カテゴリー「BL日記(夏目カイトside)」の記事

あたえられたもの

夏目カイトside
 

世界の何処かで戦争があったりして

この国の何処かで、人が殺されるような事件がおきたりして

何処かの病院で死の病に苦しむ人が居て

そうするとみんな言うんだ
 

命は大切

命は大事

かけがえの無いもの それを奪うのは悪だ と。

でも命と同じくらい大切なものがある。

生命と一緒に 存在の証として与えられたもの… 
 

それはきっと 心 だ。
 

15かそこらの青年に成りきらないような子供が、目の前で かけがえのないと思っている存在が陵辱され自分の力ではどうにもならないと自覚したとき

それを救うのに、取り返しのつかない罪を犯してしまったとして

きっと世間はその心を計りもせずに ただその事実を非難するだろう。
 

オレは、その三倉崎という奴を刺して、自分のした事に途方に暮れる鷹木を想像して涙が溢れた。

その過去を、それは多分鷹木の為に、必死に抹消しようとして
己の心を自ずと破壊したユキを想像して激しく胸が痛んだ……
 

『でも 悪は悪です。 命とは、たとえどんな命であっても 守られるべきものです』
 

道徳の答えはこうだろうか?

でもオレは

オレは法律じゃ無い 国家でもない 

オレは鷹木を裁いたりなんてしない……
 

「ユキ  一緒に暮らそう この街を出て オレと一緒に暮らそう…」

生きていこう。


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往復ビンタだ……!

夏目カイトside

あいつの足じゃそう遠くには行けないだろ?車椅子から、この前やっと歩けるようになったんだから…

何処にも居ないなんて嘘だ。
だったら街の隅から隅まで探せばいいんだよ!

「くそ…」
この雨のなか 今、何処でなにやってんだよ
病み上がりのくせに 暗い夜にひとりぼっちで

「あの バカ…」

駅やその辺りを探しまわっていた所で、ポケットの携帯が鳴る。
慌ててとったその相手は、期待や不安とは全く無関係の奴で…

『どこいんの? カイト』
アサヒ だ。

「悪ぃ 今、ヤベーんだ… 切るぞ」
話すこの時間さえも惜しく感じる。

『聞けよ! オレさクラブ行く途中なんだけどさ』

「だから もう切るか……」      『柏原がおっさんと歩いてる
 

な ん だ っ て…………?
 

『向こう行ったら…ラブホしかね〜なあ』

濡れた全身から、一気に血の気が引いた。

「そこ…お前今何処…アサヒ!! ユキつかまえとけ!!

『あ〜? やだよ だってオレこれから』

「黙れ!!いいから早く…っ 殴ってもいいから!!」

『……………どっちを?』

「決まってんだろ!! その変態おやじだよ!!」
 

なにやってんだよユキ………!!!
いったいどうしちゃたんだよ…………

オレにこんなに心配させて
何も言わず 勝手に居なくなって

全然知らないような、汚い大人に…自分が傷つくために 抱かれる気か?

それで死ぬつもりか?

許さないからな…!!
そんな事したらオレは、ユキも鷹木も許さないからな!!

「往復ビンタだ…! バカユキ!!」

雨は梅雨の名残のような、強くも弱くもない鬱陶しさで街を濡らす。
繁華街へ抜ける大通りをオレは形振り構わず走った……

 


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夜の見えない雲から

夏目カイトside

もしも人の心の中に、果てしない闇があったとして それを家族だから、恋人だから…きっとそこから救い出せるかというと、答えはイエスじゃない。

あんなにユキを愛しているユキの両親や、命を分けて生まれて来た双子の姉のサクでさえ…ユキはそこを生きる場所として望めなかった。

じゃあ、そのユキの救世主が鷹木かというとオレはそれも違うと思うんだ。

あいつはその闇に、多分一緒に住んでいた唯一の存在
お互いの顔が見える程度の薄闇の中で
あいつらはずっと、手を繋いで、励まし合って生きてきたんじゃないだろうか?

鷹木はこの世を儚んでた。 それどころかどこか軽蔑している節さえあったように思える。

なのにユキに対しては違ってた。

あいつは責任と言ったけれど

あいつこそユキが居たからこそ、そこに生きる意味のようなものを見いだしていたのではないだろうか?

(じゃあ なんで 死んだ ?)
(それとも無念だったか? …鷹木さん)

『…もうオレは ここからユキを 出してやりたかった』

(??)

なんだかあいつの声が聞こえた気がして、ふと振り返る。
駅前の繁華街は、昼には無かったにぎわいを見せていた。

勿論、そこに鷹木の姿なんてあるわけはなかったんだ…


 
ユキが退院したその日、父親が病院へ迎えに来て一家それは楽しそうに家へと帰って行った。
ユキも笑っていた。
でもその笑顔には、なんだか違和感を感じて仕方なかった。
なのに……
  

叔母のマンションに顔を出し、妹ともども食事をしたりして、そろそろ帰るかという所で携帯が鳴る。

ユキが居ないっ!何処にも居ないの!あたしが見てなきゃいけなかったのに…!ねえ…!ど、どっかユキが行きそうな所知らない?!どうしよう…どうしよう!!ユキ 死んじゃったらどうしよう…!!
「っ?!!」

明らかに取り乱しているサクからの電話
そういうオレも、ユキが居ないという言葉に 一瞬 呼吸が止まる…

昼間ユキと会った時、繋がれた指と指を オレはなんでほどいてしまった?

『ユキ… きっと死にに行ったんだ… あたしのせいだ…!! どうしよう……』 

学校は?! 鷹木の家は?! ああっ!もう泣くんじゃねーよ!! 絶対に…絶対にそんな事させねー!!
 

この世で一番大切な …報われなくても関係ない。

一生片想いでも構わない。

オレの大事なユキを、死なせたりなんかするもんか……!

(悪いけど 鷹木さん… オレはこんな世の中でも まだ見限っちゃいないんだ)

オレは携帯を持って、マンションを飛び出した。

「いったい何処にいんだよ ユキ!!」

夜は更けて行く。
にわかに月を隠した、夜の見えない雲から大粒の雨が ばらばらと落ち始めていた。

 


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『冗談だよ…』

夏目カイトside

「お?!急いでんな〜カイト なんだよ デートか?」
午後1時 撮影を終えて現場を足早に出る途中に、照明スタッフに声を掛けられる。
「いや〜 友達が今日退院するんで それで顔見せに」

ユキが今日退院するんだ!

「ハハ! 友達に会いに行くってツラじゃね〜ぞ? 仕事ん時もその位の顔してみな すぐ表紙の仕事来るから」
「あーまあ 表紙より«そいつ»なんで…」
「のろけんな〜 うぜーうぜー さっさと行っちまえ」
オレは笑い、挨拶をしてその場を後にする。

先週は、どうしても休みがとれなくて… だから会うのは2週間ぶりだ。
今朝、ユキの姉ちゃんのサクからTELをもらい、退院の話を聞いた。

少しは元気になってくれたんだろうか?

(そりゃそうさ あの病室から出られるんだから)

遠いな
ユキの住む街までは とても遠い…


 


カイト!!

ひょっとしてもう病院には居ないんじゃないかと思っていたので… いやそれよりオレが驚いたのはユキが 笑って オレを見て オレの名を呼んだ事だった。

病室の戸を開けて、オレはあまりの事に何の返答も出来なかった。
ユキの母親とサクが笑っている。

「ユキったら カイト君を待ってから帰るって…」
「あ… あ そう…」
最近、食べ物も通るようになって、血色も大分良くなった。一人で歩けるようにもなった。
でも、相変わらずオレの事は、最近知り合った«友達だったかもしれない奴»で…

「母さん カイトと中庭に行ってもいいかな?」
「いいけど 早めにね… 病院閉まっちゃうから」
思い出してくれたのか? ユキ?
不思議な程、満面の笑みを浮かべたユキに手を引かれて病室を出た。


ずっと
ずっと触れられなかった、ユキの手のひら
ひょっとして夢なんじゃないだろうか?
(夢だったマジで泣くな オレは……)


もう午後で、人気の少ない入院病棟の廊下をユキと二人で歩く。

「なあ ユキ?」
「なに」
「そっち 違うだろ?」
ユキは明らかに、いつもの中庭とは違う方向へオレの手を引いて行く。

「ゴメンねカイト 思い出すの遅くなっちゃった… ねえ!何処行こうか?カイトは何処に行きたい?」
不審がるオレの顔を見ても、ユキは屈託ない笑顔のまま…
「どこって…」
「あ! カイト夏休み明けたら新しい高校行くんだろ?行ってみたい!外から見るだけでも」
「ユキ」
「あとね スグリ屋にも行きたい! 甘いのずっと食べてないし」


ユキ!! 今日は家へ 帰るんだろ?


