【夏目カイトside】
「なんだよ そのツラ」
アサヒと待ち合わせた、駅近くのカフェ。
正面の席で、頬杖をついたアサヒが額の傷を目を細めて不審がる。
「シャレになんねーよ… マンションのゴミ置き場に毎朝カラスが溜まってて…この前遂ににオレを襲ってきてさ」
「は…? か ら す〜?」
お陰で、事務所には散々怒鳴られ、仕事の方はまあ、なんとかメークでごまかせるみたいなんだけど。
「1匹たちの悪い奴がいて、今朝もオレを狙ってきやがったんだ!」
群れの中の、明らかに他のカラスとはクチバシや身体の形が違う奴。
そいつが毎朝、オレをピンポイントで狙ってくるんだ!
「あ〜 ひょっとして山ガラスなんじゃねーの? 都会のとは少し身体が違うっていうぜ?」
「やま?…知んねーけど」
「しかしカイト… お前もさ おめでたいやつだよな?」
「あ?なんだよ
?…大体さーお前今日はなんかオレに話があったんじゃねーのかよ」
アサヒがオレの顔をつまらなそうに一瞥する。
ピシピシとコーヒーの氷がきしむ音… それをアサヒがストローでかき混ぜる。
「… 柏原さ あいつしばらく休学するんだってさ」
「?… はっ?!」
アサヒの口からユキの名前が出て来ただけでも意外だった。
その後の言葉を理解するまで、オレはしばらく固まってしまう…
「なんで? ユキ また調子悪いの?!」
少し前にオレのマンションに来た時は、結構元気そうだったのに
その後は、当たり前だけど…なんの連絡も無くて
「悪いんじゃねーの?長期入院する位なんだから」
「長期… 入院て!! いつから?! なんで?!」
頭が真っ白になって思わず立ち上がり、アサヒに詰め寄る。
だってオレは何にも知らなかったんだ。
この時まで、
あの海の街で、ユキのまわりで起こっていた事
何も 知らなかった。
「5月だったかな… 鷹木晴彦が、 事故って死んだんだ」
………………………?!!
「乗用車に引っ掛けられて 即死だってさ… 高校の追悼式なんか号泣する奴続出で悲惨なもんだったぜ?」
「な… 冗談だろ? アサヒお前」
あいつが しんだ?
「カイトが馬鹿みたいに烏と格闘してる間に、鷹木は死んで柏原は現状再起不能だ」
淡々と、無表情に語るアサヒの言葉に、オレはもう疑う余地を見いだせず…絶句して、また椅子に力なく腰を下ろす。
あいつに最後に会ったのは、あの海の街の朝の浜辺
(鷹木さん あんた 中学ン時何部だったの?)
『野球、ショート4番… お前はバスケ 辞めるなよ?』
最後の言葉、まるでその海岸線に光っていた朝日のような笑顔と、あげられた右手…振り向かなかった背中
(う そ だ ろ…………?)
「死んだってなんだよ… どおすんだよ… だってユキは」
だって…あいつはお前を失って、ひとりで生きて行ける程、つよくなんてないんだよ…!
「ま、それで駄目ならそれまでだろ?死にたきゃ後追いでもなんでもすればいい」
「アサヒ…! てめ」
オレはアサヒの胸ぐらを掴み、まわりの目も構わずに拳を振り上げる。
「カイト、戦線離脱したお前に オレを殴る資格があるのか?」
「………」
「人間…まわりに誰が居ようと居まいと…生きてくのは自分一人だろ? 大体、それと寂しさとは別のもんだ」
上げた拳をテーブルに置いて、全く慌てる様子も無かったアサヒを解放する。
戦線離脱
鷹木晴彦の死
オレはあのまま、高校も辞めず、ユキのそばに居るべきだったのか?
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