それきりだぞ?東洋」
「え… ?」

「言ったろ? 僕はもう異能者としては役立たず だ。 …多分 あと1回か2回が 限界…」
 

「げんかい? ……」
 

そこでルイが笑う。
静かに 笑う……それはいつか見た ルイの花の様な笑顔。

「死ぬって 事だよ………」

 

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忘れられた人間の気持ち

「テメーの話なんか聞いてねーし!」

知るか…!
そんな事!

「貴様などに… 忘れられた人間の気持ちが …分かるものか」

「………………」

押し殺した様な鳴滝の声…
 

忘れられた人間
オレは確か
忘れた側 だったな………… 
 
 
とうよー !! と う よー !!

張りつめた雰囲気が一気に雲散する。

屋上の非常扉が勢い良く開いて、子供みたいなはしゃぎ声でオレの名を叫ぶ。
 

「ルイ……sweat02
「ルイ様!!」
 
「げっ!! っんだよ!! 正宗がなんでここに居るんだよっannoy

そう言い…露骨に嫌な顔をしたかと思うと、また何かを思い出したように駆け足でオレに近づいて来た。

「東洋!! 今な!! 学食に行ったら ぷりん があってな!!」

えっ?!
まさか 

「貰おうとしたら 金が無いと駄目だと言われてな」

さっき菓子パンを山ほど食ったくせに……

だいたい食ったばかりでなんで学食をうろつく?!

「だーめだっ!!もう昼休み終わるんだから 帰りにコンビニで買ってやるから我慢しろ!!」

「でも東洋…… あと一個しかなかったし」

「でもじゃねーよ! 我が儘言わないって昨日約束したばかりだろ!」

「だって…とうよう…weep ぷ り ん……」

「だってじゃなっ…… あーっ!!なんでそんなんで泣くんだよ!!あーもうっ!」

はあ………どんどんオレの家計はエンゲル係数が上がっていくんだろうな………

(バイトを増やさないと駄目かな…駄目だろうな…)

仕方なく財布を取り出そうとしたその時…

ルイ様!!


しまった……
一瞬鳴滝の存在を忘れていた………

鳴滝が半べそのルイの腕を掴む。

「もうお遊びにも飽きたでしょう? 帰りましょう!」
「おい!鳴滝!」
はなせよっ!!

オレの言葉と同時か、それよりも早かったか
掴まれた腕をルイが思い切り振り払った。

「僕は帰らない」

「ルイ様… それでどうやって生きていくつもりですか? 一人で食事も…何もままならない華族の貴方と 庶民で生活力も無いこいつとで 本気で生きていけると思ってらっしゃるんですか?!」

(悪かったなっannoy貧乏な庶民で)

「…………」

「帰りましょう…… 薬もお持ちにならなかったでしょう?心配していたんですよ?貴方には私が居なければ…」

「………じゃないか」

「ルイ様?」

 
何も教えてくれなかったのは お前じゃないか! 正宗!
 

…………
屋上にルイの声が響く。
その叫びは なぜかオレの心にも深く突き刺さるように 哀しかった…


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芙蓉の子守唄

鳴滝正宗side
 

夕暮れのゴーヤ畑

蔦の間から夕日がじわりと光り 

あかく ひかり

隠れていた その子を 映し出す

だれだ だれだ 

隠れているのは 何処の子だ?

もうお帰り

もうお帰り

向こうから逢魔ヶ時が

着物を引きずり

化け物を連れてやってくる…
 

「………… ルイ様 ? その歌 憶えてらっしゃるのですか?」

「………………………」

「芙蓉様が教えて下さった 歌ですよ?」

「………………………」

「あ…食事が摂れれば 管は外せるそうですよ? なにか召し上がりたいものありますか?」

「………………………」

「窓を開けましょうか? 今日は風が心地良いので…」
 

「…………お ま え」
 

「ルイ様……! ルイ!」


お ま え だ れ だ ?……………


3年前

僕の恋人は

僕の一切を 忘れた。
 


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なくしたもの

「どういうつもりだ!!」

シャツの襟を掴まれ、屋上の防護柵に乱暴に押し付けられる。

鳴滝 が
授業を受けに来た訳では無い事は、奴が士官学校の制服を着ていたからすぐ分かった。

「どういうつもりって? なんだよ!」

こっちも渾身の力で、鳴滝の身体を押し返す。

「しらばっくれるな! 貴様のしている事はな 確かな誘拐だぞ!」

ゆ う か い?