ユキがそこで…ゆっくりうつむいた…

そしてオレ達を繋いでいた手が 指が そっとほどけた。

「…… そうだね 帰らなくちゃね 冗談だよ」
(ユキ………?)
もう一度ユキが 静かに 微笑む。微笑んで…その唇からオレに影を残す、言葉をこぼした…

「今……不安になっただろ …冗談だよ 本当に」

もう一度、冗談だと繰り返す。
オレはこの時、ユキの最後のサインを、見過ごしてしまっていた。

ユキにとって、家とはこの病室となんら変わりない場所 
ユキはきっと 帰りたくなかった… 
でもユキの望む場所は、まるで オレとの最後の思い出を作ろうとしているかのようで
なにかユキの決意めいた何かを想像させて 

どうして あの時 それに気付かなかったのか……

バカ だ … オレは 

そしてその日の夜、
ユキは自宅から
その姿を消してしまったんだ…

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白い花びらが、空の何処かへ

夏目カイトside

「すげーな… ここ 花のトンネルみたいになってんぞ」
「…………」
そこは、あたり一面様々な花や緑で覆われて、まるで映画とかに出てくる外国の庭のようだった。
「見ろよユキ! 池ん中 魚がいる!えっ?ナマズ?!まさかっ」
「…………」

まるでレポーターのようにオレは一人でしゃべる。
ユキはオレが指差す方に視線を向けはするものの、それに対して何の反応も示さない。

でも知ってるんだ…
ユキがまるで女の子みたいに、キレイなものや可愛いものが好きって事。

それは、空であったり…ケーキであったり…星であったり… 熊のぬいぐるみであったり

もしあの無機質な病室を、せめてそいうものでいっぱいにしてあげたら

ユキはもう一度、笑顔を取り戻してくれるんじゃないだろうか?

( ……………。)
単純かなsweat02 だからバカって言われんのかな…
けど……

「あんな地味なとこに閉じ込められてたら そりゃ気もめいるよなー?」

車椅子を押しながら、オレがそう呟いた時… ユキが口を開いた。

「…母さんには 悪い事をした…」

「言いたい事は言えよ 身体に悪い」
「何度も 死にたいって… 言った…」

消え入りそうな声だった… 
(…やっぱり…追いつめられてたんだな…)

白い薔薇の垣根と垣根の間に奥まったスペースがあって、そこに車椅子を中庭がよく見える位置にまわして置き、真横に腰を下ろす。

「なあユキ それってさ… ごめんな 分かったふりみたいに思われるかもしんないけど…」

ああ
鷹木さん…
オレにこんな役をさせんなよ…

「オレにはさ、«死にたいくらい辛いから 助けて下さい»って言ってるように聞こえる」

「……僕は たすけなんか……」

「だから いいんだよ わがまま言えって! ばばあウルセーって言ってやれ!」
「…………僕は」
「大事な子供に… 大事な人間に死なれる位なら、オレは例えどんなでも…言葉を聞ける方が 幸せだ」

湊斗さんも
鷹木のアホも
もう、オレには何も語らない…


「………うっ」


それまでずっと無表情だったユキが、一瞬顔を強張らせたかと思うと…肩を震わせて、けど… 声を殺して泣きだした。
オレはそのユキに触れる事も
慰めることもしなかった……その姿があまりにも痛々しくて、そうしてしまったらきっと…ユキが壊れてしまいそうで…

ユキはあの病室で、感情をあらわにして泣けた事があったのだろうか?
鷹木を悼む事が出来たのだろうか?

風が吹く…
盛りを過ぎた、白い花びらが空の何処かへ飛んで行く。
「ユキ 見ろよ! すげーキレイ!」


オレは次の休みも、その次も ユキの病室へ向かい、ユキとこの中庭を散歩した。
ユキが相変わらずろくにしゃべらなかったし、オレの事も思い出したりはしなかったけど
オレはそんなことはどうでも良かった。

あの狭い牢獄のような病室から連れ出して、ただ…きれいな、ユキが好きなものだけをユキに見せてやりたかったんだ。
オレの大好きな大好きな ユキに


けど それすらも、今のユキにとっては、下らない浅はかな慰めでしかなかったという事に
その時のオレは 全く気付いていなかった………

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どんな君でも

夏目カイトside

…やっぱこういう時は、花とか買ってきたほうが良かったかな?
手ぶらってな… こうフルーツがいっぱい籠に入ってる奴とかさ…

ユキの入院する病室の入口まで来て、今更そんな事を考える。
(たく、女々しいなお前は… さっさと入れよ!)
そりゃここまで来て帰るわけにはいかないし、けどいったいどんな顔をしてあいつに会えばいいのか…

深呼吸。

なんとかなる!…はず。

ガシャン!!

「!!」
思い切って病室のスライド式の扉に手をかけたその時、部屋の中から何かが落ちる大きな音がして、オレはためらいも忘れて思い切り扉を引いた。

「あ……」
その部屋には、こっちに背を向けた格好でベッドから降りようとしているユキ
慌てて、それを止めようとしているような、ユキの母親と…
床に無惨に散らばったトレーと食事らしき色々……

「ユ キ…」
「あ、カイト君?! よね… この子止めて!ずっとベッドで寝てたのに外に出るってきかなくて!」
うるさいな!!離せよ!!

叫んで、母親の手を乱暴に払ってつきとばす。

あれがユ キ ?
そして見た目にも危なげに立ち上がったと思った瞬間、膝から折れてその場に倒れた。

「おい! ユキ!」
オレはそれを見てやっと動く事ができた。
慌てて倒れたユキに駆け寄る。
駆け寄って、やっとユキを正面から見て、オレは息を飲んでしまった。

この前会ったときも痩せたと感じていたけど、今ここに居るユキのやつれようはなんだ?

頬もこけて、顔色も青いを通り越してまるで血管が透けるように白い…
浮き上がった鎖骨が痛々しい…掴んでいる腕も、およそ筋肉なんてものが感じられない程細かった…

「だれだよ おまえ…?」

オレに向かってユキがはなった言葉。

「え…?誰って… 分かんないのか?」
「ごめんなさいね?カイト君… ユキちゃん あなたのお友達じゃないの」
「…と も だ ち ?」


ユキの記憶は、ずっと混乱しているのだそうだ。
オレに対する視線も、初めて会ったかのような、ある種敵意めいた油断ならぬというような感じで…それがオレの知ってるユキとは全く違うものだったので…オレは一瞬戸惑った…

けど

これもユキの姿なのならば、このユキもオレの大事だ…


ずっとベット生活で、足の筋力が落ちたユキを車椅子に乗せ、(はじめはこれも散々嫌がられたのだが、なんとかなだめ…)病院の中庭に連れて行く。

車椅子を押しながら中庭への扉を開けると、そこは地上3階とは思えない…花の園だった。


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山ガラスの知らせ

夏目カイトside

「なんだよ そのツラ」
アサヒと待ち合わせた、駅近くのカフェ。

正面の席で、頬杖をついたアサヒが額の傷を目を細めて不審がる。

「シャレになんねーよ… マンションのゴミ置き場に毎朝カラスが溜まってて…この前遂ににオレを襲ってきてさ」
「は…? か ら す〜?」

お陰で、事務所には散々怒鳴られ、仕事の方はまあ、なんとかメークでごまかせるみたいなんだけど。

「1匹たちの悪い奴がいて、今朝もオレを狙ってきやがったんだ!」
群れの中の、明らかに他のカラスとはクチバシや身体の形が違う奴。
そいつが毎朝、オレをピンポイントで狙ってくるんだ!

「あ〜 ひょっとして山ガラスなんじゃねーの? 都会のとは少し身体が違うっていうぜ?」
「やま?…知んねーけど」

「しかしカイト… お前もさ おめでたいやつだよな?」

「あ?なんだよannoy?…大体さーお前今日はなんかオレに話があったんじゃねーのかよ」
アサヒがオレの顔をつまらなそうに一瞥する。
ピシピシとコーヒーの氷がきしむ音… それをアサヒがストローでかき混ぜる。

「… 柏原さ あいつしばらく休学するんだってさ」

「?… はっ?!」

アサヒの口からユキの名前が出て来ただけでも意外だった。
その後の言葉を理解するまで、オレはしばらく固まってしまう…

「なんで? ユキ また調子悪いの?!」
少し前にオレのマンションに来た時は、結構元気そうだったのに
その後は、当たり前だけど…なんの連絡も無くて

「悪いんじゃねーの?長期入院する位なんだから」 
「長期… 入院て!! いつから?! なんで?!」
頭が真っ白になって思わず立ち上がり、アサヒに詰め寄る。

だってオレは何にも知らなかったんだ。

この時まで、

あの海の街で、ユキのまわりで起こっていた事

何も 知らなかった。


「5月だったかな… 鷹木晴彦が、 事故って死んだんだ」
………………………?!!

「乗用車に引っ掛けられて 即死だってさ… 高校の追悼式なんか号泣する奴続出で悲惨なもんだったぜ?」
「な… 冗談だろ? アサヒお前」

あいつが しんだ?

「カイトが馬鹿みたいに烏と格闘してる間に、鷹木は死んで柏原は現状再起不能だ」

淡々と、無表情に語るアサヒの言葉に、オレはもう疑う余地を見いだせず…絶句して、また椅子に力なく腰を下ろす。


あいつに最後に会ったのは、あの海の街の朝の浜辺


(鷹木さん あんた 中学ン時何部だったの?)

『野球、ショート4番… お前はバスケ 辞めるなよ?』


最後の言葉、まるでその海岸線に光っていた朝日のような笑顔と、あげられた右手…振り向かなかった背中


(う そ だ ろ…………?)

「死んだってなんだよ… どおすんだよ… だってユキは」

だって…あいつはお前を失って、ひとりで生きて行ける程、つよくなんてないんだよ…!

「ま、それで駄目ならそれまでだろ?死にたきゃ後追いでもなんでもすればいい」
「アサヒ…! てめ」
オレはアサヒの胸ぐらを掴み、まわりの目も構わずに拳を振り上げる。

カイト、戦線離脱したお前に オレを殴る資格があるのか?

「………」
「人間…まわりに誰が居ようと居まいと…生きてくのは自分一人だろ? 大体、それと寂しさとは別のもんだ」

上げた拳をテーブルに置いて、全く慌てる様子も無かったアサヒを解放する。

戦線離脱
鷹木晴彦の死
オレはあのまま、高校も辞めず、ユキのそばに居るべきだったのか?


 

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ショート、4番

【夏目カイトside】

「こ…ころしたって? 鷹木さん…あんたなに言ってんだよ?」

鷹木が目を伏せ、そしてオレを解放する。
うっすらと、さっき感じた異様な笑みをうかべて…

「冗談だよ」
「なんだよ… ざけんな!」

「お前が軽々しく愛だなんていうからだ …愛なんて言葉は下らない… 見せかけだけの奇麗事だ」
「あ?!…」
「お前に言われなくても柏原はオレが守るし、出来る限りの事はする…そういう…そうだな«責任»だ」
「責任てなんだよ!! お前なに考えてんだかわかんねーよ!!」

責任だなんて…重荷みたいに言うなよ…

「分からなくて良いんだ… じゃあオレもう行くぞ」

「おいっ!」
まだ言い足りないオレを無視して、鷹木は靴ひもを直しオレに背を向ける。

背を 向けたまま 

「夏目 お前 バスケ素質あるよ… 辞めるなよ」

「?」

ふとサクの言った言葉を思い出す。

鷹木晴彦は中学時代、ユキの為に優秀だった部活を辞めたんだって…

「鷹木さん あんたは?中学ン時何部だったの?」
引き止めるオレの言葉に今度は振り向いた。

「野球。ショートの4番」

「4番ね〜 そこまでは聞いてねーぞ」
鷹木が笑う。屈託なく… まるでユキに見せるそれのように…

「バットが持てなくなって辞めた お前は…辞めるなよ」
もう一度さっきの言葉を繰り返して、もう一度背を向けて右手を上げる。

あいつはもうオレを見ない。

また走り出した鷹木に向かってオレも右手を上げる。

ころした?
誰を? 自分を?
冗談
愛、アイは下らない。
優等生 責任
野球を辞めた理由………

「あいつ… なにか隠してる」

『分からなくて良いんだ』
そうかもしれない…オレがいちいち詮索する話じゃ無いのかもしれない…

ユキをあいつが助けてくれるなら 
ユキが助けを求めてるのはあいつなんだから……


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鷹木晴彦について.3

【夏目カイトside】

恋敵に助けを求めるオレのこの惨めな姿。
砂にひざまずいて、鷹木を見上げて、哀願する。

「ユキが笑えるようにしてやってくれよ… オレが邪魔だっていうんなら消えても良いんだ…」

鷹木がオレの髪を掴んで引っ張る。思わず顎が上がり、唇がだらしなく開いてしまった。

「柏原がこうなったきっかけを作っといて…今度はなんとかしてくれか?」
「勝手だって分かってる オレのせいだ… けどユキは助けてやってほしいんだよ」

冷たい無感情な視線、時折ユキがする表情とよく似ている。
掴んだ髪を放されて、つい息が漏れる。

「オレは万能の神じゃない…」
見つめるオレを拒絶するように低くかすかに呟いた… 

「万能さ… 優等生だろ? 今までだってユキを救ってきたんだろ?」

「優等生? だれが?」

この時、いつも余裕をかました鷹木の表情が一気に強張っていくのを感じた。
(だれが?って)
「あんたしか…いないだろ?」

オレより前から、こいつを知ってる柏原サクでさえ、鷹木晴彦という人間を計りかねている。
この時、オレは何となくだがサクがこいつを信頼する反面、恐怖する気持ちが分かった気がした。

オレの言葉に、鷹木は見下ろしていたオレから目を反らして、皮肉めいた口元で声なく笑った。

苦痛のような、嘲笑のような…哀しいような… そんな

「お前」
「っ!」
今度はオレの襟元をもの凄い力で掴んで無理矢理立ち上がらせられた。

それがまた唐突だったので抵抗する暇もなく、なすがまま…
そして鷹木がオレの鼻先まで、自分の顔を近づけた。

「成績優秀で品行方正で、後輩の面倒見も良く…突出した模範生徒…みんなそう言うんだ」

「あ?!annoyざけんなっ自慢か?!は な せ よ!」

ちがう
こいつは自慢なんかしたいんじゃない…
じゃあ なんだ?


「たとえばおれがちゅうがくのときにひとをころしていたとしてもおれはゆうとうせいか?」


「え?……………」

また警笛がひとつ。
ただ寄せて引く 波と水しぶきの音。
いったいなにをこいつは言ってるんだろう?

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鷹木晴彦について.2

【夏目カイトside】

朝の浜辺でジョギングだって?
絵に描いたような爽やか青年だな… ユキからそんな話をずっと前に聞いていて、ここに来ればあいつが居るんじゃないかと思ったんだけど 居るな マジで走ってるよ… あいつ。

「…まぶしっ」
水平線の向こうに白い光がにじみ、それが水面に反射して起き抜けの目をチカチカさせる。
さすがに早すぎて、サーフィンをしてる奴も居ない。
波音しか聞こえない朝の海は、ある種の神聖さを感じさせる。