「なにがおかしい…?」

鳴滝がらしくない言葉を吐いたもんんだから、思わず失笑してしまった。
自分たちを棚に上げて、所詮こいつもこの程度かとがっかりする。

「馬鹿じゃねーの? …2つ3つのガキじゃねーんだ… あいつが帰りたくないっていうからオレが一緒に居るだけだろ! 大体この3日… ルイを探しもしなかったのはテメーのほうじゃねーのかよ!」
 

昼休みの屋上に2人。

オレと対峙する鳴滝の目つきはまるで敵を見るかのようなそれで…

オレの方は
ひるむどころか、逆にこいつに対して様々な怒りが湧いてくる。
 

「ルイから聞いた」

「なにを だ?」

3年前の話を

「あいつ 勉強も運動も出来るくせに 生きるのに必要な事は何にも出来ねーじゃねーか… なんでそんな奴に…なんで真っ先に 人殺しの手立てなんて教えた?!お前だってそばに居て…絶対分かってたはずだろ?!」

「………」

「はっ!都合が悪いとだんまりか…?」

「人聞きの悪い事を言うな… オレ達は戦争をしている。ましてや五経土家の人間は代々そうやって生きてきたんだ… むしろ其れは土家にとっては名誉な事で 蔑められる事などでは無い」 

戦争?

名誉?

なんだその奇麗事は!
オレはそんな事を聞きたい訳じゃないのに!

「あの時ルイ様は………」

「教養も土家の特殊能力の使い方も、記憶の底から難なくサルベージされたのに…かけがえの無い事は何をしても…取り戻される事は無かった…」
 
 
 
「オレの事さえも………」
 


一瞬、鳴滝の表情から、厳しいものが消え

俯く瞳にうっすら影の様なものが落ちた気がした。

 


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3年前

次の休みは、あっという間に… そして何事もなく過ぎた。
基地の向こうに 星 が落ちることもない。
空に哨戒機が飛ぶ事も無い。

何事も無いというと 少し違うかな。

ルイは相変わらず、食事に半端無い時間がかかったし

風呂や着替えさえ

一から教えないと一人では何も出来ない。
 

特に風呂は(幸いな事に この寮にはシャワーだけなら各部屋にそれぞれあるのだが)

まだ温度の上がらないシャワーを頭から浴びて悲鳴をあげる。

泡が目に入って痛いと泣くので、仕方なくシャンプーハットを購入…(レジの人と目が合い恥ずかしかった…)
 
やっと洗い終わったかと思えば、裸のまま…濡れたままで部屋を歩き回る。
 

「あ 冷たい」

頭からバスタオルをかぶり、業者にはめてもらった新しい窓ガラスに寄りかかる。

「おい 着替え出してやったんだから せめて下着ぐらいはけよ」
 

たとえ男とはいえ
目のやり場に困る…
 

「はかせて 東洋」
タオルを肩まで下ろして、まるで誘うような目つきをする。

「ばーか!!」

ルイがクククと笑う。

からかって楽しんでるな? こいつ…!
 

ガラス窓から身を起こして、ルイはオレを今度は真面目に、真っ直ぐ見据えた。

「僕はまだ3才なんだよ 東洋…」

「は? そんなでかい3才が何処に居る!」

「僕の頭は3年前に一度壊れてる。軍は未だ僕を必要としていたから 必死に失った物をサルベージしようと試みたらしいんだけど 僕は 物の食べ方や 眠り方や あげくは息の仕方まですっかり忘れてしまっていた。 次の一年は管だらけの生活だったよ」

「え……?」

笑って なに しゃべってんだ?
 

「でも 東洋 僕が 忘れなかった事が一つだけあるんだ… 僕はそれだけは憶えてた」

「オレの …こと?」

「そうだよ… 代わりに東洋は 忘れてしまったけどね」

いつ どこで ?

「オレは……… ごめん オレ」

「いいよ 思い出したら教えて… あ!東洋 今日もゴーヤでなんか作ってよ!」

「ん? ああ …いいよ」
(休日は寮の食堂が休みなので、基本的に自炊している)

「やった!!」

ルイは 本当に 子供みたいに 笑い 泣く… 

3年前にルイの心が壊れた。
すると出会っていたとしたらその前だ…

オレは、ルイと記憶を共有出来たはずなのに、そうしなければならなかったのはオレしか居なかったかもしれないのに…

ルイはオレと出逢って
さぞや落胆しただろう…
  
 