「おい 鷹木さん!!」

こっちに近づいて来た鷹木晴彦の名を呼ぶ…
あいつもそれでオレに気付いて、その速度を緩め、オレの前で止まった。

「なんな んだ… お ま え…」

相当距離を走っていたのか、荒い息を肩と胸で整えながら、細切れにしゃべる。

「あんたと話がしたくてさ 学校じゃ落ち着かねーだろ?」
「……」

鷹木が腰にぶら下げてたペットボトルの水を飲み、濡れた唇を指で拭う。
その持ち上げられたペットボトルに、光が反射して海を映していた。

オレは浜に腰を下ろす。
鷹木はその脇に立ったままだった。

「こんなキレイな所で育ったんだな あんたらは」

「海は海さ… で? なんの話だ?」

「意外に情緒がねーな まあいいや… ユキ ユキの話だよ」

そう言って鷹木を見上げる。
自分で聞いておきながら、ユキの話だなんて言わなくても想像できたんだろう。
少しもその端正な表情を変えず、海の先を見ている。

「ねえ あんたさ ユキの事、その…愛してんの?」

「アイ…愛?! ハハ、なんなんだ突然 お前らしくない事言い出すじゃないか 愛か…ハハハ」

思いもかけず笑われ、オレは自分に恥ずかしくて思わず赤面した。
まあ確かに らしくない……

「大事な話だろ! 笑ってんなよ!」

「夏目、もう柏原にかまうな… オレあいつと一緒に生きてくって約束したんだ」
「はあ?!」

遠く漁船の警笛みたいなのが響く。
思わずそっちを気にかけて、直ぐ鷹木に視線を戻した。

「鷹木さん あいつおかしくなってんだよ! 家だって飯もろくに食わない、話もしない…夜だって何時間寝てんのかわかんないって… 学校じゃ人形が歩いてるみてーだし… あげくはあんたと同じ大学行くからとか言って勉強ばっかしてやがる… オレはさ ユキがあんたを好きなら好きでそれでもいいんだよ… でもさユキが辛そうにしてるのだけは勘弁なんだ… ユキはあんたしか信じられないって…そんなの、幸せな奴が言う言葉じゃねーだろ?」


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鷹木晴彦について.1

【夏目カイトside】

「あたしさ… ユキが鷹木先輩に振られたって聞いた時、ホントはちょっとほっとしたんだ… 『そう』ってそれしか言えなくて…」

昨日、ユキの双子の姉の柏原サクにめいっぱいなじられ、ひっぱたかれ、それを避けてはまた怒鳴られ…一通りのお叱りを受けたあと、オレとサクは駅前で少し…いや結構話した。

「なんで?ふつう励ましたりするんじゃないの?」

「あたしだって応援してたよ?でも…ふと考えみて… あの人がユキを受け入れたら、なんだかそれは恋愛とはちがう物のような気がして…」

「なんだよ この前屋上で、あいつの愛がどうのとか言ってたじゃん?」
愛なんて、オレにはよくわかんねーけど…(大人の単語だな)

「だからどうしてなのか… 彼はユキの為ならなんでもしてくれる 自分を犠牲にしても守ってくれる…心から感謝してる…… でも」

「でも? なに?」

サクはしばらく黙ってる。
そして駅前の先にある広場を見てつぶやいた。

「あたしはずっと 鷹木先輩のユキに対する思いが怖かった…」

愛は盲目とは言うけれど、最近のユキは普通じゃない… それだけは間違いなくそれがオレを唯一不安にさせた。
鷹木がユキを恋愛対象としてみて、ユキがオレじゃ無くやっぱりあいつが好きだというのなら、オレは無理矢理ユキを鷹木から引き離すことなんて出来ない… と思う。

『恋愛とはちがうもの』

オレとつき合う前のユキは、先輩大好きみたいなオーラがあったし…それはオレにもよく分かっていたんだけど… 今のユキはなんだかやっぱり妙だ…

その«鷹木晴彦»は
常に成績優秀(つーかほぼトップ)、スポーツ万能(オレ程じゃないけど)、容姿端麗(これもオレ程じゃな…でもチョコの数では負けた)そんでもって女にはまるで興味無し(かといって男が好きというわけでもなさそうだ)…

でもはっきりいって、あいつがどんな奴なのかと聞かれたらやっぱりよく分からない。
あいつだって人間で、しかもまだ高校生で、弾けた言動の一つや二つあっても良さそうなのに…

完璧?
いや… なんかちがうな… 禁欲? わかんねーけど…

オレにとっても鷹木晴彦という奴はある意味不気味な存在だった。
かといって怖いというわけじゃなく
でもオレは、ユキの恋人として(もう愛想つかされてんのかもな)、ユキの事をどうしても鷹木に聞く必要があったんだ。


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ターニングポイント

【夏目カイトside】

「なあ、ユキ… いったいどうしちゃったんだよ お前昨日も昼飯食ってネーじゃん」
昼休みと同時に教室を出て行くユキの後を追う。

「ユキ!聞こえねーのかよ!」
腕を掴んだ。
その腕の細さに一瞬ギクリとする。
(ユキ また痩せた?)

「図書館で勉強するんだ… 食べたかったら適当に食べるし カイトこそ購買も学食も閉まっちゃうよ?」

無表情。

4月になり、2年に上がって、新しい教室にきてからユキはずっとこうだ。
笑うでも、悲しむでも、怒るでもなく… 
会話も実に事務的、オレに対してもそんな調子で……

「なあ…勉強なんかいいじゃん ユキ頭良いんだしさ… 今日一緒に行こうぜ?な?」
ユキが腕を掴むオレの腕に目をやる。
一瞬、不快そうにユキの眉がゆがんで、オレは慌ててその腕を解放した。

「カイト、気を使ってくれてありがとう でも行くね」
「お前の姉ちゃん心配してたぞ! お前家帰ってから、あんまり物食わないって…話しもしないって…お前、どうしちゃったんだよ!」

廊下には何人かの生徒がいてそれも分かってたけど、大声で言わずにはいられない。
ユキに久しぶりに再会して、オレは絶対恨み言の集中砲火を浴びるか、それともシカトされるかどっちかだと思っていた。

それがなんだ?
ユキの態度は、まるでまわりを遮断しているかのように、無気力で無感情だ…

「ねえカイト… カイトは、サクに会ったんだ?」
「え? ああ… 昨日帰りにばったりさ… オレ怒られちゃった」
怒られたというより… 町中でおもいっきりひっぱたかれた。

オレが病院へも鷹木の家にも行かなかった事。

ユキの入院を知ったあと、ユキの携帯になんの連絡も入れなかった事。

会いたかった… オレだって… でもどうしてもアサヒの事を思うとそれが出来なくて…

「サクは心配しすぎなんだ… カイト、僕ね 先輩と同じ大学目指す事にしたから…だからあんまり遊んでもいられないんだよ」
「は? …? なんだよ突然」
「突然て全然遅いくらいだよ…もう僕たち2年なんだから 先の事は目標を持って考えないと」
まるで鷹木の言う言葉を聞いているようだ。

「そうじゃなくて! なんでいきなり鷹木と同じ大学なんだよ!ユキ、とりあえずって適当なとこ志望出してたじゃん!」

「関係ないよ!」

ここで初めてユキの語気が鋭くなる。
しかもキッと睨まれ、初めて見るような冷たいユキの視線に、オレは一瞬息を飲んでしまった。
「カイトにもサクにも全く関係ないし、何か言われる筋合いなんて無い!」
「ちょっと待てよ…! オレはともかく姉ちゃんが関係ないって事はねーんじゃネーの?!」
さすがにカチンときて、おもわず言い返さずにはいられない。

「僕は…」

「…僕はもう鷹木先輩しか信じられない…」

「え?」


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やっぱり会えない

【夏目カイトside】

本当はこのまま学校を抜け出して今すぐにでもユキの入院する病院へ行きたかった。
講堂に座らせられて、理事長だの校長だのの退屈な、あいつらの自己満足みたいな下らない演説を聞かされるくらいなら13:00まで会えなくても、ユキが息をしている同じ場所で待っている方がずっといい。
でもそれは、ユキの変装をしたユキの姉、サクに厳しく止められ…
なんだかユキにそう咎められたような気持ちになって、渋々午前中の終了式に参加した。

12:30

今学期最後のHRを終えてオレは教室を飛び出した。
慌てて走ったので、何人かの男子生徒にぶつかりゴメンゴメンと片手で謝りながら廊下を走る。

ユキに会える
ユキに会える
ユキに会える

会ったらなんて言おう…?

まあいいや そんな事会ってから考えればいいんだ!


「カイト!!!」

悲痛な、半分泣いているんじゃないかと思うような叫び声に驚いて、足を止め思わず振り返る。
オレを追いかけて来たのか?

ぜーぜーと肩で息をするアサヒがそこに立ってた。

「どこ…行くんだよ? 今日バスケ休みだろ? なんで…オレを置いてくんだよ」

まただ。

アサヒを構うとろくな事が無い。ましてや今は少しの時間も惜しいっていうのに

「なあ… いい加減にしてくれよ…アサヒ もうガキじゃねーんだ いちいちお前のお守りなんかしたくねーんだよ…」
もう解放してくんないかな
早く電車に乗らないと、くそ、もう5分もたっちまったじゃんか!

「カイト… お前 よくもオレにそんな事が」

これだ…

「大体な、アサヒ… お前いったいどういうつもりなんだよ! いきなりユキを殴ったり、わざわざ転校してきたり、キスしろキスしろってせがんだり! そりゃさ言われたからってお前にキスしたのはオレだって悪いけど、お前のせいでオレとユキがどんなに迷惑かけられたか分かってんのかよ!」

そう言って、もうアサヒは無視してオレは行くつもりだった。
どうせまた、ヒステリックに悪態をつき始めるのは分かってる。
そんなのにつき合っていたら、オレはいつまでたってもユキの元へは行けないんだから…

でもまさか

「… アサヒ?…」

あいつが泣き出すとは思ってもみないことで

「なんだよ なに泣いてんだよ… 泣く事ないだろ」

アサヒは仁王立ちのまま、目から大粒の涙をぼろぼろこぼしてる。
それでもオレは、アサヒのそばに行ってなだめるなんて気持ちは無かったのだけど…

「………… くせに…」
「なんだ?」


「カイトは… オレの兄ちゃんを殺したくせに… なんでそんな事が オレに…言えるんだよ」


「え……………」

「毎日毎日ユキユキユキユキ!!あんな、何にでも恵まれてるような奴!…ミナト兄ちゃんは?!兄ちゃんをお前に殺されたオレの事は?! なんで…なんでオレばっかりこんな暗い所に置き去りにされなきゃなんないんだよ!!!」

ミナト…
木島湊斗… オレを庇って死んだアサヒのたった一人の兄貴…

アサヒがオレの前で崩れ落ちるようにして、うずくまり、そして泣いている。

オレはそんなアサヒに触れる事も出来ず、呆然とそのアサヒを見下ろしている。

そういえばそうだ…
オレはこんな、少女マンガみたいな恋をしていい奴なんだっけ?
オレは幸せになんてなって良い奴なんだっけ?

浮かれて、見失って、なんかオレは大事な事を忘れているのではないだろうか?

ぎこちなくアサヒの肩に手を置く…
「ごめん」
ふと口からついた言葉… 

ユキ やっぱりオレは… ユキに会えないよ…
オレはサクにもらった病院のメモを、制服のポケットの中でぐしゃぐしゃに丸めた。


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例え最後の告白になっても

【夏目カイトside】

「ユキが…そう言ったの? オレと別れたいって」

「え?…」

もしもユキが、オレなんかもう見たくもない、消えろっていうのならオレは黙ってその望みを叶えるだろう。

それでユキがもう傷つかなくてすむのなら、笑っていられるのならオレはこの街から出て行ったっていいんだ(情けない話、またあの女のスネをかじる事にはなるだろうけど…)…

きっと辛いだろうな

身を裂かれる程…苦しいだろうな

でも、何も聞かないまま終わりにするのだけは嫌だ…
ユキの気持ちを知らないまま、オレが勝手に決めてしまう事だけは絶対に嫌だ……!

あの日、ユキが熱を出して一夜を明かした時、ユキの手につながれていたのはオレの腕だったはずだ…
その手をオレから離してしまうなんてしたくない!

「じゃあ 会ってみる?」

サクが胸のポケットから取り出した生徒手帳を一枚やぶり、ペンで何かを書いたものをオレに渡す。

「これ」
「病院の名前と、部屋のナンバー。 面会は13:00からだよ」
「オレが会いに行ってもいいの?」
「もう大分落ち着いたから… ううん 本当は会って欲しくて呼んだんだから! 良かった…ユキを拒絶されなくてさ」 

疲れたようなほっとしたように目を閉じる… その憂うような表情が記憶の中のユキとダブった。

『拒絶』

それをされる可能性があるとしたらオレの方だろう。
でも今はそんな事を心配してる場合じゃない!
ユキに会えるんだ!
ユキと話せるんだ!
目の前の薄暗いモヤが消えてその先にこの空の青が広がるように オレの心に生気が戻ってくるのがわかる。

出て行けといわれても、また大嫌いだといわれても

オレはオレがユキを好きだという事を伝えよう…

この世で一番ユキが大切だという事を伝えよう…

たとえそれが、オレがユキに対する最後の告白になってしまったとしても…


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愛する事、守る事

【夏目カイトside】

青を背に… 哀しげに笑って«ユキ»が目を伏せる。
風が吹いてユキの黒髪を揺らすとその唇から初めて言葉がこぼれた…

黒髪?

「分かんないんだ? …鷹木センパイはさ どんな格好したって見分けるんだけどなあ」

その声は、オレの知ってるユキよりワントーン高く……

そしてもう一度、今度は快活な笑みでオレを見据えた。

「しょうがないよね〜? あたしユキの声色得意なのよ! 髪もほら切っちゃったし」
「サク… 様…」
「はは やめてよ〜 今、お互いちゃらけたい気分でも無いじゃない?… ごめんね 騙したくて来たわけじゃないんだ」

そこに立っているのはユキの双子の姉で、«柏原サク» …そう気付けば、ユキはもう少し背も高く、髪はもっと栗色で、顎のあたりもユキの方が若干ほっそりとしていたかもしれない…
勿論態度に違和感はあったが、同じ顔、見た目同じ体格に制服、ユキの声色…
それでもあいつは、二人を見分けるのか?
二人? 違う あいつはユキを見てるんだ………!

「なによ 怖い顔しちゃってさ〜 …ユキがね、どうしても終了式出たいって言って… でもとてもそんな状態じゃなくて どうせあたしの高校は明日だから、代わりに来てやったってわけよ」

ユキの名を聞き、激しい嫉妬から我に帰る。
「ユキは…! 入院してるって聞いて…大丈夫なの? まさかまた…」

「ううん 違うんだ… 食べ物がね全然受け付けなくなっちゃって 貧血と脱水症で倒れて入院してずっーと点滴…」

なんだか最悪な事まで想像していたりもしていたのでそれを聞いて一先ず安心した。
でも…

「オレ… ユキの前で他の男とキスしちゃって… ユキの事傷つけた」

ふう、とため息をついてサクが空を見上げる。

獲物を見定めているのか、鳶が空を大きく旋回しながら飛んでいる。  

「弱いと思うのよ?あたしだって… その位で自分のコントロール見失っちゃうんだもん… 相手への怒りより自分を責めて責めて… 普通ならすぐ浮上するんだろうけど、でもユキはまだ傷が…治ってないのよ」

いつかそんな事を鷹木が言っていたような気がする。
オレは自責の念にかられて言葉が出てこない…

「あたしは家族だからユキを守ってやる事しかできないんだ… 刃物を隠したり、手を握ったり、ユキにあんな事させた相手を殴ったりね…  それで救われなかったユキを…あの人は救ってくれた」

どうして…

「愛するって事なのかな… 本当に愛するって守るだけじゃダメなんだと思う」

どうしてオレはもっと早くに
ユキに出会えなかったんだろう…

「鷹木センパイは、ユキが手首を切ってから優秀だった部活も辞めて、毎日ユキに会いに来た…学校に行けないユキに勉強を教えて、答えないユキと話をして、受験の忙しいときもそれが終わってからも…あたしは他人のあの人がどうしてユキにそこまでするのか不思議で仕方なかった」

でも
出会ったところで

「ねえ カイト君… 自信が無いならユキの事は忘れた方が良いと思う… 今回はユキの心の問題で君のせいじゃないし… あたしもユキには君との恋愛は荷が重いと思うんだ」

でも
オレは………!