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眠らぬ小鳥

その夜、ルイは 多分… 全く眠らなかった。

部屋の隅で 膝を抱えて うずくまったまま…
 

「おい ルイ 少しは休まないと… オレ下で寝るから ベッド横になれよ」

「いいんだ これで… 夜はいつもこうなんだ…」
「いつも…って… お前 身体良くないんだから」
「へ い き だよ…」 


オレはオレで、そんなルイを無視して寝る事も出来ず
椅子に座って、そんなルイの様子をジッと見てる。
 

「なあ 東洋?」

「なに?」

「あした 休みだろ? … あしたも 一緒に居てもいい?」

膝に顎を乗せて、オレの顔も見ずに ルイがつぶやく。

「ルイが居たいだけ 居ていいよ…」

ルイは分かってるんだろうか? 
オレが昼間、ルイを公園に置き去りにして それをどれだけ後悔したか…
そばに居たいと思っているのは、むしろ オレの方だという事を…

「ほんとに?!」

ここで初めて オレの顔を見る。
 
「お…お前さー 目〜離すとなにしでかすかホント心配なんだもん!」

これは オレの照れ隠しだ…

「僕は 東洋が僕を心配すると ちょっと嬉しい」

はにかむように笑う。
おもわず見とれて… 慌ててその笑顔から目を反らした。

「おいっ! 今度心配かけたら 速攻退場 だかんな」

「冗談だよ、分かってる …ありがとう… 東洋…」
 

    ……… ありがとう か………
  

そんな会話をして

オレはルイに告白する事も無く
その身体に、指一本触れる事も無かったけれど

今この夜、この瞬間の世界ではじめて

お互いの感情が 深く交わされた… そんな気がしたんだ。
 
  

うとうとと微睡む。

言葉が途切れ途切れになり 結局オレは机に突っ伏して眠ってしまった。

ルイは起きていた。

オレは眠っていたけど それだけは なぜか夢に見るより明瞭だった…

ルイは一人 何を考えていたのだろうか?
 

遠くで夜明けのカラスが鳴く声がした……
 


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直せないよ…

割れたガラスをやっと片付ける。

仕方ない。
明日、窓はどうにかするとて今日はここで寝るしかない。
 

「おいルイ… お前先輩の部屋に泊めてもらえよ… こっちまだ破片があるかもしれないし… 暑いから」

「お〜 構わへんよ〜 もともとオレの部屋は二人部屋だしな」

「…………」

「ルイ?」 
 

さっきまでのテンションはどうした。
部屋の隅でルイはうずくまっている。

「どうした? 気分でも悪いのか?… ルイ?」

さっきの嘘泣きなんかじゃない。
声をかけた途端、今度は肩を震わせながら、ルイは泣き出した。
 

まるで 子供 みたい に…
 

さっきガラスの掃除をしていた時に、ルイは指の先をその破片で切った。

あんまり危なっかしいので、もういいから と少し冷たく突き放してしまった。

絆創膏を貼ったその指に血が滲んでいる。
 

「もう怒ってないよ ルイ… 放っといて悪かったな」

ルイは

精神的に ひどく 不安定だ…

テンションの高い時は、好き放題、我が儘し放題、悪態つき放題…
それがその真逆になると
あの病室での一件もそうだったが、まるで人が変わったような落ち込み方をする。

また、上辺だけとはいえ完璧な華族としての振る舞いもすれば

小さい子供のようなたどたどしい素直さを見せる時もある…

あまりにもその境界が明確すぎて、
それはある種、病的なものであるように感じた…
 

「ごめ ん… ほんとうに… 思い返せば… 僕は とても酷い事をした…」
 

顔つきまで変わる。
 

「割れただけだ… 直せるから」
「直せないよ…… 割れたガラスは割れたままだもの……」

扉が閉まる音がして、先輩の気配が部屋から消えた。

 

「僕だって おんなじだ」

ルイがまた呟いた。 

多分

多分本当のルイも、自分の その不可解さに 気付いている。


 

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反省会

「怒ってるのか? とうよう?」

二人を部屋に(すべての窓ガラスを割られた)正座させ、その正面に自分も正座して座る。

怒るというより

この哀れなオレの部屋の状況と、とても理解出来ないこいつらの行動に呆れてろくな言葉も出やしない。

「ま〜いいじゃね? さっき騒ぎに飛んで来た寮長もさ 東洋が後で弁償するからって言ったら じゃま、え〜わ ってさ! はははは それに今暑いやん! ほら雨降ったらオレの部屋来ればいいし〜」

へらへら笑う六堂先輩を睨む。

「わっsweat01!!マジんなんなよ〜 東洋君 ジョ〜クでしょ〜 機嫌なおして な?あ、そーだ!今日買ったエロ本貸すからさ〜勘弁してよ〜」

読みませんよannoy!!そんなもの!!