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青を背に

【夏目カイトside】

アサヒはやっとのことでユキの手を胸ぐらから放させる事に成功し、怒りに肩を震わせてキッとユキを睨みつけた。

「てめえ…」

もう教室で猫をかぶるのを忘れてしまったように、今にもいつもの悪態を吐きユキに飛びかかるのではという様子だった。
勿論そうなればアサヒを殴ってでも止めるつもりだったけど、ユキはユキでそんなアサヒを相手もしない体で『フン』と鼻で笑い、一瞬アサヒを睨み返したあとまたニヤリと不敵な笑いをして今度はオレの方へ向かってきた。

「おいっ!待てよっ 柏原!」

その背にアサヒが怒鳴り、教室の熱が一気に引いた。

「どーぞ?かかって来いよ お前がここで出来るっていうならね」
「っ!!!」

「おい!夏目」
突然ユキに名前を、それを慣れない名字で呼ばれてきょとんとしてしまう。

「お前ちょっと顔かせよ」
「あ、ああ… でももうじきHR始まるけど」
これはかなりオレらしくない… 朝のHRなんてどっかでサボってる事が多いから…

「なんだよ!終了式に間に合えばいいだろ?」
「は、はい!」

そりゃユキが望むならオレは、式だってどうだっていいんだけど

子供が先生にするような返事をして、先導するユキの後を家来のようについていく。

「カイト!!」
怒りと動揺が入り交じったような声で、アサヒがオレを呼び止めたがオレは振り向きもしなかった。

今のオレにユキに逆らうなんて気持ちは微塵もなかったし
なによりユキが学校に来てくれた喜びの方が、この異様なユキに対する戸惑いよりも大きかったのかもしれない。 


階段を上がるだけ上がり、屋上へ向かう。

海からの蒸気なのか、朝は晴れていてもモヤがかかる事が多い空も、この日はそれ全体を覆い尽くす青で雲一つ無かった。
その青を背にユキが立ち、改めてオレに振り向いた。

なんだかオレの言葉を待つかのように、ただだまってオレをじっと見ている。

「ユキ … もう身体は大丈夫なのか?」
本当はすぐにそばにいって抱きしめたいのにそれが出来ない。
今のオレとユキの間には、いい知れない距離みたいな物があった…

「ユキ … 怒ってるんだろ? オレ 謝りたいんだ… ゆるしてくれなくても」
ユキは表情も変えず、言葉も発さない。

「頼むよ… なんとか言ってくれよ ユキ…」

ああ、ほとんど哀願だ…
昔のオレを知ってる奴らがこんな情景を見たらそりゃ驚くだろうなあ…
昔のオレが今のオレを見たらオレは自分に殺されるかもしれない。
涙目で、好きな相手のただ言葉が欲しくて、たった一歩も踏み出せずに…こんなに切なくなってるなんて

「ユキ…」

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「ただいま…」 黒いユキが帰還する

【夏目カイトside】

なにも手がつけられない。普段から退屈な授業は勿論、バスケにも、会話にも、物を食っても味すら分からない。

一日中ユキの事を考えて、鷹木に何を言われたってやっぱり会いたくて…触れたくて
やっぱりオレはユキが好きで好きで仕方が無いって自覚させられる。
いっそ目の前で、嫌いだ不潔だとなじってくれた方がまだマシだ。

こんなに誰かを好きになった事なんて無い。
今までさんざん他人に迷惑をかけて傷付けて、ただイキガって生きてたようなオレが
誰かを恋しくて、どうしようもなくなるなんて思ってもみなかった。

(ユキ…) 

そんなオレの思いが通じたのか、それともユキを傷付けたオレに天罰が下ろうとしていたのか
ユキが
教室に現れた!

…それは3学期最後の日だった…

「柏原君! 大丈夫なの?」
まず扉近くにいた、若菜ら女子数人の声でオレはハッとしてそっちを見る!

ユキっ!!! 

「大丈夫だよ ありがとう 心配してくれてたんだね?うれしいよ」
「柏原君っshine」 
ユキ??
なんだか、いつもとは違う…堂々としたアイドル的笑顔を振りまいて、ユキが教室に入ってくる。
いつもはこう…気配を消しながら現れる感じなんだけど(逆にそれがオレには目についてしょうがないんだけど)

オレが立ち上がって、席に着いたユキにおずおずと話しかけようとした所で、まるでそれを遮るように草壁がユキに抱きついた!いや…抱きつこうとした…

「柏原ー!!heart01会いたかっ…っ」
草壁っ てめっannoy

ゴッ…

思わずオレが手を出しそうになった瞬間、鈍い音と共に草壁の身体が宙に浮いたっ!!
ゆっくりとユキの足下に沈む草壁…
おおっと思わずうめくクラスメイト達…
「うっぜーんだよ… 軽々しくオレに触るな」
「か…柏 原… 今日はすごく…刺激的」
そう言い残し、落ちる草壁。
あ れ?あれれ?
ユ…ユキ?coldsweats01

「あの ユ…」
「おい… 今日は随分と威勢が良いじゃん? まだ熱でもあんじゃねーの?ひ弱な柏原君?」
今度はアサヒに遮られる。
ユキはオレには目もくれず、つかつかとアサヒの席の前に立った。

信じられない光景!

ユキがアサヒの胸ぐらを思い切り掴んで引き上げ、アサヒの机がガタンと大きな音をたてた。

「なっ…!! くそっ は な せっ!」
無理矢理立ち上がらされたアサヒが叫んだ。
ユキの手を振り払おうとするも、それが出来ずにいる。そのユキの細い腕を……

「誰がひ弱だって? あ? 木島お前さー こないだはよくもオレに鼻血ださせてくれたよな?この場でお前を同じ目に合わせてやってもいいんだぜ?」
さすがにアサヒが目を丸くする。
それはオレも、クラスの全員も同じだったと思うんだが…

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がっかりしたよ…

【夏目カイトside】

あいかわらず携帯はつながらない。
さすがに自宅まで押し掛けるのは気が引けて、何も出来ない…やりきれない気持ちのまま一日を過ごす。

放課後、ふと思い立ち2年の教室の階へ上がる。
鷹木晴彦はちょうど教室から出てきた所だった。

これから部活では無いのか、スクールバックだけを持って時計を見ながら足早にオレの方へ向かってくる。

「鷹木さん!」

声をかけなかったら気付かれなかったかもしれない。
いつもは冷静な鷹木は、なんだか焦っているように見えた。

「あ…」
オレを見るなり、怪訝そうな表情に変わる。

「ちょっといいスか? …あのユキの事で」
「なんだ?…」
「ユキずっと休んでて… 笹崎に聞いてもはっきり教えてくれなくて、鷹木さんなんか知らないかなと思って…」
鷹木は背後をチラリと見て、廊下の脇に寄る。つられてオレもそっちへ動いた。

「笹崎先生だろ… お前は目上の人に対する言葉遣いが全くなってないな」

はいはいわかったよ!!
そんな事より、ユキは…

「知ってるよ サクちゃんから連絡もらって… 昨日から入院してる」
えっ!!! ど、どっか悪いのかよっ それでどこの病院?!

「お前…」
冷ややかな視線だった。

取り乱しかけたこの時でさえ、オレは鷹木の冷たい表情にハッとする。

「夏目お前… それを聞いた所でどうするつもりだ?」

「どうって… ユキにオレ…会わないと」

謝らないと…

ちゃんと会って
伝えないと…

許してもらえないかもしれないけど

寂しいんだ ユキ…

…会いたいんだ…

「お前は、自分が満足したいだけなんだな」
「え……?」

「正直お前にはがっかりしたよ やっぱり…」

その整った切れ長の目を閉じて、もう一度開きオレを見据えた。

やっぱり、お前に柏原は渡せない

「!?」

鷹木晴彦は、最後にそう言って、そのままオレの脇を通り行ってしまった。
なんだよ…
なんなんだよ今更!
だって、あいつはユキを振ったんじゃないのかよ…!!

いや、今はそんな事より…!
オレどうしよう…
きっとオレのせいでユキが病気になっちゃったんだ!!

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修復不能だね

【夏目カイトside】

次の日も、そのまた次も次も、ユキは学校に来ない。
携帯は勿論通じないし、(電源が切られてるみたいだ)笹崎に聞いても体調が悪いとか毎日曖昧な返事しか帰ってこない。

「あのさーカイト こう毎日毎日、屍みたいにボケーっとすんのやめてくんね?気色悪イ」

放課後、アサヒに引きずられて行ったコーヒーショップ。

「…ユキが心配だ…」
「あーっannoy!!! またあいつの話かよ!『大キラーイ』って言われたんだろ?放っときゃいーんだ」

「なんで…あんなに怒ったんだろ?」
「あ?」
「だってキスだぜ?挨拶みたいなもんだろ?」

オレはまだ、ユキがあの時あんなに怒った理由が分かっていなかった。
オレの向かいに座ったアサヒが、目の前のカフェオレを一口飲んでからだるそうに椅子によりかかる。

「まあ、オレならテメーか相手をボコるね」
「なんだよ?!お前だってたかがキスだって言ったじゃねーかよ?!」
大体、キスしようって言ったのだってアサヒじゃんか!

「はあ…、カイトお前はさ ず〜っとだらしな〜い恋愛しかした事ねーからわかんねーのかも知んないけど…」

「なんだよ」

「お前、«柏原ユキ»が他の男とそういうのしてても平気なの?」

ユキはそんなフシダラナ奴じゃないっ!!

思わずオレは立ち上がって怒鳴る。
あきれ顔のアサヒが両手を下に振って、座れと促した。

「あ…あーあーそうか…」
「やっと自分の馬鹿さ加減に気付いたか… まあオレはぶち壊れてくれた方が良いんだけど」

血の気が一気に引いて頭を抱える。

「ユキ… オレの事好きだったんだって」

「そりゃそうじゃねーの?つき合ってんなら」

「オレ、鷹木が好きなんだろって言っちゃったんだ」

「修復不能だね」

「なんでお互い好き同士なのに別れなきゃいけないんだ」

「…知らねえ」

「オレ、ユキが好きだ」

バン!
椅子を蹴るようにアサヒが立ち上がって、店を出て行こうとする。

「おい」
「帰る!一生そこでグダってろ!!」


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廊下と直訴

【夏目カイトside】

まだ昼前の、校舎の廊下。
不本意にもオレは授業中、廊下へ立たされるはめになった。

しかも隣で一緒に立っているのが草壁ときた… 最悪。

「なんだよ 若菜の奴、せっかく柏原と楽しい一時を過ごせてたのに」

annoy…楽しかったのはテメーだけだろ?」

「お前もさ〜夏目、少しゆとりの心を養った方がいいぜ?ちょっとした事でカリカリカリカリ…もっと
おおらかに高校生活を送ろうぜ?」

annoyあ の な あ…テメーがオレのユキにちょっかい出したりするからだろっ」

「そうなんだよな〜 柏原の唯一理解出来ない所はお前とつき合うっていうセンスなんだよ でも恋
愛って自由だろ?多分柏原の気持ちはオレに傾きつつあるんじゃないかな?」

むかつくーbombこいつ、ホントにむかつくっ(オレのムカつきランキングベスト3入りだよっ)

こんな状況に至ったのは、ものの数分前の教室。

この草壁のヤローがテキストを忘れたからといって、隣のユキがそれを見せてやったのが事の始まり。
ユキから1人おいた斜め後ろのオレからの席からは、二人の様子がもっそよく見えた。
あいつは授業そっちのけで、嫌がるユキの手を握ったり、必要以上にユキに近づいて何か耳元で囁く…
時折青ざめたり、椅子が動く程ビクッとおののいたりしているユキの様子で言ってる内容も大体分かったけど、まさか今あいつを殴るわけにもいかず、とりあえずオレの絶妙なコントロールの元、机上の消しゴムやらボールペンやらを草壁に向かって投げつけてやった。

ぶつかった頭に手を当てて、何度かオレに振り向く草壁
でもまた懲りずにユキに話かける、もしくはジッと見つめる!!!
(あのやろーっ!!)
そして投げる物がなくなり、オレが隣の奴のペンケースを奪って投げつけようとした時だ。

「先生!! 夏目君と草壁君が授業に集中してません!!」

突然立ち上がった女子…若菜あさ美が教師に直訴…
(たしかこいつは昔ユキに猛アタックをしてた奴だ…こんな所で報復を受ける事になるとは…)

オレ達の席のまわりを確認した教師は、黙って廊下を指さした。

ユキが泣きそうな、心配そうな顔でこっちを見てる。
オレが逆らったりとでもすると思ったかな?
(平気平気、ちゃんと言う事をきくから)
オレはユキに笑って、大人しく草壁の後について廊下へ出たんだ。


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ユキの極めてBL的発言

夏目カイトside

気にいらない…
ユキの事…鷹木に言われなくたって分かってる!
大体あいつ、自分でユキを振って泣かせたくせに偉そうな事…!!

「………カイト なんか疲れてる?」

部活の帰り、ユキといつもの海沿いの歩道を歩く。
だいぶ日が延びて、海の向こうにはまだ、夕日が赤々と照らされていた。

「え、あ いや…疲れてねーよ」
「ずっと黙ってるから」
「そーだった? 悪ぃ…ちょっとボーッとしてたかも」
「ふーん… ねえカイト!」
ユキが突然ニコッと笑って、そしてハッとしたように辺りをキョロキョロ見回す。

「どうした?ユキ」
「カイトにプレゼントがあるんだ」

周囲に誰も居ないのを確認すると、もう一度眩しいような笑顔でオレを見上げる。

「え? なんで」
「なんでってカイトの誕生日じゃないか …恥ずかしくて学校では言えなかったけどさ」
そう言うとユキはうつむく。

耳まで真っ赤になっている。

「ああ… あ、そっか オレ忘れてた」

「あのね!どうしようかと色々考えて…多分カイトにはコレが一番いいんじゃないかと思って」

「オレには?」

なんかユキがもの凄く照れながらしゃべるもんだから、オレもだんだんドキドキしてきた。

「…カイトはコレが一番欲しいんじゃないかと思って…!!」

えっ?!

「でもごめん!! あの…僕初めてで なっ…なんかスゴく固くなっちゃって どうにもならなくて!!」

ええっ?!なにが?!

「はっ ゆ、ゆゆゆゆっユキ!! ま、まさか! 固いって…」
オレは混乱気味でユキの肩を掴んだ。

Xデー?!
きちゃった?!
しかも大.胆.発.言!!!heart04

「大丈夫だよ!ユキ! オレが今すぐどうにかshineしてやるから!!」

「…………は?」
「はって?」

ユキが首をかしげ、なんだか冷たくオレの両腕を振り払い、自分のスクールバックをごそごそと探る。

「はい! オレの生まれて初めての手作りチョコレート!」

うわああああああああああああっ!!!

「はははは…ありがとう ユキ……」

「わっ なに?!なんで泣くんだよカイト!!」
 

 

 

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高校男子の例外

夏目カイトside
 
チョコの数で張り合いたいわけじゃないけど、オレだって結構な数もらってんだぜ?
さすがに自分で収納袋を用意するほどじゃねーけどさgawk
まあ、女なんて、結局こいつみたいな真面目そ〜な奴が(真面目すぎて異常じゃねーのか?)好きってことなのか?

「鷹木さんさー ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんだ? お前と違って暇じゃないんだから下らない事は聞くなよ」
………annoyオレだって今から部活だよっ

「…… あんたさ 女に欲情する事とかねーの?」

だって謎だろ?!
高校男子だぜ?!
いくらこいつだってエロい事の一つや二つ…

無い……馬鹿が……」

「なっ 無いのか?!!sweat02

鷹木は露骨な感じで嫌そうに目を細めてオレを見ると、背を向けて立ち去ろうとした。
立ち去ろうとして、また少しだけ振り返る。

「夏目!」
「なんだよっ」

「柏原を、ちゃんと見ててやってくれ」

「あ?」
「あいつは…自分が辛いときでもそれを隠す」
「………」

「傷は癒えてない… 柏原を好きなら、出来るだろ?」

なんだよそれ…

まるでユキの事をすべて分かってるみたいに

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2月14日の話

夏目カイトside

それは2月14日の放課後。
いつものようにユキと帰りの待ち合わせをして(毎日やや強引に待たせてるんだけど…だって少しでも一緒に居たいし!)、部の更衣室を出て、第二体育館へ向かう。

風が冷たい。
猫背で走って行く途中で、オレの目に否応無しに飛び込んできたのは、正面から歩いてくる«鷹木晴彦»。
今から部室連へ向かう途中だろうが… なぜか両手に大きな紙袋を重そうに下げている。

あいつもオレに気付いて、視線がぶつかる。

が…

鷹木はまるでオレに興味など無いとでもいうように、視線を外し…そのまますれ違う。

「うおいっannoy!!! まるで無視かよっ!!」
その態度があまりにイラッときたので、思わずつっこんでしまった。(手のアクションまで付けてしまった)

「……… なにか用か?」
その鷹木は振り返り、無表情でオレを見る。

「無視はねーだろっ! 感じ悪いな! せめてメンチのひとつも切れよ」
「……メンチ?なんだそれは?…揚げ物の話か?」
むかつくっ〜!!
だから賢い奴は嫌なんだよっ…っと…ふと鷹木の持つ紙袋が目に入る。
中から色とりどりの箱が溢れている。
「なに持ってんだよ? それ」

「ああ、チョコレートだろ。今日はバレンタインだからな」

なにっ!!!