「あ…相変わらず固いなあ〜東洋君は 袋とじを開けさせてやってもいいんだぜ?」

「なあ なあ とうよう! えろほんってなんだ?!」

「お? くいついたな思春期ボーイめ! じゃあ東洋君のかわりに土御門君に進呈しようか?」

「先輩っpoutannoy!!ルイに変な事教えないでください!!」
 
 
反省の
様子が
まったく無い…………!!
 

「なあ東洋 もう怒らないで… 僕が悪かった あやまるから 機嫌なおして…お願い」

ルイが身体を曲げるようにして、オレの顔を下から見上げる。
その赤い目には、うっすら涙が滲んでいるようにも見える。

…………………
 
 
「もうその泣き落としは効かないぞ… ルイ」

「…………… ちっ
 

「ちっ とはなんだ! ちっ とは!」

「だって東洋が悪いんだ!僕を放ったらかしにするから!あの後、へんなじじいに声かけられて追いかけられたり、車にぶつかりそうになったり、道には迷うし!お腹がすいて死にそうになるし!!」

「お腹?!食ったばかりだったろ?!だいたい… オレだってどんだけお前を心配してたか!」

「まあ… まーまーまーまー」

六堂先輩が、腕をオレ達の間に割り込ませ、言い合いを制止し、パンパンと手叩きをする。
 

「とりあえず」
 

部屋の中だというのに、やたりと虫の声がリアルだった…

これじゃエアコンも付けられないじゃないか……
 

でも
今オレの前には ルイ が居る……
 

「とりあえず、3人で 割れたガラスの掃除をしようじゃないか!」

時計は0時をまわろうとしていた。

 

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ルイの復讐

住宅街を抜けて寮までは、民家もまばらな一本道だ。

その道を挟む、稲穂畑の向こうに 花火が上がって白く 光る。

遠く過ぎて、音も微かにしか聞こえない。

高く打ち上がって

緋も黄も 碧もない

ただ 真っ白に 光って消える 大輪の菊のような花火。
 

高く
ほら
あんなに大きく咲いて 
チカチカと
落ちて
消えて逝く…
 

ルイの所在が知れて、分けが分からなくとも少し安心していたのか
オレは急いでいた足を止めて、それを少しだけ見ていた。
 
「…………………」

青々としているであろう稲穂が、ザワザワ揺れていた。

 


「おーい おーい!! やっと来たか! 東 洋!」

寮の裏口あたりから、六堂先輩の声が聞こえる。

駆け寄って行くと
案の定 
先輩の隣には土御門ルイが昼と同じ士官学校の制服姿で立っている。

「先輩……… ルイ……!」

「はっはー!! ちょっと前なら ギャラリーも居たんだけどなあ〜 写メ送ってやれば良かった!」

「??? は?…… いったい何なんですか?!」

「東洋。僕はこ〜んなに爽快な気持ちになったのは実に久しぶりだ!いや、生まれて初めてといっても過言では無いかもしれん… お前からもこの六堂とやらに礼を言ってくれ!」

「??? ルイ?…… ん? ルイ…… なんでバットなんて握ってんだよ?!」

その時
直ぐ右に有る、一階のオレの部屋の窓からカーテンがふわりと風に舞ってるのが見えた。

なんで?
窓なんか
開けてないのに

「しかし東洋よ… お前も罪な男だぜ… まあ昔からお礼参りといったら コレ しかねーもんな」

「僕はバットにこういう使い道があるとは知らなかった…」

は?
恐る恐る部屋に近づく…………

たしかさっき携帯で 謎の破壊音が聞こえたんだ………

パキパキっと
何かを踏んで足下を見る。
 

「ガラス?……………………へ?」
 
あれ?

なんで?

窓 が………

オレの部屋の 窓 が

全 部

無 い? 

………………………。

うわああああああああああああっcoldsweats02sweat01!!!な、なんだっこれっ!!!

 

 

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謎の破壊音

だからどうする?

好きだから、 じゃあ どうだっていうんだ?

何が出来るっていうんだ?

軽卒で 無意味で 青臭い

どうせ後悔する事になるぞ?

心の中のもう一人の自分が皮肉っている。

けど 放っておけないんだ………
 
 

「多分 あいつは 家には帰ってない… 」

考えてみたら、あいつが行きそうな所なんかオレは全く知らないのだった。

結局オレは
ルイの事を全く分かっていない。
 

鳴滝
 

ふとあいつの名を思い出す。

(そうだ! 音楽棟でルイがオレの携帯で鳴滝にTELしてたよな! 履歴!)
(ひょっとしたらもう鳴滝といっしょに居るかもしれない!)
(それなら… 鳴滝のそばに居るなら それが一番)

慌てながら携帯を開けると、画面を何度もスクロールしなければ見きれない程のメール。

「なんだよ!これ!」

朱里…………だ!