「そ、それ全部、アンタの?」
「オレの下駄箱やら机やらロッカーやらに詰まってるんだ… 直接渡される物は断るんだが」
詰まる………。
「で… 紙袋持参かよ」
「毎年の事だからな 学校で捨てるわけにもいかないし… 分かってる事なんだから準備をするのは当然だろう?」
自慢するような言い回しは全く無く、表情も変えず淡々と答える。

ああ… ユキの奴…こんな男の何処がいいんだろう。 

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ショックだ…

夏目カイトside

生まれて初めて根暗って言われた…………
ユキは似合うって言ってくれたけど、やっぱりこの黒い髪のせいなのか??
アサヒにも、部活中つきまとってくる女子にも、うちのババーや妹にもさんざんな言われようだったし…

でもユキは似合うって…………!

「父さん、カイトはずっと僕を看病してくれてたんだよ」

ユキが昨日からの状況を説明して、やっとおやじは納得してくれた。

「ユキすまん! パパ昨日は遅くてユキの顔見ないで寝ちゃって」
「…いいよ それよりカイトにタクシーのお金払ってくれないかなあ カイト僕を家まで連れてきてくれたんだよ」
「カイト君!!!アリガトウ!!!」
「う わっ」
ユキの親父が今度は号泣しながらオレに激しく抱きついてきた!

ああ…………1日に2度もオレの美学にそぐわない抱擁をしてしまった………
大体(オレの)ユキの何処に、この熊みたいなおっさんの遺伝子が受け継がれているのか…

こんなに愛されてるのに

逆にオレなんてさ
虫酸が走るほどむかつくあの女と顔そっくりなんだぜ?

おかしな話、しかもあの女最近は電話もしてこねー 別にいいけど。

「あの…お父様 根暗って ひょっとして僕…ですか?」
食事の支度に部屋を出ようとした、ユキ父に聞いてみる。

「ははははっ! 気にするな 真面目な青年って言いたかったんだ! あんまり勉強ばっかりするなよ〜 彼女出来んぞ!はははははっ!」
!!!
「カ…カイト?どうしたの?」

ショックだ…

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父、カイトに一撃をはなつ

夏目カイトside

トイレの前で抱き合ったのは、身長180は超えるオレと…パっと見レスラーのようなひげ面の屈強そうなおやじ……

ぎゃあああああああっ お前誰だっ?!オレの家のトイレで何をしてるっ?!

相撲のような張り手で突きとばされる。
間髪いれずにボディーへのコンボを入れられそうになるのを、腕で3回ガードした。(マジでレスラーかよっ)

「おのれっ貴様annoy!!」
「あ、ハハハ お父様?ですよね あのオレ、ユキ君の友達で」

わりとオレの方が事態を冷静に受け止められたみたいだ…(ほら今気持ちが大きくなってるから)

それにしても…………

「ああっ!? お前にお父様呼ばわりされる筋合いはないわ!!」
「で、ですから オ…僕、夏目といいまして」
「はっ! ユキ?! ユキーユキー無事か?!ユキー

完全に取り乱した柏原父はそう叫びながらばたばたとユキの部屋に駆け込む。

完全に不審者扱いだ……

オレ、見た目そんなあやしくないと思うんだけど。

「ユキー!!!根暗そうな大男がっ!!!」
?!
大男はともかく…根暗そうって? 誰のこと?

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父、登場!!

夏目カイトside

今までにこれ以上の辛抱はした事がないんじゃないかと思うほどの、激しい苦痛の一夜…
眠るユキの隣で身もだえながら一睡も出来ず(…徹夜はどうって事はないのだが)朝になってしまった。

しかし…

むなしい……

空いた片手で始末しようとも思ったが、無防備で眠るユキを見ると…この部屋で勝手にそんな事をするって方が罪深いような気がして、出来なかった。
(しかもこっちの手でユキの熱とか計らなきゃならないし)

明け方にやっと腕をユキに解放されて、そっと部屋を出て、慌ててトイレに入り腰を折る。

「うっ ああ… くそ」

ようやく解放されたのに、情けない自分の様を思い出してなんか涙目になってしまった。
こんな姿は絶対誰にも見せられない!
特にアサヒなんかにはどう罵倒される事か

それでも終わった後は大草原に立つような清々しい気持ちになり、ホッとしてトイレのドアを開ける。

けれど開けた瞬間に、本当の地獄は訪れた…………

ユッキちゃ〜ん!!!! おっはよ〜!!!♡♡♡」

なっ何っ?!!

オレは突然、ひげ面のマッチョなおっさんに抱きしめられたんだ!!!

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耐え忍ぶ

夏目カイトside

理性と本能との壮絶きわまりないバトルに苦しむオレを知る由もなく…(知られてもこまるのだが)薬を飲むとユキはそのまま眠ってしまった。
辛そうなユキの表情が、またバカなオレの妄想をかき立てる。

不潔っ!!!!!

その妄想の中でユキにそう叫ばれた気がして、ハッとする…

不潔………………weep

ほぼ痛みみたいになってきて、たまらずトイレをかりてその場をしのごうと立ち上がろうとした…が、ユキがいつのまにかオレの腕をつかんで離さない。

上下に振る。

横に振る。

上下左右に激しく振る!

離してくれない………(ユキの奴ホントに寝てるのか?)

その時、ユキの左手首の裏が目に入った。
前にも見た幾筋にも走る痛々しい傷……

『お前にオレと柏原の何が分かる』

あの時そう言った鷹木は、ユキがこの傷をつくった時、ユキを全身全霊で守ったんだってさ。
なのにあいつはユキを拒絶した。
なんでだ?
なんで…って オレが気に病む話じゃないけど

ユキの中の、清廉潔白な鷹木晴彦と
ユキの隣で欲情してる、みっともないオレ…

オレは、それでも萎えない自分に重いため息をついた。

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ユキの背中

夏目カイトside

「… 行かねーよ お前が寝るまでちゃんと看てるからさ」
潤んだ大きな目で、ユキがオレを見つめる。
わかってる
こんな事ユキがいうのは、熱のせいだってこと

なあ、今日だって
鷹木と逢ってたんだろ?

「ほんと?」
「ほんと。 ほら、オレに脱がされるのが嫌なら自分で着替えろ」
「……うん」
安心したのかユキがにわかに微笑む。

ベッドの上には奇麗にたたんであるパジャマがあって、手を伸ばしたユキにわたす。

上体を起こしてシャツを脱ぐユキ。

男のくせに色白で、キメの細かい奇麗な背中…それでいて骨格や筋肉のつくりはやや華奢ながらも女のそれとは全く別のもので…
時折聞こえる、ユキの辛いような深い息づかいが…オレの胸や…その、下の部分に強くズクンズクンと脈打つような感覚を覚えさせる。

実際、男の裸なんて何人も見たし、経験もして慣れてるはずなのに、今は理性がふっとびそうでとても正視が出来ない。

結ばれたい相手がこんなに側に居て

嫉妬のような言葉を囁いて

ましてやオレの前で裸同然の姿でいる。

今すぐ強く抱きしめて、深いキスをして、そのままオレの欲望を何度もユキに刻み付けてオレだけのものにしたい!

けどそれを必死で耐えるのは
ユキがまだ、«あいつ»を好きだからなんだ…


 

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木島湊斗の話2

夏目カイトside

点々と街灯が照らすだけの真っ暗な道を歩いた。
泣きじゃくるアサヒの手を引いて…
ミナトさんの死を確認した病院からの帰り道…

刺したのはオレを付け狙ってた奴だった。
警察に向かえにきたミナトさんとバカなオレ