「………………… なんなんだよっ!!こんな時に!!」

一瞬、携帯ごと地面に投げつけたいような苛立ちに襲われて
その自分にハッとして
そんな自分が怖くなる。

(ごめんな 朱里 オレは、もう君に何も言ってやれない)
 
 

繁華街をとっくに抜けて辺りはもう暗闇。

遠くに踏切の赤い点滅と電車が走り抜ける音。
ひと呼吸おいて、もう一度携帯を開いた時、携帯の着信が鳴った。

まさか朱里かとも思ったけど、そうではなく、相手はオレの寮の隣部屋の先輩からだった。
 

『あー 東洋か? 留守電入れよかと思ったんだけど 今日バイト早いじゃん』

「はい ちょっと急用があって… あの なんスか?」

『なんだよう?不機嫌だな〜 ほんなら早よ帰って来いや! 今帰ってくるとチョーウケるから』
 

ウ ケ る?……………
 

「すいません六堂先輩 オレ今 大事な用事があって」

ガッシャーーーーーーーン!!!
?!!!

『はっはー!! すっげー振り!! 選抜級だな!!』

「先輩?! 今の何の音ですか?! なんかもの凄い音したんですけど!!」

『あっと2枚!あっと2枚!』

『逝き去らせーーーーーーっ!!! クソ東洋がっ!!!』

?!!!!!!!今の声っ?先輩?ちょっと!!」

ガッシャーーーーーーーン!!!
ブツ………… ツー ツー ツー ツー ツー

「き 切られた…………」

あの聞き覚えの有る様な、毒めいた叫び声………

確かに クソ東洋 と聞こえた ……気がする…… (しかも逝き去らせと…)

「なぜルイの奴が 寮に …六堂先輩と 居るのか?sweat02

そしてあのけたたましい破壊音。

オレはルイの声を聞いて安心するどころか、混乱と不安にかられて寮までの道をダッシュした。

 


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ただ一つの答え

「東洋 東洋!!」
「……は はい!」
「なにボーッと突っ立ってんだよ!司サンのテーブルにこれ持ってって!」
「あ、すいません」

バイト中もずっと後悔してる。

必要以上に大音量の店のBGM、いつもはそれが何よりも嫌だったのに
なんだ今日は音が耳に入ってるかどうかも分からない。

「おっせーぞ! 東洋! 松崎のお姉様がお待ちかねだろーが!」

「すいません」

「あらあ? どうしちゃったのよ〜東洋君〜 お顔怪我してるじゃない?」

「あー… ちょっと転けちゃって」

「ベタだなー東洋!!顔からダイブかよ!!」

「ハハハ……………そっス。」

「じゃ松崎のお姉様。今夜はこいつの間抜けな顔面完治に乾杯させてもらっても良いスか?」

「ホホホ じゃあ新しいボトル開けなきゃね〜!」
「やった!東洋!!ドンペリ一本!!」

「は、はい………………」

「ドンペリ入りましたあ!!」
「ホホホホホ」
「出るぞ!司サンのドンペリの舞が!」

ドンペリ………
あいつ今頃ちゃんと家に帰れたのだろうか?

一人で飯も満足に食えないあいつ…

なんか悪いもん拾って食ったり

車にぶつかって怪我したり

チンピラに喧嘩売ったり

お菓子につられて悪い奴に誘拐されたり…………
 

まさか

子供かっ……!!

けど
 

『兄上は僕に死ねと言ったけど……』
 

あいつの家には泰親が居るんじゃないのか?

冗談だろ?
だって実の弟に、本気でそんな事言う兄貴が居るか?

あの時、鳴滝の前に引き抜かれた、あの白光る軍刀

カナリアはどうなった?

逃げようと思えば、いつだって逃げられたあの可哀想なカナリアは…殺されて地に落ちたんだ…


「おいこら!東洋!何処行くんだよ!!」

「すいません!!今日上がります!!」

「てめannoy!こら!オレの舞の途中に!!」
 

何を迷ってたんだオレは!

答えは一つだったはずだ…

その後はどうにだってなるんじゃないのか?

結局オレは、自分の保身だけ考えてたんだ…

戦争を直視しない平和ぼけした奴らを軽蔑しながら

それ以下のこの最低な状況……

泣いてるあいつを放ったらかしにして………

答えは
ただひとつ

「ルイ………」 

オレはルイが 好きだ 。

 

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